Twitterで話題になった北村一真さん作成の英語クイズで文法知識&読解力を高める本連載。第8回は提示された英文の中に登場するto不定詞句の用法を選択する問題です。
Did you ever hear of such a discouraging series of events? It isn’t the big troubles in life that require character. Anybody can rise to a crisis and face a crushing tragedy with courage, but to meet the petty hazards of the day with a laugh—I really think that requires spirit.
―Jean Webster: Daddy-Long-Legs
文脈:日本でも児童文学として親しまれている『あしながおじさん』の原文から。本作は孤児院で育った少女ジュディが毎月手紙を書くことを条件に資産家から奨学金を受けて大学に通うという内容で、ジュディが「あしながおじさん」に向けて書いている手紙文がそのまま物語の本文となっています。今回引用したのは、トラブル続きだった一日について、ジュディが愚痴のようなものを語っている箇所です。
下線部のto不定詞句は次のうちどの用法?
(1) 名詞用法
(2) 形容詞用法
(3) 副詞用法
(4) いずれでもない
単語・語句
- discouraging:「落胆させる、やる気をそぐような」
- character:「優れた人格、品性」
- rise to…:「(要求、問題などに)対処する」
- crushing:「壊滅的な、痛烈な」
- petty:「ささいな、つまらない」
ヒント
ダッシュ(―)の意味と後ろに続く構造とのつながりをよく考えよう。
つまずきポイント
後に、I really think…とSVの形が続くことから、副詞用法と考えてしまう人もいるかも。
「文脈」で説明した内容をしっかりとおさえておくと、第1文のニュアンスも理解しやすいと思います。上でも述べた通りここはジュディがトラブル続きだった一日を描写している箇所であり、直前までに述べてきた具体的なトラブルを受けて、「こんなに次々にがっかりさせるような出来事が起こるなんて聞いたことがありますか」と問いかけている形です。
第2文の理解が今回の問題文全体の理解に大きく影響します。まずは、形からit is … that ~の典型的な強調構文(分裂文)だと判断しましょう。このタイプの文は、that以下で示唆されている問いに対して答えを提示するような意味になるのが特徴です。具体例を見てみましょう。
It was John that broke the window.「窓を割ったのはジョンだ」
→「窓を割ったのは誰か」という問いに「ジョンである」という答えを提示している
今回の場合はrequires character「優れた人格を必要とする」のがどういうものかという問いについて、それはbig troubles in life「人生における大きな困難」ではない、とまず問いの答えとはならないものを示しています。とすると、この後に問いの答えとなるものの説明があるはずであり、そのことを念頭に置きつつ読み進めるのがポイントです。
続く第3文の前半はその問いの答えを示す形になっているでしょうか。実は前半ではまだその答えは出てきません。Anybody can rise to a crisis…「誰でも危機的状況には…対処できる」という冒頭から、第2文で答えではないものとして述べられていた「優れた人格」を必要としない「大きな困難」の話が続いていることを読み取ることが重要です。実際、この前半部は第2文の内容を補強するような役割をしています。
続いて、接続詞butの後の後半部に進みましょう。上のような流れでこの英文を読んできた人であれば、下線部to meet the petty hazards of the day with a laughが前半のrise to a crisis and face a crushing tragedy with courage と対をなし、さらに、その中でもthe petty hazards of the day「日々のささいな厄介ごと」の部分が第2文のthe big troubles in lifeと対をなすものとして用いられていることを読み取るのは難しくないはずです。トラブル続きだった一日に文句を言っているという文脈から考えても、おそらくは、この部分が「優れた人格を必要とする」のがどういうものかという問いに対する答えとなるのではないか、というところまで予想できるかもしれません。そこまで読めていれば、後は簡単です。
ダッシュ(―)の後に続く部分で、requires spiritが第2文のrequire characterとほぼ同義で用いられていることは明白です。つまり、ダッシュ(―)以下のI really think that requires spirit「私はそれこそが気迫を必要とすると本当に思う」の部分こそ、第2文から問題となっていた「優れた人格を必要とするのはどういうものか」という問いにはっきりと答える形となっているということです。とすると、問いに対する答えであるthat「それこそ」は、問いの答えではないthe big troubles in lifeと対をなし、かつ、ジュディの愚痴のテーマでもあるthe petty hazards of the dayを指すものであると考えると最も自然な解釈となります。ただし、thatは単数の指示代名詞なので、the petty hazardsという複数名詞を受けることは通常はできません。そこで、thatが受けるのはthe petty hazardsだけでなく、to meet the petty hazards of the day with a laughという下線部全体であるという解釈に至ることになります。結論として、下線部のto不定詞句は、that requires spiritという節の主語を構成する指示代名詞thatで言い換えられているということから、名詞用法であると判断できます。
正解 (1)
訳例
こんなに落ち込むような出来事が次々に起こるなんて聞いたことありますか。優れた人格が必要になるのは人生における大きな困難じゃないです。危機的な状況やとんでもない悲劇には誰だって勇気をもって立ち向かえますもの。でも、日々のささいな厄介ごとを笑いながらこなすこと、それこそ精神力が必要なのだと私は本当に思います。
前回までのクイズはこちらから
難問クイズで文法知識と読解力を高める!
英語上級者になるための第一関門!
Twitterで話題を呼んだ英文法と英文解釈に関するクイズを書籍化。クイズ形式なので謎解きのように楽しめて、詳細な解説で上級者の視点が身に付きます。大学受験レベルの英文法を勉強してきた人が、見落としていた文法事項や用法に気付くことができるでしょう。難文に挑戦したい人向けの新感覚の学習書です。
SERIES連載
人と人をつなぐ言葉。人は言葉に喜び、また悲しみもします。そんな今だからこそ、自分でつむぐ言葉の意味をしっかりと理解し、世界とつながれることに幸せを感じられる人になる方法を、脳科学者・茂木健一郎さんと共に考えてみませんか。
「モッタイナイ」に「オモテナシ」。今、海を渡って世界で使われていると言われる日本語を、世界80カ国以上の現地在住日本人ライターやカメラマンの集団「海外書き人クラブ」が調査します。
連載「ニッポンのスラング採集記」では、マッコーリー大学講師で日本語の研究をしている言語学者のウェス・ロバートソン先生が、日本語のスラングや若者言葉のあれこれを英語で解説し、日本の文化について考察していきます。