作品紹介
17世紀から18世紀にかけて欧州は理性と秩序を重んじる啓蒙の時代を迎えました。芸術表現にも共通する潮流となりましたが、個人の主観や感性を重視するロマン主義の画家たちはこうした価値観に疑問を抱き、精神世界への関心を次第に強めていきます。光と陰のドラマチックな効果を生かすことで人の内面や精神性に迫り、さらには予測できない出来事への畏敬の念を絵画で表現しようとしました。
ロマン主義の先駆者、英国の画家ウィリアム・ブレイク(1757–1827年)は《アダムを裁く神》で自らの想像上の神に後光が差すような表現を取り入れ、その姿に威厳や権威を持たせました。人の内面性を描こうとする姿勢は、19世紀末に登場する象徴主義の画家たちの思想にも重なります。例えば英国のエドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ(1833–98年)は《愛と巡礼者》で光と陰による対比的な効果を用いて、作品に強い神秘性をもたらしました。
○ ウィリアム・ブレイク《アダムを裁く神》1795年 Photo: Tate
● エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ《愛と巡礼者》1896-97年 Photo: Tate
移りゆく自然の光のきらめきを瞬間的にとらえ、いかに芸術作品で表現するか。この難解なテーマへの挑戦に多くの画家たちは魅せられてきました。「光の画家」と呼ばれる英国のジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775–1851年)が描く光は明確な輪郭線を持たず、ぼんやりとしていて周囲の自然に溶け込んでいます。これに対し、同時代に活躍したライバルのジョン・コンスタブル(1776–1837年)は、卓越した画力と構成力によって自然の風景を描き出すことを追求しました。《ハリッジ灯台》は大空で移りゆく雲や大気の様子などが作品の面積のほとんどを占め、光の加減とともに雲が変化する様子を細密に描写しています。変化する自然の風景をとらえようとする姿勢は、後の印象派へと連なっていきます。
○ ジョン・コンスタブル《ハリッジ灯台》1820年出品? Photo: Tate
18世紀後半に始まった産業革命により、欧州では交通網が発達。19世紀半ば以降、都市を活動の拠点にしていた多くの画家たちが自然風景を描く機会を得て、自然の光をどのようにカンヴァス上に再現するかがテーマになりました。神話や聖書といった従来のテーマから離れ、目に見える現実の世界を描こうとする機運が高まります。
自然の光を捉えようとするコンスタブルの手法は、航海の経験を積んだ英国出身のジョン・ブレット(1831–1902年)の《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》にもつながります。フランス印象派のクロード・モネ(1840–1926年)の《エプト川のポプラ並木》では光のきらめきが周囲と溶け合う様子が見て取れます。米国出身で、ロンドンで活躍したジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー(1834–1903年)も《ペールオレンジと緑の黄昏—バルパライソ》で空に浮かぶ雲や海を主題に、光に照らされたときの色の繊細な移り変わりを再現しました。
現代を代表する作家の一人、草間彌生による《去ってゆく冬》では鏡が素材として用いられ、光の反射や屈折の効果を特徴としています。こうした光の表現は自らの精神世界を見つめる作家の創造において重要な意味を持っています。
○ ジョン・ブレット《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》1871年Photo: Tate
● ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー《ペールオレンジと緑の黄昏—バルパライソ》1866年 Photo: Tate
○ クロード・モネ《エプト川のポプラ並木》1891年 Photo: Tate
○ 草間彌生《去ってゆく冬》2005年(※写真は作品の内部)© YAYOI KUSAMA
都市の近代化がさらに進んだ19世紀末からは、室内というプライベート空間をどう描くかにアーティストたちの関心は広がりました。窓から入ってくる光の効果などを作品に取り入れることで、人同士の心のつながりや、個人の内面を鮮やかに映し出そうとする試みが相次ぎました。
英国のウィリアム・ローゼンスタイン(1872–1945年)の《母と子》は親子の何げない日常を描いた作品ですが、2人の親密な関係性を裏付けるために柔らかな光を用いています。これとは対照的に、デンマークの画家ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864–1916年)の《室内》は暗めの色づかいに統一しており、淡い光を効果的に描くことで室内の静けさ、空気の冷たさなどの感覚を観る人に与えています。
ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》1899年 Photo: Tate
○ ウィリアム・ローゼンスタイン《母と子》1903年 Photo: Tate
○ ルイジ・ヴェロネージ《写真 n.145》1940年制作、1970年代にプリント Photo: Tate, © SIAE, Roma & JASPAR, Tokyo, 2023 C4183
○ モホイ=ナジ・ラースロー《K VII》1922年Photo: Tate
○ ワシリー・カンディンスキー《スウィング》1925年Photo: Tate
○● マーク・ロスコ《黒の上の薄い赤》1957年Photo: Tate, © 1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko / ARS, New York / JASPAR, Tokyo C4183
○ ブリジット・ライリー《ナタラージャ》1993年Photo: Tate,© Bridget Riley 2023-2024. All rights reserved.
○ デイヴィッド・バチェラー《ブリック・レーンのスペクトル 2》 2007年 Photo: Tate, © David Batchelor
○ ダン・フレイヴィン《ウラジーミル・タトリンのための「モニュメント」》 1966–69年Photo: Tate, © 2023 Stephen Flavin/ ARS, New York/JASPAR, Tokyo C4183
○ ピーター・セッジリー《カラーサイクル III》 1970年Photo: Tate, © Peter Sedgley, courtesy of The Redfern Gallery, London
○● ジュリアン・オピー《トラック、鳥、風》2000年Photo: Tate
○ オラファー・エリアソン《星くずの素粒子》2014年Photo: Tate, © 2014 Olafur Eliasson
○ ジェームズ・タレル《レイマー、ブルー》 1969年© 2023 James Turrell. Photograph by Florian Holzherr.