障害者・高齢者施設で職員の優越的な立場を利用した虐待が道内でも毎年起きている。北海道新聞が道に情報公開請求した報告書を読み解くと、利用者の人権よりも施設の効率的な運営を優先する事業者がいることが分かる。新型コロナウイルス禍で入居者が家族と面会する機会が減る中、家族を支援する団体は「虐待と認定されるのは氷山の一角になっているのでは」と危惧している。
■コロナ禍の面会制限、表面化の妨げに
報告書で施設名は非開示だったが、これまでの取材から一部施設を特定した。
昨年12月に虐待が発覚した、オホーツク管内西興部村の障害者支援施設「清流の里」。報告書では食事を器からお盆にひっくり返して食べさせたり、口に食べ物を入れ続け、はき出すまで繰り返すといった虐待も判明した。
職員個人ではなく、組織として人権への配慮が欠ける事業者もあった。暴行を「愛のムチ、鉄拳制裁である」と正当化したのは、札幌市内の障害者就労支援施設の経営者。利用者の男性を殴る蹴るなどして、22年1月に暴行容疑で逮捕された。障害児を支援する道内の放課後デイサービスでは「統制、ルール作り」と称して「お尻たたき棒」を使い、子ども5人に身体的・心理的虐待を行っていた。
高齢者虐待では、入居者の命に関わるケースも。認知症の高齢者が入居するグループホームで21年7月、施設内の引き継ぎの不備で適切なケアプランが作成されず、入居者が血栓を発症して入院し「介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)」と認定された。入居者はその後死亡し、新型コロナ禍で施設の立ち入り調査はできなかったという。
北海道認知症の人を支える家族の会の西村敏子事務局長(74)は「家族は、施設に対して何か言うと施設を追い出されてしまうのではないかと不安に思い、虐待が疑われる場合でも、施設に言うのをためらうこともある」と指摘する。
コロナ禍で入居者が家族と面会できる機会が減り、問題が表面化しにくくなっていると強調。「積極的にオンライン会議システムでの面会を行う施設もあるが、施設間で格差がある」と課題を話した。(高野渡)
■虐待件数は全国で高止まり
国は法律に基づき、障害者や高齢者への虐待が疑われる場合の自治体への通報を求めている。2020年度に全国の障害者施設で確認された虐待件数は過去最多に上り、高齢者施設も近年は500~600件台で高止まりしている。
厚生労働省によると、20年度に障害者が施設職員から受けた虐待は全国632件(前年度比85件増)、被害者は890人(同156人増)でいずれも過去最多。道内は24件(同3件減)、43人(同4人減)。全国で虐待の内訳(複数回答)は「身体的虐待」が半数を占め、「心理的虐待」は4割に達した。
20年度の高齢者施設での虐待は全国595件(同49件減)、被害者は1232人(同172人増)だった。道内は14件(同6件減)、14人(同20人減)。全国で虐待の内訳(複数回答)は「身体的虐待」が4割と最も多かった。
虐待が疑われる場合、自治体は施設側に報告を求めるほか、職員への聞き取りや立ち入り調査を行う。虐待が認められれば、改善計画の作成や第三者委員会によるチェックを求める。指導に従わない施設には、福祉サービス事業者の指定を取り消すこともある。(村上辰徳)
■事例公表し教訓に
札幌学院大の松川敏道准教授(障害者福祉)の話 虐待は人間の尊厳を傷つける行為だ。職場環境に関係なく、決して許されるものではない。施設長などの責任者がリーダーシップを発揮し、現場の共通認識として徹底する必要がある。虐待防止のための教訓を共有するために、道や市町村、施設がどのように対応したのかわかる形で広く公表することを検討してほしい。
■現場教育を手厚く
星槎道都大の大島康雄准教授(社会福祉)の話 高齢者虐待が認知症の人に集中する理由として、介護を拒む「介護抵抗」など認知症特有の症状が現場で理解されていないことが挙げられる。仕事が大変で、定着率の低い職場では、現場での教育がうまくいっていない。現場に出る前の介護福祉士などの資格取得時に、座学だけでなく臨床の研修を手厚く行うべきだ。
2023年1月18日 09:00(1月18日 11:09更新)北海道新聞どうしん電子版より転載