登場人物全員INFP(?)の桃太郎

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おばあさんが洗濯をしていると大きな桃が流れてきました。
おばあさんはとりあえず桃を取ろうとしましたが、距離感を誤って桃を掴むことができず、桃はそのまま川下へ流れていきました。
ところがおばあさんは日頃から足を鍛えていたので、走って川下へ先回りしようと考えました。
今度は流れてくる桃を正面から受け止めたので、なんとか手に入れることができました。
ところが、桃には大きな穴が開いており、中は空洞になっていて、そこから川の水が入ってぐちゃぐちゃになっていました。
おばあさんは気落ちしながらもいちおう桃を家まで持って帰りました。
表面や内部のずぶ濡れになった部分も煮詰めればまだ食べられますし、被害が出ていない部分もある程度は残されているから決して無駄ではない、とおばあさんは考えました。
桃は傷むのが早いので、そのまま食べられる部分はジャムにして甕に貯蔵し、いろいろ駄目になっている部分は水がしっかり抜けるまで十分に煮詰めることにしました。
おばあさんが桃を加工している間にしばらくの時が経ちましたが、おじいさんはまだ帰ってきていません。
おそらく遭難してしまったのだろうとおばあさんは考えましたが、よくあることなのでとりあえず気長に待つことにしました。
そうして更にしばらく待っているとようやくおじいさんが帰ってきました。
おじいさんは山の中で遭難している赤ん坊を見つけて拾ってきたそうです。
おじいさんとおばあさんは赤ん坊を育てることにしましたが、二人とも名前を付けるのがとても苦手です。
とりあえず、おしりがかわいらしくてたまたま桃がそこにあって連想してしまったため、桃太郎と名づけることにしました。
おじいさんとおばあさんは桃太郎の自主性を重んじて、桃太郎の好きなようにさせる教育方針でした。
桃太郎はいつも山を探索していて、たびたび遭難していました。
おばあさんは、血が繋がっていなくても桃太郎はおじいさんと似ているかもしれない、とたびたび考えていました。
時は流れ、桃太郎は立派に成長しました。
桃があまり好みではなく、それどころか飽きていた桃太郎は自分の名前に不満がありましたが、それはそう考える自分に問題があると思っていました。
もし自分の知らない美味しい桃が見つけられたら桃嫌いを克服できる、そう考えて新種の桃を探してもいましたが、どうしても見つかりません。
たまに山を越えたりしていくつかの町で聞き込みをしているうちに鬼ヶ島の存在を知りました。
鬼ヶ島に悪い鬼が住んでいると噂されていましたが、桃太郎は自分が本当は人間ではないと気づいていたのできっと自分も人間から見ると鬼と大差ないだろうと考えました。それに、人間にも悪い人はたくさんいます。直接見てみないと人も鬼も良いか悪いかなんてわかりません。場合によっては桃太郎自身も悪とみなされるかもしれないので、評判については証拠がない限り保留しておこうと考えました。
ただ、鬼ヶ島には関心がありました。桃はもちろんのこと、いろんな食材に関心があったので直接行ってみたいと考えていました。
場合によっては泳いでいこうとも考えましたが、距離が長すぎたら危険なので無難に船を作って島に行こうと考えました。
頑丈な船を作るためにはそれなりにきちんとした工具や資材が必要です。
桃太郎は必要なものを買うためにこだわりのきびだんごを作り、それを売って資金を手に入れました。
きびだんごは桃太郎があちこちを回って良いと思った食材を厳選して製法にも創意工夫が為されていて、薬草や山菜なども取り入れ健康や相性を考えて細部にこだわった結果、幾分か前例のない品に仕上がっており、少数生産でしたが一部には評判でした。
軍資金を手に入れた桃太郎は船の作り方を独学で勉強しているときに猿と知り合いました。
その猿は桃太郎のきびだんごのうわさも知っており、船の技術の話でもたいそう盛り上がったため桃太郎と猿は意気投合し、一緒に船を作ることになりました。
桃太郎が船を完成させ、旅立ちの日を決めたとき、常連客の犬と雉も一緒についてくると申し出てきました。
彼らもきっと鬼ヶ島で新しいきびだんごが完成するかもしれないと期待していたのでしょう。
おじいさんとおばあさんは、桃太郎の冒険を応援し、桃太郎一行を快く見送ってくれました。
桃太郎一行はみんなで船を海まで運び、そこで船に乗り込みました。
ところが桃太郎はとても船酔いしやすい体質で、しかも方向音痴で、じっと船に乗っていると激しい眠気に耐えられなくてたびたび気を失うように眠りました。
海で彷徨ったら全滅してしまうので雉が飛んで鬼ヶ島を探し、何度も行き先を修正しながらなんとか辿り着きました。
雉は雉で長距離飛行の習慣があったのでどうにか事なきを得ました。桃太郎一行は出会いに感謝しました。
鬼ヶ島に到着すると、ひと目では鬼の生活の痕跡が見つけられず、まるで無人島のようでした。
面白そうな木や植物を探しながら、探検とキャンプを楽しみつつ島を探索していると、島の奥のほうにある森の中にひっそりと小屋が建っているのを見つけました。
おそらくそこに鬼が住んでいるだろうとは思いましたが、不用意に近づくと何が起こるかわからないのでとりあえず近づかないことにしました。
もっとも、桃太郎はもともと悪意に敏感であり、危ない場所では自動的に警戒心が強くなるため、そういう悪意を感じなかった以上はとりあえず小屋やそこに住んでいる鬼にそこまで警戒する必要はないかもしれない、と思っていました。
しかし、桃太郎一行が引き返そうとしたとき、小屋の中から鬼が出てきて声をかけてきました。
「何もしないから、ちょっと待ってほしい」
鬼は手ぶらで敵意も感じられず、嘘を吐いているような表情でもなかったので、一行は鬼と話をすることにしました。
本当は、よく見ると鬼は怯えて震えていました。むしろ桃太郎のほうが鬼を必要以上に不安にさせないように、鬼に対してかなり気を遣っていました。
話を聞く限り、鬼は生まれつき身体が弱く、暴力が嫌いで争いごとが苦手らしいのですが、病気がちだったために疫病の犯人に仕立て上げられ島流しになったということでした。
自分で病気についていろいろ調べて疫病と自分の体質が関係ないことはわかっても、人間にとっては疑いがある時点で鬼に問題があるとみなすのは当然のことであって、鬼は自分の濡れ衣を晴らすために人間に迷惑を掛けるわけにはいかないと考えたそうです。
それに、人間たちに悪意を向けられることが若干トラウマになっていました。
それでも桃太郎一行の前に鬼が姿を現したのは、わざわざ鬼ヶ島にやってきて遊んでいる彼らを遠目に見て興味を持ったからです。
それに、島での生活が長いため、鬼は犬を知りませんでした。
犬がとてもかわいく見えたのでもっと近くで見てみたかったのです。
桃太郎一行と鬼は話し合いの末に仲良くなり、鬼は犬と濃厚接触しとても嬉しそうでした。
鬼は桃太郎一行に感謝を示し、お礼にと自分の小屋に彼らを招待することにしました。
鬼の小屋の中に入ると、地下へと続く長い階段がありました。
どうやら階段ははるか昔に作られたものらしく、小屋は階段を覆うために後から作られたもののようです。
長い長い階段を下りていくと、床や壁や天井が見たこともない材質の人工物でできた空間に辿り着きました。
そこにはまったく使い方がわからない技術的に明らかに突出したさまざまなものがあり、おそらく歴史に遺されていない古代文明か何かなのではないかと桃太郎は考えました。
それからいろいろあって、桃太郎はいちど実家に帰り、おじいさんとおばあさんを連れてふたたび鬼ヶ島に戻ってきました。
地下の遺跡におじいさんとおばあさんはたいそう驚きましたが、見つけたのは桃太郎なのだから桃太郎の好きにすればいい、と桃太郎に言いました。
ただ、おじいさんとおばあさんもたいそう好奇心が旺盛であり、けっきょくは桃太郎一行や鬼とともに遺跡の探検と研究をすることになりました。
それからしばらくして、遺跡の研究によって医療技術の一部が復興され、鬼は疫病を解決する医者としてふたたび人間と関わることができるようになりました。
そして桃太郎や犬、猿、雉は、地下遺跡が祖先の故郷であることを知りました。
鬼ヶ島には、みだりに語ることが許されないあまりにも大きな秘密がありました。
実は鬼ヶ島は遥か宇宙からやってきた巨大な移民船であり、この星の原住民は鬼だったのです。
人間や地球の生物、あるいは品種改良によって作られた人の言葉を解する者達は、侵略者でした。
人間たちにとって住みやすい環境になった結果、鬼にとっては過酷な環境になってしまったそうです。
桃太郎が出会った鬼が最後なのか、それとも知らない何処かに他の鬼がいるのかどうかはわかりません。
あるいは、ひっそりと隠れ住んでいるのかもしれません。
桃太郎は、世界中を回りながらそれとなく鬼たちを探すことにしました。
その後のことは記録には残っていません。
見つからなかったのか、それとも人間に伝えられなかったのかはわかりません。
あるいは桃太郎の後を継いだ者がいたのかもしれませんし、今もいるのかもしれません。
きっと、本当のことを知りたければ自分で確かめるしかないのでしょう。
桃太郎が鬼が島を目指したように。

なお、桃太郎は世界各地を旅しているうちに美味しい桃を発見することができたようです。
桃を使った料理やお菓子のレシピ本を後に出版したそうな。

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