東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出開始から24日で1カ月となった。東京電力は初回分の放出をトラブルなく終え、9月下旬にも始める2回目の放出を見据えて準備を進めている。放出作業が進む一方、構内では廃炉に向けた新たな課題が浮上している。廃炉作業に必要な施設整備のためにタンクを撤去する方針だが、タンクの解体で出る廃棄物の減容化や置き場の見通しは立っていない。さらに汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化する過程で出る放射性物質を含む汚泥(スラリー)の保管場所も満杯に近づき、対応に迫られている。
東京電力は福島第1原発の廃炉作業を進めるために使用済み核燃料や溶融核燃料(デブリ)などの保管施設、デブリ取り出しに向けた訓練施設、試料分析施設などを整備する計画だ。タンクを撤去して敷地を確保する方針だが、東京電力の担当者は「いつ、どのようにタンクを処分するかはまだ決まっていない」と現状を打ち明ける。
理由の一つには、解体した鉄製タンクの減容化のめどが立たないことがある。構内では金属やコンクリートなどの廃棄物の減容化処理設備の設置作業が進むが、完成は今年5月から来年1月末にずれ込んだ。2028(令和10)年度末までに約9万トンの処理を想定しているが、この計画策定時にはタンクの廃棄物は含まれていなかった。改めて計画を練り直す必要がある。再利用の道も探るが、どの程度が再利用できるかは不透明だ。
タンク解体で発生する金属は最終的に敷地内で保管するが、減容化や再利用する量の試算ができていないため、保管にどれだけの土地が必要かは見通せていない。タンク解体後の廃棄物の仮置き場も未定だ。
一方、汚泥の保管場所は来夏ごろに満杯になる見通しで、東電は脱水して固体化し、減容化する処理施設の建設を計画している。だが、原子力規制委員会から安全対策が不十分との指摘を受け、来年度予定の供用開始時期は遅延を余儀なくされている。東電によると、2026年度ごろにずれ込む見通しだ。当面は汚泥発生量の抑制でしのぐ。
福島県原子力安全対策課の担当者は「放出が始まったばかりで見通せない部分は多いと思うが、国と東京福島県民に対し、タンクがどう減っていくかをしっかりと伝えてほしい」と求める。
構内には約134万トンの処理水が約千基のタンクに保管され、容量全体の約97%を占める。今年度は約30基分に当たる約3万1200トンを4回に分けて放出する計画で、11日には初回分の約7800トンを流し終えた。ただ、原子炉建屋への地下水流入などで処理水のもとになる汚染水は日々発生しており、汚染水の抑制対策も課題だ。県漁連の野崎哲会長は「現状の課題や問題をきちんと共有した上で、解決に取り組んでもらいたい」と注文する。
■異常確認されず 海洋放出開始以降トリチウムの濃度
国と東京電力、福島県などは福島第1原発周辺の海水、海産物に含まれる放射性物質トリチウムの濃度を測定・公表している。8月24日の海洋放出開始以降、異常は確認されていない。
各機関は原発沖で試料を採取し、数日から1週間程度で結果が出る「迅速分析」(検出下限値1リットル当たり10ベクレル程度)、迅速分析よりも低い濃度まで検出できる「精密分析」(同0・1ベクレル程度)を実施している。
東京電力は23日、原発の3キロ圏内の計10地点で採取した海水に含まれるトリチウム濃度の迅速分析の結果を発表した。全ての測定地点で検出下限値未満となり、東京電力が放出中止を判断する指標としている1リットル当たり700ベクレルを下回った。