【解説】 中国で高官が相次ぎ消息不明 習政権に問題が起きているのか

テッサ・ウォン、アジア担当デジタル記者、BBCニュース

Chinese President Xi Jinping seen during the signing ceremony at the Grand Kremlin Palace, on March 21, 2023 in Moscow, Russia

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中国高官の動静不明をめぐっては、習近平国家主席の権威が揺らいでいるのではないかといった見方や、習氏が力を誇示しているといった観測などが出ている

中国でここ数カ月の間に、習近平国家主席から信頼と好意を得ていた高官が、何人か姿を消した。習氏が軍関係者らを対象に、粛清に乗り出したのではないかとの憶測が飛び交っている。

失脚とみられる直近の例が李尚福国防相だ。ここ数週間、公の場で姿が確認されていない。

当初は問題にされていなかったが、米トップレベルの外交官が指摘したことで注目が集中。ロイター通信は、李氏が軍備の調達をめぐって調べを受けていると報じた。李氏はかつて、人民解放軍(PLA)の武器購入を監督する立場だった。

李氏が「消息不明」になる数週間前には、軍で核ミサイルを管理する「ロケット軍」の最高幹部2人と、軍事裁判所の裁判官が解任された。

そして今、軍を統制する中国共産党の中央軍事委員会の幹部数人について調査が進められているとのうわさが流れている。

これらの解任をめぐっては、「健康上の理由」以外の公式説明はほとんどない。情報がない中、憶測が膨らんでいる。

主要な説になっているのが、軍の腐敗を当局が取り締まっているというものだ。

こうした状況で、軍は警戒を強めている。7月には一般国民に対し、過去5年間の汚職について情報提供を求める、異例の呼びかけをした。BBCモニタリングの調査からは、習氏が4月以降、全国各地の軍基地を5回にわたって訪問する新たな査察に乗り出した様子が浮かび上がった。

シンガポールの南洋理工大学で中国共産党と軍の関係を研究しているジェイムズ・チャー研究員は、中国では1970年代に経済の自由化が始まってから特に、軍において長年、汚職が問題になってきたと指摘する。

中国は毎年1兆元(約20兆円)以上を軍に費やす。一部は物資の調達に充てられるが、安全保障上の理由から完全には明らかにされない。この透明性の欠如は、中国の一党独裁の中央集権体制によってさらに悪化している。

他国の軍が公的に監視されているのとは異なり、中国の軍は共産党によってのみチェックされていると、チャー氏は指摘する。

習氏は軍内部の腐敗を減らし、軍の評価を一定程度回復させた。だがチャー氏は、「腐敗の根絶は不可能ではないにせよ非常に困難だ」と説明。「専制国家が嫌う制度変革」が必要になるからだとした。

「中国共産党政府が、適切な法制度を不当だとするのをやめて導入するようになるまでは、こうした粛清は続くだろう」

China's Minister of National Defence Li Shangfu delivers a speech during the 20th Shangri-La Dialogue summit in Singapore on June 4, 2023.

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李尚福国防相はここ数週間、公の場で姿が確認されていない

一連の人々の消息不明は、中国がアメリカと微妙な関係にある中で、被害妄想を深めていることも一因となっている可能性がある。

中国では7月、拡大されたスパイ防止法が施行され、当局の捜査の権限と範囲が拡大された。その直後、国家安全省は国民に対し、スパイ活動との闘いに協力するよう公に呼びかけた。

李氏の消息不明は、外相だった秦剛氏のケースと似ている。同氏が7月に解任されると、熱を帯びた憶測が生じた。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは今週、秦氏が不倫の末にアメリカで子どもをもったという疑惑で調べられていると報じた。

中国アナリストのビル・ビショップ氏は、「不倫はエリート(共産党)の世界では即失格とはならないが、その相手が外国の情報機関とのつながりが疑われている人物で、敵ではないにしろ地政学上重要なライバルである国のパスポートを持つことになる子どもをつくるのは、もはや失格かもしれない」と指摘する。

中国が新型コロナウイルス後の経済減速と若者の失業率の急上昇に苦しむ中で、共産党内では汚職を一掃するべきとの圧力が高まっており、習氏はそれを受けて行動しているとの見方もある。中国の政治制度では、習氏は国家主席であると同時に軍の最高指導者でもある。

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相次ぐ消息不明は、習氏の指導体制の不安定さの表れと見ることもできる。

李氏と秦氏は閣僚だっただけでなく、国務委員というさらに高い地位にあって、習氏に目をかけられていた。そのため、彼らの突然の失脚は、習氏の判断力の欠如とも捉えうる。

消息不明となったのを政治的な粛清と考えるなら、習氏が昨年の党大会で権力を固め、潜在的な対立派閥を排除し、重要な委員会を盟友で固めた直後にそれを実行しなければならなかったという事実は、彼を悪く見せるだろう。

さらに別の見方として、習氏が自らの力を改めて誇示したというものもある。

粛清された共産党幹部の息子である習氏は、汚職を公に取り締まることで有名だ。だがそれは、自らの敵の根絶を目的とした政治的粛清でもあると、中国事情を追う人たちは言う。

毛沢東より後の中国指導者で、習氏ほど汚職の取り締まりを大規模に進めた人はいない。2013年に国家主席に就任すると、下級幹部とトップの両方を標的にした「トラとハエ」キャンペーンを開始。これを皮切りに、長年にわたって数千人の幹部を摘発してきたとみられる。

習氏は軍も標的にした。2017年までに幹部100人以上を解任。国営の新華社通信は当時、「新しい中国を作るための戦争で殺された将兵の人数をはるかに上回る」と伝えた。

Qin Gang

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外相を務めた秦剛氏は習主席に目をかけられていると言われていた

今回の消息不明をめぐって最も大きな問題となるのは、それが発するシグナルと、その影響だ。

中国事情に詳しい人たちは、軍と政府に恐怖が生まれるだろうとみる。これはコンプライアンス確保ために意図された可能性があるが、士気を低下させる恐れもある。

習氏は何年もかけ、好意を失った人たちを組織的に排除し、自らを支持する人たちで重要ポストを固めてきた。これは、習氏の周囲にはイエスマンばかりいることを意味する。前出のチャー氏は、集団思考は安全保障と外交政策に悪影響を及ぼしかねないとし、集団思考のリスクこそが習指導部にとって「真の不安定要素」となっていると指摘する。

実際、高官らが消息不明となったのは、台湾海峡が緊迫している最中だった。中国はここ数週間、同海峡付近に軍艦や戦闘機を送り込んでいる。

米カーネギー国際平和財団のシンクタンク「カーネギー・チャイナ」のイアン・チョン非常勤研究員は、外交政策および防衛外交に関するコミュニケーションが混乱することは、「事故を引き起こし、事態悪化の管理をより困難にする恐れがある」ため、「特に懸念される」ことだと述べた。

一方で、中国の軍指導部は頑強であり、一部の高官の入れ替えには十分耐えられると主張する人もいる。また、軍は戦争にならないレベルで行動するよう注意していると指摘する人もいる。

習指導部の安定性が、一連の消息不明によって長期的な影響を受ける可能性は低いとの見方もある。アジア・ソサエティ政策研究所の中国エリート政治の専門家であるニール・トーマス氏は、これまで標的となった幹部はいずれも習氏の側近ではないと指摘する。

多くの事情通らの意見が一致するのは、これらの事案が中国の体制の不透明さを浮き彫りにしているということだ。「政策実施の継続性や、実務レベルでの約束や保証の信頼性について、疑問がさらに深まる」とチョン氏は話した。

結局のところ、高官らの消息不明は「結果として生じる不安」をあおるものとなっている。