AVCHDフォーマットの特徴は、その独特のファイルストラクチャである。AVCHDは一種の「ラッパー」であり、中身は複数のフォルダやファイルがまとめられている。
なぜこんな事になっているかというと、Blu-rayのファイルストラクチャに合わせたからだ。Blu-rayプレイヤー/レコーダーで再生互換を持たせるため、言い換えればいかにも「Blu-ray用にオーサリングされてますよ」的に見せかけて食わせるために、このファイルストラクチャが必須だったからである。
AVCHDの実際の動画ファイルは、「STREAM」というフォルダ内に、「00000.MTS」という格好で連番ファイルになっている。一方動画の素性を示すメタデータは、「CLIPINF」というフォルダ内の「00000.CPI」という連番ファイルになっている。動画ストリームとメタデータは、連番の数字で対応する。
従って、「STREAM」フォルダ内の動画ストリームだけを取りだしてしまうと、メタデータが何もないので、ノンリニア編集ツールでは動画の素性が何も分からない謎ファイル扱いになる。本来ならば、なにかツールを使ってメタデータを読み出しつつ、別のフォーマットへ変換してから編集するというのが通常の流れになる。
しかしWindowsではAVCHDの中身のストラクチャまで丸見えなので、「STREAM」フォルダ内の動画ストリームだけを取りだしてしまう人が後を絶たない。それでは困るだろうとして、一部のノンリニアツールでは最低限の情報を動画ストリームから解析してなんとか正しく扱えるようにしてきた、というのが今の姿である。
2006年当時は、Appleのハイエンドノンリニアツール「Final Cut Pro」が大人気で、Adobe PremireはMac版の開発を中止したほどだった(のちにPremiere Proとして再開)。当時のFinal Cut Proでは、AVCHDのファイルを扱う際には、ファイルストラクチャが全部そろっていないと読み込めなかった。中身のMTSだけ読み込ませようとしても、できなかったのである。
当時それを面倒だと感じた人も多かっただろうが、ファイルストラクチャの中に動画の素性を知るメタデータも入っているので、動画のフレームレートや解像度、アスペクト比などを正しく読み込むためには、この挙動は正しい。
Appleは現在も、AVCHDはそれ全体が1つのラッパーであり、その中身を開けることはよろしくないとの思想を貫いている。MacOSでAVCHDを読み込むと、アイコンもなにもない書類として表示される。右クリックして「パッケージの内容を表示」とやると、「BDMV」というラッパーがもう1つ出てくる。この中身がBlu-rayと同じファイルストラクチャになっている。さらにもう1回右クリックして「パッケージの内容を表示」とやると、ようやく中身にアクセスできる。
これは一見「塩対応」のように見えるが、普通はMP4をほどいて中身のH.264のビデオストリームだけ取り出すようなことはしないだろう。それと同じ扱いという事である。
再び2006年当時の話に戻るが、当時はPCでビデオ編集をやるという人は、今より全然少なかった。ビデオカメラの主力はテープであり、編集するならそれをリアルタイムキャプチャーして、なんとかDVDには焼きましょうよ、ぐらいまでトレンドとして引っぱって来れたぐらいの時代である。
従って、当時多くの人にとっては、ビデオ編集よりも、DVDオーサリングのほうがなじみがあった。DVDレコーダーも、番組を編集してDVDに焼く機能が人気だった。ディスクメディアであれば、ランダムシーケンスが可能なので、編集までしなくてもチャプターさえ打てれば、見たいシーンにジャンプできる。面倒な編集をせず、チャプターだけ打っておけば編集したのと同じですよ、というのが、当時コンシューマーユーザーにやってもらえる限界だったのである。
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