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買ってもすぐに食べるのが困難なほど硬く、SNSなどで「シンカンセンスゴイカタイアイス」として知られる新幹線のアイスクリーム。出張や旅行で新幹線を頻繁に利用する人には、車内販売の名物としておなじみかもしれませんが、初めてスゴイカタイアイスを体験した女性はその硬さにびっくり仰天し、読売新聞の掲示板サイト「発言小町」に「なぜ、あんなに硬いアイスが売られているのか」と疑問をぶつけました。
ゴールデンウィークに、いとこの姉妹2人と新幹線で名古屋へ旅行に出かけたトピ主の「アイスクリン」さん。いとこが車内販売で買ってくれたアイスを食べようとした時、スゴイカタイ洗礼を受けることに。あまりにも硬いアイスに戸惑ったトピ主さんは、「新幹線のアイスが石?でした」のタイトルで、「石のように硬くてなかなか食べられませんでした。特に私のアイスは、木のスプーンが折れてしまうほど硬かったです」と投稿しました。
不可解に思ったトピ主さんは、スプーンですくえないほど硬いアイスを売るはずがないとの思いを捨てきれなかったようで、最後にこう尋ねました。「あのように硬いアイスクリームに遭遇したのは私たち3人だけでしょうか」。本来はそれほど硬いアイスではなく、たまたま自分たちの運が悪かったと思おうとしたのかもしれません。
新幹線のアイス、カッチカチが常識
このトピには、50件を超える反響が寄せられました。「新幹線のアイスがカッチカッチなのはみんなが知っている常識」「時間がたってもフニャフニャにならない新幹線の超有名な硬いアイス」などのコメントが相次ぎ、むしろ、スゴイカタイアイスを知らなかったトピ主さんにびっくりという内容が目立ちました。
いち早く「それは新幹線名物ですね。硬いのが基本です」と書いた「凪」さんは、不審に思っているトピ主さんに、新幹線のアイスは硬いという事実をまず伝えました。さらに、石のような硬さの理由を、「溶かさないように低温で保存しているのと、乳脂肪分が多くてかたまりやすいんだそうですよ」と説明し、「その硬さも楽しみの一つと思っていただいた方が良いかと」と助言しました。
「ツイッターなどのSNSでは『#シンカンセンスゴイカタイアイス』で有名です」と書き込んだ「ハッシュタグ」さんは、広く知られている話題として、インターネットで検索してみることを勧めました。「木のスプーンがシャキーン!と立っている写真が大量に出てきます」と紹介し、すぐに手をつけられないアイスの硬さを逆手に、多くの人が“映え”を楽しんでいることを伝えました。
「本当に知らなかったの?」「常識なんじゃないですか?」という反応が相次ぎ、初耳だったトピ主さんが気後れしてしまうのを心配したのか、「新幹線の硬いアイス、有名なんですね。私はほぼ乗らないので知りませんでした」と「おっさん」さんが加わります。食べるのに手こずったトピ主さんに、「旅行先で『硬い硬い』と言いながら食べるのは、それなりに思い出になりそうで面白いですね」と前向きなメッセージを送りました。
「ていうか昔っから変わらんのかーい!」
とはいえ、石にたとえるほど硬いアイスが目の前に出てきたら、トピ主さんのように戸惑うのも無理はありません。「新幹線のアイスは硬いですよねー」と共感した「さかな」さんは、「もう昔っからそうですよ。ていうか昔っから変わらんのかーい!って話ですよね」と、長年に渡って硬い状態で提供されるアイスにツッコミました。
買ったらすぐにでも味わいたいと思う人もいるでしょう。しばらく置かないと食べられないとは知らずに購入した人もいるかもしれません。新幹線のハイテクをもってすれば、スゴイカタイアイスを食べやすいヤワラカイアイスで提供できるのでは。長年、新幹線で親しまれているアイスは、なぜ、ずっとスゴイカタイのでしょうか。
東海道新幹線の車内販売を行うジェイアール東海パッセンジャーズ(東京都中央区)によると、「シンカンセンスゴイカタイアイス」の正式名称は「スジャータアイスクリーム」。新幹線で販売するのにふさわしい高級感のある特別な商品を作りたいと、スジャータめいらく創業者で当時社長だった日比孝吉氏が自ら指揮し、高品質なバニラアイスクリームを開発しました。
高級アイスクリームにイメージされる「なめらかで濃厚な味わい」を目指した結果、乳固形分15%以上、うち乳脂肪分8%以上とされる「アイスクリーム」の基準に対し、スジャータアイスクリーム(バニラ)は乳脂肪分15.5%と非常に高濃度なうえ、空気含有量を低くし、高密度でねっとりした重みのある味を生み出しているといいます。
アイスクリームは一度溶けてしまうと、再冷凍しても、なめらかさや味わいが元に戻ることはありません。細菌増殖の危険があると注意を呼びかけているメーカーもあります。
冷凍設備のない新幹線でアイスクリームを保管するため、マイナス79度になるドライアイスを活用。高濃度で空気含有量が低いことに加え、マイナス18度前後の一般的な冷凍庫よりも低い温度で管理するため、スジャータアイスクリームはスゴイカタイアイスになるのだとか。
16両編成で長さ約400メートルにもなる新幹線の通路を移動する車内販売でも、アイスクリームを溶かさないためにドライアイスは欠かせません。ジェイアール東海パッセンジャーズの担当者は「少しでも溶けてしまえば品質が損なわれてしまいます。高品質のままおいしいアイスをお客様に届けるため、スゴイカタイ状態で提供することになります」と説明します。
1991年から発売されており、過去には「みかん」「白桃」「りんご」などのフレーバーもありました。定番の「バニラ」に加え、期間や路線などによって限定の味が販売されています。今年7月1日からは、東北地方でおなじみの「ずんだ」が数量限定で登場しました。
「いるか?」と買ってくれた父はビール
スゴイカタイアイスに戸惑うトピ主さんの初体験に触発され、新幹線のアイスにまつわる思い出を懐かしむ人もいました。出張などで新幹線に乗り慣れている人たちからは、スゴイカタイアイスならではの注意点やたしなみ方が寄せられ、新幹線に乗ったら試したい、とっておきのアドバイスもありました。
「子供の頃からありましたね」と記憶をたどった「のぞみはまだなかった」さんは、「どうがんばってもすぐ食べられないし、木べら折れるし、前歯で直接かじってみたり……」と、硬いアイスに悪戦苦闘したといいます。「やけになって冷凍ミカンの網に入れて、振り回したら弟の頭に当たって親にめちゃくちゃキレられるし、一種の武器でしたね」と家族旅行の懐かしい一コマがよみがえります。
「和泉のおかん」さんは、“大昔”という中学時代の思い出をつづりました。高校受験の合格祈願のため、父と2人で太宰府天満宮(福岡県太宰府市)へ新幹線で向かっていたそうです。「いるか?」と聞く父に買ってもらい、カッチカチのキンキンを両手で温めて食べたアイス。思い返すと、これが最初で最後の父との2人旅。隣でビールを飲んでいたご機嫌な姿をしのびます。
スゴイカタイアイス、購入するタイミングが大事
スゴイカタイアイスは、購入してもすぐに食べるのが難しいため、入手するタイミングを見極めることが大事なようです。
東海道新幹線を頻繁に利用した時期があったという「沙羅双樹」さんは、東京から名古屋へ向かう途中、豊橋を通過したあたりでうっかりアイスを買ってしまったエピソードを紹介。「すぐに『ただ今、三河安城を通過いたしました』のアナウンスが流れてきた時の焦り!」と、名古屋まであと10分ほどしかない状況に緊張が走った様子ですが、「こんな時に藤吉郎(後の豊臣秀吉)が懐で温めたアイスクリームを差し出してくれたら、足軽に取り立てるよね」と同行者と笑い話で盛り上がったそうです。
新幹線が着くのが先か、その前にアイスは食べられるのか――。そんな一刻を争う戦いを避けたいと考える人もいるでしょう。大阪方面へ向かう東海道新幹線でアイスの食べ頃をシミュレーションしたのは「あげ」さん。アイスを東京駅あたりで入手した場合は小田原駅、新横浜駅あたりで買ったら静岡駅あたりが、「ちょうどいい柔らかさに溶けて食べやすい」と明かしました。「『まだ固いねー』『早く食べたいなー』と言いながらじんまりと待つのが、新幹線での時間のつぶし方の定番」と言い、アイスを食べるまでの時間も旅程に折り込み済みです。
スゴイカタイアイスの食べ方について、見習いたい“作法”を伝授するのは「褐色の恋人」さん。「購入後はアイスから目をそらし、音楽を2曲聞きながら、柔らかくなるのを待ちましょう。それが大人のたしなみで、正しい振る舞いです」と言い切ります。そして、「子どものようにすぐに飛びつかず、大人の余裕で食べごろを待ちましょう」というアドバイスも、どこかクールな雰囲気を漂わせます。
硬いアイスを一気に崩す攻略法もあります。「私は東海道新幹線の中で売られている専用スプーンを毎回持参で食べてます」と、アイスを食べるのが当たり前のように新幹線へ乗り込む「かも」さん。熱伝導率の高いアルミ製スプーンに加えて、車内でホットコーヒーも購入。3分の1ほど食べたアイスにコーヒーを注ぎ入れ、溶かしながら食べるアフォガード風がお薦めといいます。
夏の行楽シーズンはもうすぐ。新型コロナが第5類に移行したことで、久しぶりの帰省やレジャーで新幹線を利用する人も多いでしょう。夏の思い出の一つにシンカンセンスゴイカタイアイスを試してみてはいかがですか。時間に余裕をもって購入してください!
(読売新聞メディア局 鈴木幸大)
【紹介したトピ】 新幹線のアイスが石?でした