北九州市の元非常勤職員自死、パワハラ「因果関係ない」 地裁判決

中山直樹
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 在職中にうつ病を発症後、自殺した北九州市の元嘱託職員森下佳奈さん(当時27)の両親が、市に遺族補償など約310万円を求めた訴訟の判決が20日、福岡地裁であった。小野寺優子裁判長は「公務と自殺の因果関係を推認できない」とし、請求を棄却した。

 判決などによると、区役所で子どもや家庭問題の相談員をしていた森下さんは、採用から約9カ月後の2013年1月、心身の不調を訴えて休職。うつ病と診断された。2カ月後に退職しても改善せず、15年5月に自殺した。

 両親側は、残されたメールのやりとりなどから、上司に長時間の叱責(しっせき)を受けたり、退職を強要されたりし、うつ病になったと主張。市側は「上司の指導は正当な業務の範囲」と反論していた。

 判決は、森下さんが叱責を受けて涙を流したことなどは認めたが、自殺が退職の2年2カ月後だったことから、次の職場での問題や経済的な不安が「要因になった」と結論づけた。

 森下さんの母、眞由美さん(60)は判決後、「娘が退職後、がんばって生きていたせいで請求が認められなかったかのように感じ、悔しいし、娘に申し訳ない」と声を詰まらせた。

 原告側の弁護人は「そもそも上司による指導がパワハラであったか、公務とうつ病の発症に因果関係があるかについて、一切言及せず切り捨てられた。不誠実だ」と述べた。

 森下さんを巡っては、死亡後に両親が労災認定の手続きをしようとした際、市が「非常勤職員は、条例で本人や遺族は請求できない」と回答。母親が当時の総務相に手紙を書き、問題があると訴えた。これを受け、総務省は18年7月、全国の自治体に対し、非常勤職員らも請求できると条例に明示するよう通知。北九州市も制度を改めた。(中山直樹)

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