無職転生〜2周目だけど本気だす〜   作:そこらへんの競走馬

7 / 21
第六話「旅立ち」

 

 

 人生ってのは思いどおりにいかないものである。

 色々考えて行動してもその通りにはいかないことなんてザラだ。

 

 それは人生二周目の俺にも言えたことだった。

 予想外のことは突然起きるものなのだ。

 

 

 

 

 

 

「ルーデウス。お前に話がある」

 

 ある日の夕食の時間に突然パウロがそう言った。

 何時にもまして真剣な表情だ。

 周りは特に反応無し。どうやら予め話してあるご様子。

 

「言っていなかったが俺は貴族の家の息子だ。因みに母さんもだ。そして俺の従兄弟から先日手紙が届いた」

 

 パウロの従兄弟? 

 つまりフィリップからの手紙ってことか。

 そんなのあったっけ。もしかして前は俺の知らないところであったのかも。

 

 胸から手紙を書い取り出すパウロ

 そしてそれを俺に渡してきた。

 

「お前なら読めるだろう。自分で読んでみろ」

 

 受け取って手紙を開く。

 えーと、なになに、

 

『拝啓パウロ・グレイラット殿。

 君に、というより君の息子に頼みがありこの手紙を送った。率直に言うと君の息子に僕の娘の家庭教師になって欲しい。なんでも君の息子は途轍もなく賢いそうじゃないか。期間は約5年。もちろん給料も出す。この仕事は良い人生経験になると思っている。是非良い返事を待っているよ。

 フィリップ・ボレアス・グレイラットより』

 

 ほうほう。

 つまり俺にエリスの家庭教師になってくれと……

 え、なにこれ。元々やる予定だったけどあっちから頼んできたぞ。

 ポッチャマびっくり。

 

「それで、どうするんだルーデウス」

「やります。やらせてください!」

 

 間髪入れずに返事した。

 そりゃやるに決まってる。寧ろ俺以外に務まる奴なんていないだろ。任せとけパウロ

 

「俺は反対だ」

 

 えーなんで

 前はお前の方が無理やり連れていったよね? 

 どういうこっちゃねん。

 もしかしてこの前罪を擦り付けようとしたのまだ怒ってる? 

 いや、でもあれはお前も悪いじゃん。

 だからさ、ほら。

 

「理由は3つ、いや2つある」

 

 なんだ理由があるのか。とりあえず聞こうじゃないか。

 

「1つ目は幼すぎることだ。正直言ってお前はよくできた子だ。寧ろできすぎて怖いほどにな。だがどこの世界に家庭教師をする7歳の子供がいる」

 

 正論だな。

 でも俺は尻出しながら世界を救う一人称がオラの5歳児を知っているぞ。

 それに比べたら7歳の家庭教師なんて楽勝やで。

 そもそも精神年齢は80歳だからセーフ。

 

「2つ目は実力だ。本当に人に物を教えられるほどの実力があるのか? 仕事ということは金を貰うということだ。まともにこなせないというのは許されないぞ」

 

 それについては問題ない。

 魔術に関してならかなり自信がある。人間の中ではかなり上の方だろう。算術も小学校レベルなら余裕すぎる。そもそも教えるのはエリスだぞ。自分の嫁なんだから楽勝だ。

 

「以上を踏まえてもう一度聞くが本当にやるのか」

 

 鋭い目つきで俺を睨みながら言ってきた。

 けど悪いがパウロの睨みなんて大したことない。

 俺は世界一強い男の鋭い睨みを経験してきているのだから。まぁ本人は睨んでるつもりないけど。

 

 

「やります!」

 

 ビビらずパウロの目を見て強くそう言う。

 こういうのはやる気を見せることが大切だ。

 こいつに任せても大丈夫と思ってもらう。そのために態度で示すのだ。

 

 ほら見ろ。パウロも目つきを変えて頷いてくれているぞ。

 コレは許可されるな。

 

「……分かった。では明日の朝、庭に来い。お前が本当にこなせるのか確かめてやる」

 

 あ、即決では無いのか。了解です。

 絶対ダメと言われないならば大丈夫だ。

 

 そういえば最初理由は3つとか言ってたな。

 

「3つ目はなんだったんですか?」

 

「ん。ああ……3つ目は剣術のことだ。家庭教師を初めたら剣術が中途半端な所で終わってしまうと思ってな。だがあっちには俺より強い奴がいるのを思い出した。そいつにしごいてもらえ」

 

 なるほど、ギレーヌか。確かにパウロより強い。

 俺の剣術は多分もう上達しないだろうがな。だがやり続けることに意味があるものだろう。幼い時期は特に日々精進である。

 

 その日はそれで終わりそのまま1日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 言われた通り庭に来た。

 パウロは既にいて、両手に木剣を持って立っている。

 

「こいつはお前のだ」

 

 そう言いながら右手に持っていた木剣を俺に投げ渡してきた。

 なんとなく予想はしていたがどうやら模擬戦で俺の実力を確かめるようだ。

 

「今からお前の覚悟を見せてもらう。魔術も剣もなんでもありだ。準備はいいか!」

 

「はい!」

 

バビュッ

 

 俺が「はい」と言った瞬間

 パウロが突っ込んできた。開始の合図もなしかよ。

 

 思いっきり上段。避けなければ怪我では済まない。

 よし、華麗なステップで避け……は、速い。

 く、このままじゃまずいぞ。

 

 風と火の魔術を同時に使い、パウロとの間に爆風を発生させる。

 自ら後ろに飛び、熱に押し出されるように大きく後ろへ移動する。

 

 最初の攻防は前回と全く同じになってしまった。

 予見眼がないと目で追うのがやっとだな。予想はしていたがここまでとは。

 予見眼がない自分の弱さにガッカリする。

 

 そうこうしているとまたパウロが突っ込んできた。

 魔術師相手に距離をとるのは不利だからな。模範解答だろう。

 

 さて、どうするか……

 

 実は勝つのはそんなに難しくない。

 パウロよりも格上の奴とは沢山戦ってきたもの。

 泥沼にはめて撃ちまくれば余裕の勝利だ。

 

 でもここでボコボコにするのは違う。

 父親の威厳とかを考えてでもあるがそれだけじゃない。

 1番は下手に動くことでこれからの出来事が変わるかもしれないことだ。あいつ口軽いからな。

 色んな所でぺちゃくちゃ話されては困る。

 

 だが負ける訳には行かない。俺は勝ってエリスの元へ行くんだ。

 

 ……よし、これでいくか。

 

ガキィーン

 

 俺とパウロの剣がぶつかり合う。

 俺は剣でパウロと対峙することにした。防御だけならギリいける。

 受けを剣で、攻めを魔法で行うのだ。

 

水球(ウォーターボール)!」

「……」

 

 無言で避けんなよ。……いやそれ程真剣なのか。

 

 その後も俺がパウロの剣を防ぎ、パウロが俺の魔術を避けるといった攻防が続く。

 時間にして5分ぐらいだろうか。

 このまま終わらないのではと思った時だった。

 

キィーン!  ひゅる、パーン

 

 剣を受けた瞬間

 くるりと手首を捻って俺の剣が弾かれ宙に舞った。

 

 来る。

 パウロ最速の剣、無音の太刀が俺の首目掛けて振り落とされた。

 

 ここだ! 

飛翔(フライ)

「うぉぉ!」

 

 俺はすかさず重量魔術を行使する。

 それによりパウロが浮いた。剣は俺の上で空を切る。

 足の着地場所を失ったパウロは体勢を崩している。

 

石砲弾(ストーンキャノン)

「ぐふ……」

 

 かなり威力を抑え目にした石砲弾を空いたパウロの腹に打ち込んだ。

 致命傷には全くならないがちょっと痛いはずだ。

 

 パウロは後ろに下がり剣を構え直す。

 

 まだやるのか……

 そう思い手に魔力を集中させた瞬間

 パウロは剣を地面に落として手のひらを上に挙げた。

 

「やめだやめだ。俺の負けだよ」

 

 パウロが降参した。

 俺はほっと胸を撫で下ろす。正直まだ続けるとなったらちょっと本気を出さないといけなかったからな。

 

「まさか7歳のガキに負けるなんてな。自分も天才のうちの一人だと思ってたが、本物の天才ってのはお前みたいなやつなんだろうな」

 

 頭を撫でながらそう言うパウロ。そういった事を言われると悪い気がしてくる。

 

 そんなんじゃねーよ。今の俺の力はほぼズルみたいなもんだ。前世の記憶持ちだからできたこと。

 でもこの力で今度は色んな人を助ける! 

 そのためにはまずボレアス家に行かないといけないんだ。

 

「それで父様、手紙の件ですが……」

「ん? ああ、んなもんいいに決まってる。そもそもお前が行きたいって言った時にはもうOKだったんだよ」

「は?」

 

 どういうことだよ。俺が行きたいって言った時お前反対したじゃん! 

 

「え、あの理由たちは」

「あんなの嘘に決まってんだろ。あっちから頼んできたんだから年齢もクソもあるかよ」

 

 なんだそれ。じゃあ今の戦いはなんだったんだよ……

 やらなくても良かったってことかよ。

 

「嘘おっしゃい」

「ゼ、ゼニス……」

 

 横からゼニスがそう言いながら近づいてきた。

 

「貴方あんなに不安がってたじゃない。ルディにはまだ早すぎるんじゃないかって。どうせ今回の嘘も照れ隠しと負けた時の言い訳でしょ」

「言い訳じゃねぇよ。第一俺はまだ本気を出していない!」

「それも本当かどうか……」

 

 目の前でゼニスとパウロがあーだこーだ言いあっている。

 結局何が本当なんだ、訳が分からん。

 てか、あー、腹減ったなー。

 

「ぐぅぅぅ」

「「「…………」」」

 

 起きてから何も食べてなかったから腹がなってしまった。

 全員が俺の方を向く。見るんじゃねぇ! 恥ずかしいだろ。

 

「「あははははは」」

 

 パウロとゼニスが高笑いをする。リーリャも笑いこそしないが顔がにやけているぞ。

 

「そうね、お腹すいたわね。朝ごはんにしましょうか」

 

 朝食にすることとなった。

 

 

 

 

 食卓にはパンとサラダと肉の入ったスープが並ぶ。

 それを皆で話しながら食すのだ。

 ノルンとアイシャは残念ながらまだ食べられないがな。

 まあ、いつもと変わらない朝である。

 いや、俺とパウロは少し汚れているかな。

 

 呑気にパンを食べていると視線を感じた。

 顔をあげるとゼニスと目が合う。

 

「ルディ。家庭教師の件だけど、私は貴方がやりたいなら止めはしないわ」

 

 どうやら認めてくれるようだ。

 反対されるとパウロよりも説得するのが大変だから大変助かる。

 

「でも、この話を話しておくべき人がいるでしょう?」

 

 話しておくべき人? 

 ……ああ、そうだな。確かにそうだ。彼女には言っておかないと。

 

「今日の昼に伝えに行きます」

「ああ、そうしろ。明日の昼には迎えの馬車がこっちに着くからな」

 

 パウロがそう言った。

 え、明日? 

 明日にはもうボレアス家ってこと? 

 ッ───そういうことは早く言えよ! 

 

 

 

 

「ということで明日からボレアス家に行くことになったんだ」

「そ、そっか。そうなんだ。随分と急だね」

 

 My sweet honeyことシルフィが驚いた顔をうかべる。

 木の葉から盛れた光がエメラルドグリーンの髪を美しく照らしている。

 

「ああ、俺も急すぎてビックリしているよ。それでさ、明日から家族のこと頼みます」

「あ、うん! 任せておいて! ルディもエリスによろしくね」

「ああ、エリスも覚えてるといいなぁ」

 

 シルフィのこと話すにしても覚えてないといけないからな。

 

「それは大丈夫だと思うよ」

「え、なんで?」

「うーんと、なんとなくそう思う。女の勘かな」

 

 そうか、女の勘か。

 なら安心だな。シルフィの勘はよくあたる。

 

「じゃあ、明日からしばらく会えなくなるから」

 チュッ

 

 優しめのキスをシルフィのほっぺにする。

 

「も、もう! 急にしないでよ」

 チュー

 

 シルフィから唇にキスされた。

 

「それに、、、ほっぺより口の方が好きだな」

 

 〜〜〜可愛すぎだろ。

 

 そのまましばらくイチャイチャした。

 

 

 

 

 

 翌日、昼

 

「ルーデウス! 馬車が来たぞ!」

「はい! 今行きます」

 

 ボレアス家からの馬車が到着した。

 必要なものをカバンに詰めて玄関を出る。

 必要なものってのは下着とかパウロからの剣とか御神体とかだ。

 

「お前がパウロの息子か」

 

 俺の目の前に人影が現れた。

 銀色の髪に褐色の肌。そして猫耳としっぽ。

 身につけている装備は布面接が無さすぎてエロスを感じる。いや、感じないな。

 最早彼女のことをそういう目で見ることなど俺にはできない。

 懐かしさと好感、そして感謝の気持ちしかない。

 

「あたしはギレーヌだ」

「ルーデウス・グレイラットです。よろしくお願いしますギレーヌさん」

「ギレーヌでいい」

 

 この感じ……

 ギレーヌは覚えていないか。ワンチャンあると思ったんだがな。残念だ。

 

「パウロの子供の癖に礼儀正しいな」

「当然よ! 私の子でもあるんだから」

「それもそうだな」

 

 ゼニスとギレーヌが会話をしている。

 なんていうか、こう、嬉しい気持ちでいっぱいだ。

 ずっとこうであって欲しいな。いや俺がこの光景を守るのだ。

 

「もう出発する。別れの挨拶をしておけ」

 

「じゃあ俺から。ルディ、世の中はお前が思っているより甘くない。まぁお前ならソツなくこなすんだろうがな。とりあえず頑張れ」

「そんなことないですよ。肝に銘じておきます」

 

 パウロにしてはかなりいいこと言ったな。

 あと目が心なしか決意に満ちている。よぉわからんがお互い頑張ろうな。

 

「ルーデウス様。お気をつけて行ってらっしゃいませ。お帰りになられた時は是非この子を、」

「あはは、考えておきます……」

 

 すまんがリーリャ、アイシャは俺にとってそういうのじゃないんだよ。

 まぁ一生面倒見てやることはできるけどな。メイドとして……

 

「ルディ。私から言うことは特にないわ。ただ後悔のないように生きなさい」

「……はい」

 

 深いな。

 2周目、いや、3周目だからこそより深みを感じる。

 後悔か、

 後悔しないように生きていたがそれでも後悔してしまった。

 人生やり直せたらいいなと感じない人なんていないだろう。幸運なことに俺はその機会を得ている。

 多分今回も後悔はどこかでするのだろうな。

 だが前回の後悔はしないでいこう。同じ轍は二度踏まないのだ! 

 

 

「では行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

 

 決意を胸に家を出る。

 既に世界の歯車は動き出している気がした。

 

 

 

 

 

 

この先の展開どれがいい。(執筆スピードに影響はございません)

  • イージールート
  • ノーマルルート
  • ハードルート

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。