そろそろ外に沢山出かけようと思う。
別に外にでたくなかった訳じゃあ無いしな。ただ単に午前と午後のどちらにも予定が入っていたので時間があまりなかったのだ。
だがロキシーがシーローンに旅立ち、午後の時間に空きができた。というか元々そういう予定で動いている。
とにかく外に出る時がきたということだ。
俺は子供なのでパウロなりゼニスなり誰か大人に許可をとる必要がある。誰かいないかなーと辺りを見渡していると、
お、パウロ発見。
庭で素振りをしていた。早速頼もうじゃないか。
「父様。外で遊んできてもいいですか?」
「ん? ああ、もちろんいいぞ」
「ありがとうございます」
子供らしい笑顔を浮かべながらそう返事をする。するとパウロはバツの悪そうな顔浮かべながら言った。
「いや、その、逆にそういう時間を作ってやれてなくて悪かったな」
なんだ。パウロもそういうこと考えてくれてたんだな。
「いえ、僕は修行も楽しかったので遊んでいたようなものですよ」
「そ、そうか。それならいいんだ。まぁ、外に遊びに行くのはいいがあまり危険なことはするなよ。あと森には絶対に入るな」
「分かりました、父様。では行ってきます」
「おう、行ってこい」
俺はゼニスからもらった靴を履いて、家を飛び出した。天気は晴れ。絶好のお出かけ日和だ。
歩いていると色んな人が挨拶してくれる。俺もそれに笑顔で返す。
うん。やはりいいな外というのは。
今日行くところは決めている。シルフィの家だ。
俺は数少ないこれまで外出全てシルフィの家に行っていた。だから今日行くところというより今日もいくところだな。
シルフィが会いに来てくれてもいいのだが、ロールズが外出自体を許してくれないらしい。
それとどうやら少しだけ俺の事を警戒してるっぽい。
全く困るよ5歳児にそんなことされちゃあ。まぁ読み通りなんだけどな。
ちなみになんと言われようとシルフィは絶対に嫁に貰う。絶対にだ。
そんなことを考えているといつの間にかシルフィの家についていた。
ドアを2回ノックして「ルーデウスです」と呼びかける。
するとドアがガチャっと開かれた。
「やぁ、久しぶりだねルーデウス君」
ちっ、今日はロールズか。
今のところ3回中2回はロールズである。別にロールズでも構わないのだがやはりシルフィに迎え入れられたいな。こう、ほら、平安時代とかの男が女の家に忍び込む時みたいなのがあるじゃないか。通い妻ならぬ通い夫的なイチャイチャが。
「どうしたんだい?」
「あ、いえなんでもないです。お邪魔します」
シルフィの家はこの村の中で見ればかなりの大きさである。我が家の方がデカいが家族3人で暮らすには十分な広さだろう。
「シルフィ、ルーデウスくんが来たよ!」
ロールズが後ろの方で大きな声でシルフィを呼んだ。
「え、ほんと!」
その声と共にシルフィがドタドタと階段を降りてきた。
「やぁシルフィ」
「うん。いらっしゃいルディ」
短パンにフード付きのジャンパーという見慣れた格好だ。
だがフードはかぶっておらず、鮮やかなエメラルドグリーンの髪があらわになっていて、非常に元気いっぱいな感じが溢れている。
まぁ彼女も色々と経験を積んできた大人だからな。今更髪色とかその程度のことを気にはしないだろう。
シルフィは俺の顔を見つめているとはっと何か思いついたような顔をしてロールズの方を向いた。
「ねぇ、お父さんそろそろダメかな?」
「え、うーん。そーだなー。まぁ、そろそろいいかな」
なんの話だ? と首を傾げているとシルフィが近づいてきて言った。
「ルディ! 出かけよう」
デカケヨウ、ああ、出かけようか。
今のは外出してもいいかどうかの話だったわけだな。
なるほどなるほど。
首を縦に振っているとシルフィは俺の手を引っぱって外に飛び出した。
良いよと取られてしまったようだ。実際良いから問題ない。
「行ってきます!」
「お邪魔しました」
「夕方には帰ってくるんだよ」
ロールズの声が遠のいて聞こえる。
随分と短い滞在期間だったな。
「えへへ、ルディ。やっと2人でどこかに行けるね」
ふやけた顔をしながら言われた。シルフィのこの顔は相変わらず癒されるなぁ。この俺に全てを許している顔。
「じゃあこの村を出て旅に出ようか」
「え」
「冗談だよ」
腑抜けているようで意外と話はしっかり聞いているようである。
この村は正直言って何も無い。畑とか花畑とかそういったものばかりだ。逆に言えば自然に溢れているとも言えるな。
何を言いたいかと言うとつまり行く場所がないということだ。
「シルフィ、どこ行く?」
自分では行き先が思いつかずシルフィに尋ねてみた。
彼女なら何かいいアイデアがあるかもしれない。
「うーん。それじゃあ村を歩いてまわろうよ。ルディがいるならどこでもいいし」
な、なるほど。
そうか、別に行き先なんて決めなくてもよかったのか。どこに行くかじゃない。誰と行くかが大切なんだ。
そうと決まればいざ、お散歩デートである。
俺たちは手を繋いで村を歩いている。更には談笑なんかもしちゃっている。うーんリア充!
お前前世も嫁3人囲んでたくせに何がリア充だよ。とか言われそうだがそういうことじゃあない。女の子と手を繋いで話しながら歩く。この行為が非常に尊く至福であるのだ。こればかりは経験しないと分からないがな。
「なんだか嬉しいな。2人でまたこうして歩けるなんて」
「そうだな。死んだら終わりだと思ってたからな」
転生を1度経験しているので信憑性のないように聞こえるかもしれないが、俺は本当にベットで妻や孫たちに囲まれて死んだ時はこれが最後なんだなと感じていた。
だからこうして2人で歩いくていることは奇跡にも感じる。
自ずとシルフィを握る手が強くなる。
それに呼応するかのようにシルフィの手も強く握り返してくる。
ある程度歩いていると住宅街を抜け、野原に出た。青々とした草木の匂いがする。
「なぁ、お前なんで髪が緑なんだ」
そんな声が右のほうから聞こえた。そこには小さな子どもがいた。小さなと言っても今の俺と同い年くらいだろう。
その質問を答えるように近くにいた俺より少しでかい子供が言う。
「お前知らないのか、あれは魔族って言うんだぜ。魔族は人間の敵なんだ」
む、なんだこいつ。そんなカスみたいな事言いやがって! ぶち○してやる。
とりあえず顔を覚えてやろうとそいつの方を向く。
あ、こいつなんだか顔に見覚えがあるぞ。確か名前はソメルだったかスメルだったか、
「ソマルくん」
そうシルフィがぽつりと呟いた。
思い出した。
そうだ、こいつはいつも俺たちに喧嘩を売ってたソマル坊だ。
子供が言ったことだがちょっとムカつくな。少し教育してやろうか。
そんな風には考えているとソマルはシルフィの事を指さして言った。
「お、お前魔族だけど可愛いな。よし、お前今日から俺の彼女になれ!」
は、はー〜?
なんだこいつ。シルフィの顔を見た途端に態度を変えやがった。そりゃシルフィは超がつくほどの美少女だがお前にはやんねーよ。この子は俺のもんだ。
「残念ですがこの子は僕の彼女ですので」
言ってやったぜ。
横でシルフィは顔を赤らめている。
するとソマルはシルフィとは別の意味で顔を赤らめて言った。
「な、なんだと。お前騎士のとこの奴だろ。そんな奴が魔族と付き合ってるとか、母ちゃんに言いふらしてやる」
ふ、内容が稚拙だな。所詮は子供か。
どうしてお前は良くて俺がダメな通りがある。まぁこういうめんどくさい奴にはきちんと知らしめておかないとな。
「シルフィ、ちょっとこっち向いて」
「え、うん。ふ、ふぐ、む、むー……っはぁ」
思いっきりディープキスしてやった。舌まで入れた。体はガキだがなかなかエロいキスができた気がする。
ソマルはというとショックを受け、すぐさま怒りを露わにしていた。
「く、くそー、お前なんて」
そう言いながら殴りかかってくる。
はぁ、困ったら暴力か。良くないぞそういうの。
「
ソマルがギリギリ越えられない土壁を作り防いだ。
「いてっ!」
どうやら壁にぶつかったようだ。すると今度は泥玉を投げてきた。
「お前らもやれ」
うぉ、周りの奴らも俺に泥を投げ出した。
く、めんどくさい。やり返してもいいが後々が面倒だからな。
「
そういうと俺とシルフィは宙に浮きはじめる。
「わ、わわ。浮いてるよルディ」
これは俺のあみ出した重力魔術と風魔術の混合魔術だ。名前の通り空を飛ぶことができる。
欠点は歩く程度の速度しか出ないこと、総重量80キロまでしか浮かないこと、そして魔力消費が多いことである。
おもさによって魔力消費量は変わるが、80キロの場合俺の魔力を持ってしても3時間が限界だ。
「お、おい。あいつら浮いてるぞ。全然届かねぇ」
「もういいや、つまんねー。帰ろうぜ」
ガキ共が帰っていく。
ざまぁみろ。高い所から見下ろすと気分がいいぜ。見ろ、人がゴミのようだ。
「ねぇルディ、そろそろ降りよ」
震えながらシルフィがそう言った。どうやら高い所は苦手なようである。こりゃ悪いことしたな。
「すぐ降りるよ」
この魔術、横移動は遅いが縦移動は結構早くできる。5秒程度で地面に着陸する。
「やっぱり高い所は苦手だな」
そうなのか。知らなかった。何かトラウマでもあるのだろうか。シルフィを浮かせるのは極力控えた方がいいかもしれないな。
「でもルディ、かっこよかったよ」
俺の腕をつかみながらシルフィがそう言った。
「ほんと?」
内心ウキウキだがあくまで紳士にスマートに顔色を変えず聞きかえす。
「う、うん。その、惚れ直しちゃった」
何だこの可愛い生き物は。
あ、やばい。思わずにやけてしまう。流石に俺の嫁可愛すぎやしないか。こんなのもう不可抗力だろう。
熟年夫婦と言っても過言ではないほどの関係なのにまるで新婚夫婦、いや付き合いたてかのように黙ってしまう。
「帰ろっか」
シルフィのその一言で帰宅することにした。日も落ちてきていて時間的にもいい頃合いだ。俺たちは手を繋いだまま互いに喋らなかった。なんだか顔を見るのも恥ずかしい。
「じゃあまたね」
「ああ、また」
シルフィを送り届け俺も帰宅する。
家に帰ると、パウロが怒っていた。
怒っていますという感じに腰に手をやって、玄関の前で仁王立ちしていた。非常に既視感のある立ち振る舞いだ。
「父様。只今帰りました」
「なんで怒っているかわかっているか?」
「わかりません」
ほんとはなんとなく分かる。どうせソマルのことだろう。
「さっき、エトの所の奥さんがきてな、お前、エトの所のソマル坊を殴ったそうじゃないか」
ほら見た事か。やっぱりあのクソガキとパウロ目当てである事ない事でっち上げてる迷惑主婦のことだった。
「殴ってません。手すら出していません」
「嘘をつくな。ソマル坊の顔には怪我の跡があったぞ」
それはあいつが勝手に壁にぶつかってできたやつだろう。俺のせいじゃない。
「違います父様。それは……」
「言い訳は聞きたくない! 悪いことをしたらまずはごめんなさいだ」
はぁ、相変わらずめんどくさい。分かっていたが本当に人の話を聞かない奴だなこいつは。
「なんとか言ってみたらどうだ」
「なんとか」
「ルディ!」
バシッ!
いてぇ、殴られた。わかっていても痛いなこんちくしょう。
頬に痛みが残る。だがこれでいい。
「気は晴れましたか? まだならどうぞ殴ってください。どれだけ殴られても僕は謝りません。自分が正しいと思ったことは曲げないと決めてますから」
怒らず冷静にそう言い返す。
「お、お前が正しいと思っても違うことはある」
殴る気なんてなかったのか狼狽えながらだがパウロは反論してくる。
「それはそうでしょう。僕だって人間です。間違えることはあります。けれども初めから自分が違うと認めてしまったら一生自分の思い通りにいきません」
「お前の間違いを正すのが親であるの俺の責任だ」
「話を聞かずに殴るのが間違いを正すことなんですね。初めて知りました。では今度から人を種族や顔などで差別するような人がいたら話もせずに一方的にボコボコにして正していきますね」
「……ちょっと待て、何があったんだ?」
やっと話を聞く気になったか。
「言い訳は聞きたくないのでは?」
さぁどう出る。
俺は知っているぞパウロ。お前はダメなやつだが良い父親だ。
「……すまなかった。父さんが悪かった」
パウロが頭を下げた。
じゃあ許してやる。謝れるところでちゃんと謝れる奴は偉いよ。
俺なんてほぼ100%俺が悪いのにちょっとでも相手に非があるとそれを切り口に口論して結局謝らない、そんなクズ野郎だった。
だから謝ったパウロは許してやる。
俺も溜飲を下げ、事の詳細を出来る限り客観的に話した。
かくかくしかじか
「ですので、謝るのでしたら、そのソマル君とやらが僕とシルフに謝るのが先です。先に手を出したのは彼ですから」
「……そうだな。父さんの勘違いだった。すまん」
パウロはしょんぼりと肩を落とした。
恐らくパウロは父親らしい所を見せたかったんだろう。失敗してしまったがな。だがさっきも言ったが誰だって失敗はするんだ。パウロは失敗から学べる男である。
「謝る必要はありません。今後も僕が間違っていると思ったら、容赦なく叱って下さい。ただ、言い分も聞いてくれると助かります。言葉足らずだったり、言い訳にしか聞こえなかったりする時もありますが、言いたいことはありますので、意を汲んでいただければとおもいます」
「ああ、気をつけるよ。もっとも、お前は間違ったりしなさそうだがな……」
「そんなことないですよ。まぁそう思うなら今後生まれてくる僕の妹を叱る時に参考にしてください」
「おいおい、弟はいいのかよ」
「はい。妹だけで十分です」
落ち込んだ様子のパウロだったが少し元気が戻ってきたようだ。それに何か思い出した様子である。
「おいルディ、それはそうとお前もう彼女作ってキスまでしたそうじゃないか」
うぐ、そんなことまでバレてるのか
「全く、我が息子ながら流石に手が早いと思うぞ」
反論の余地がない……
べ、別にいいじゃないか! 将来結婚するんだし。変に怯える必要は無い。堂々としていればいいんだ、堂々と。
「父様、今度シルフィを家に連れてきます」
「ああ、そうしなさい」
パウロは満足したような顔をすると、俺と一緒に家の中へと入っていった。
何はともあれ一件落着だ。先を知っているとイベント消化感が否めないけど。
パウロ視点は今回ありません。理由は内容がほとんど原作と同じになってしまうからです。
この先の展開どれがいい。(執筆スピードに影響はございません)
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イージールート
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ノーマルルート
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ハードルート