最底辺労働者も思わず同情! 宿無しの日雇い暮らしがこんなにもキツいとは……
お盆期間中は道路工事もたいてい休みなので、我々警備員は各地の花火大会やらお祭やらに駆り出される。遠方の花火大会に行った翌日に市営墓地付近の路上駐車防止勤務というシフトがあり、あれはキツかった。花火が終わってからクルマを運転して会社前に戻ったのが23時過ぎ。それから自転車で帰宅してシャワーを浴びて(第三の)ビール……なんてことをやっていると午前1時半にもなってしまい、わずか2時間ほどの睡眠を経て携帯のアラームにたたき起こされる。そして翌朝5時からの早出に向かったが、到着がギリギリになって先輩に怒られた。すでに霊園道路には昼間のピークと暑さを避けようとするクルマが列をなしており、すぐにもカラーコーンを並べねばならない状況だったからである。
と、ぼやくことの多い自分ではあるが、それでも仕事を終えて帰宅すれば冷蔵庫には(第三の)ビールが冷えているし、お盆期間中こそ「実家に帰らせていただきます」状態ではあったものの妻子もいる。確かに警備員は底辺の仕事ではあるけれど、衣食住という最低限の生活インフラが自分にはあるのだ。
同じ最底辺の仕事でも、住む家がなかったらどうなるだろう? そんな宿無し、定職なしの日雇い生活をルポライターの増田明利氏が1カ月間実体験し、2010年2月に上梓したのが、この『今日から日雇い労働者になった』である。
就いた仕事は古紙回収、ビル清掃、倉庫作業、チラシ配りなどさまざま。日給は8,800~9,600円ほどと、さすがは首都東京というべき高水準(ちなみに愛知県の警備員である自分の日給は8,000円だ)。ところが、収入は自分と同等以上であるにも関わらずに日々の出費がたいてい4,500円以上とたいへん大きく、残る金はその分少ない。
なぜか? 答えは住まいがないせいで、飲食や宿泊が割高になるからである。増田氏の平均的な1日の収支を引用してみよう。
【本日の収支】
〇収入 ビル清掃 9,600円
〇支出
ネットカフェ延長料金 300円
朝食代 308円(チョコパン、ジャムパン、牛乳)
交通費 420円
昼食代 720円(スパゲティー・セット)
飲み物代 100円(アイスココア)
コインロッカー代 100円
判子 105円
夕食代 680円(半チャーハン、ラーメンセット)
夜食代 138円(ロールケーキ)
翌日朝食代 210円(カレーパン2個)
銭湯代 450円
ネットカフェ代 1,000円
合計 4,531円
〇残金 5,069円
増田氏は1カ月の体験ルポの前半、東京・蒲田の激安ネットカフェを定宿にしていた。一泊1,000円という驚きの安さだ。そのため、宿泊費そのものは単純計算で1カ月30,000円と、東京では考えられないほど安く済むのだが、勢い食事はすべて外食になり、それ以外にも銭湯代や、コインランドリー代がかかってくることで、日々の出費が積み重なっていく。
ここで自分を引き合いに出すと、昼食は卵焼きとウィンナー2本を主体にした手作り弁当で材料費はおそらく100円以内。朝食はそれ以下の筈だし、夕食はさすがに品数も増えるし(第三の)ビールも2~3缶呑むので、食費は合計で毎日1,000円くらいはかかっているかもしれないが、現場での飲み物は麦茶持参なので一日3リットル飲んでもコストはせいぜい十円。風呂と洗濯の費用も微々たるものだろう。ちなみに交通費は単車で、リッター30km近く走るから、往復で200円とはかかるまい。コンビニ味噌汁などの買い食いもするのでそれも加味しても、出費はかなり多めに見積もっても一日1,500円で収まるはずだ。となると残りは6,500円。増田氏と比較して1,500円ほど多い。
わずか1,500円かもしれないが、それが毎日続くのだ。20日間で30,000円も違ってくる。この差は間違いなく大きい。
しかも日雇いの仕事は(自分たち警備員もそうだが)、日給月給なので、仕事がない日はまったくの無給だ。そんな日でも自分たちなら自宅にこもって冷蔵庫の残り物で食事を済ませればほとんど出費なしで過ごせるが、宿無しの場合にはそんな日にも出費が同じだけかかってくる。これがボディブローのように効いてくるのだ。
さらに、蒲田のネットカフェのナイトパックは22時からだ。仕事はたいてい18時前に終わるから、それまでの長すぎる時間をいかに過ごすかということも、大きな苦痛の要因となってくる。なるほど、これが宿無しのつらさか。
それもあってか、後半になると増田氏は拠点を南千住の簡易宿泊所に変更する。こちらは三畳一間ほどで風呂もあってネットカフェよりははるかに快適なのだが、一泊で2,200円ほどかかる。それが日々の出費を押し上げることになるのだ。
自分もたまに、夜昼の連勤などで夜勤が早く終わってしまってネットカフェ泊まりをすることがある。たまになら非日常感が味わえてむしろ楽しいほどだが、毎日ならとてもやっていられないだろう。そんな宿無し事情が実感できる書物であった。
前回の『貧困世代』のレビューで、「住宅は最大の福祉制度である」という提言を紹介したが、この本を読んだことでその慧眼ぶりに改めて感心した次第である。