鴉は舞い降りた   作:キサラギ職員

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41、V.Ⅰ フロイト

 

 

 ヴェスパー部隊、番号付き。V.Ⅰ、フロイト。

 フロイトはアイランド・フォーの動乱において作戦率94.7%を記録した稀代のエースパイロットであり、“ただの人間”である。

 すなわち、彼は強化を一切受けていない。日々の努力を積み重ねた、非凡な、天才である。

 機体構成は、アサルトライフル、長射程ブレード、拡散型バズーカ、レーザードローン。パルスアーマー。中量二脚型ACロックスミス。比較的機動性を確保していること以外、何かに特化しているわけではない。にもかかわらず彼が強いのは、その機体を、装備を、活用できているからに他ならないであろう。

 対するは、軽量二脚型ACスティールヘイズ・オルトゥスを駆る、さしずめレイヴン派とでも称するべき軍団に所属する、ただのラスティだ。もはやヴェスパーでも番号付きでもない。機体構成、エルカノ製フレーム。近距離向けニードルガン、レーザースライサー、ニードルミサイル、追従型実弾オービット。対AC戦闘を念頭に置いたそれは、ある意味で特化している。

 

『お前の動きを見せてくれ』

『舐めた真似を、してくれる』

 

 パルスアーマーを展開。緩慢にアサルトライフルを垂れ流しつつ接近してくる機体に対し、ラスティは容赦はしない。オービット展開。ニードルガンで偏差射撃。しかしアーマーに防がれる。

 巴戦に入った。お互いがお互いの背後を狙う、近距離戦闘。

 姿勢を落とし、ブースタを偏向。回転の内側に入り込むと見せかけて、瞬間的に斬りかかる。レーザースライサー起動、すると見せかけた、動きだけのフェイントはしかし、熟達した相手には通用せず、冷静に拡散型バズーカを構えられる。

 

『へぇ、そういう動きもあるのか』

『ちいっ!』

 

 舌打ち。オービット展開し、まっすぐ後方に下がる。バズーカ砲弾がかすった。オービットに命じ迎撃戦闘を行おうとした刹那、レーザードローンが背後に回り込んでくる。

 手動操作でやっているのは明らかだったが、それを強化なしでやる異常性。

 緊急回避。

 展開されるレーザードローン。青い光芒が四方八方走り抜けていく。

 

『面白い、レイヴンとかいうあの子供の動きに似てるな』

『面白い? それならばもっと、面白くしてやろうじゃないか!』

 

 まるで他人事。遊びでもしているかのような口調に、ラスティの言葉が荒くなる。

 

 守るべきものがあるから強いのか、何も背負わないから速く飛べるのか。

 

 どちらも正しいのだろう。どちらが間違いというわけでもないのだろう。

 

『ほぉ、やるじゃないか』

 

 踊る。まさに踊るとでも称するべき機敏な切り返しでレーザードローンの執拗な射撃を回避し、逆にニードルミサイルを撃ち返す。しかし、当たらない。

 冷静にアサルトライフルを発射してくるフロイトに対し、そのリロードタイムを狙って実弾オービットを冷却、射撃で押し返す。

 スティールヘイズ・オルトゥス、ビルの壁面を蹴っ飛ばして機動する。蹴る瞬間にブーストを吹かして跳躍する、さしずめブーストドライブ。

 

『その動きはもらったね』

 

 同じように壁を蹴る、ロックスミス。

 

『ちっ』

 

 スティールヘイズ・オルトゥス、被弾する。アサルトライフルの銃火に捉えられ、実弾オービットが破損。パージ。すかさず反撃としてニードルガンを叩きこみ、敵の最も火力の高い武器であるバズーカの砲身に大穴を穿った。

 動きの俊敏さの余り、周囲の敵味方問わず、とてもではないが割り込めず、うろたえるばかりだった。誤射の危険性が高いからだ。

 

『私には、愛するべき人がいる。守るべきものがある!』

『それが戦いに関係あるといいなァ……だがな、そんなもの、ないんだよ』

 

 冷徹な言葉がフロイトから漏れ出す。彼にはACしかなく、故に強く、だからこそ片腕を犠牲に突っ込んでくる攻撃方法が理解できない。

 アサルトライフルの射撃を右腕で受けつつ、左腕でレーザースライサーを起動、起動状態で機体をスピンさせ全方位を薙ぎ払う。

 ロックスミス、アサルトライフルを喪失。すかさずバックステップを踏み、逆に長射程ブレードで斬りかかった。

 

『まだまだ!』

 

 スティールヘイズ・オルトゥスの右腕が引き裂かれる。機能をほとんど喪失した腕はしかし、まだ生きていた。相手の首根っこをつかみ取る、捨て身の攻撃。

 

『ああ、その動きじゃ……』

『フロイト、お前を倒せればそれで結構、刺し違えてでも……!』

 

 フロイトには理解ができない。被弾すれば、任務が達成できない。まるで咎めるような言葉を口に出す。

 ラスティにとっては、十分理解できる行動だ。フロイトさえ倒せれば、あとはレイヴンがなんとかしてくれる。彼女であれば勝てる。例え自分が死んだとしても、後を受け継ぐものがいる。

 ラスティは、そのまま機体を優秀な推力比に任せて放り投げた。ぶちりと右腕が千切れ、その成果として、フロイト機が姿勢制御を失い決定的な隙を晒した。蹴りをぶち込み、追撃。ビル壁面に追い込み、埋めてやった。

 レーザースライサーは冷却中。ならば、殴るのみ。左腕を振りかぶり、コアに直撃させる。殴る、殴る、そして、レーザースライサーを起動。

 

『動け、動け、ロックスミス………ッ! まだ、これからもっと……面白く……』

『おおおおおっ!!』

 

 回転斬り。直後、背後から無数のレーザードローンが、青い光でスティールヘイズ・オルトゥスのコアを串刺しにした。最後の一発、コア中央を貫く一発はターミナルアーマーが作動して受け止めた。

 崩れ落ちる、両者。

 ロックスミス、コアが陥没し、溶解し、ぴくりともせず。

 スティールヘイズ・オルトゥス、コアに無数の穴が開いていた。

 

 遅れて、戦場が動き始める。

 MT部隊が殺到し、争う。企業のMTが、RaDのそれと熾烈な射撃戦闘を展開。

 

 

 相打ち。

 

 

 V.Ⅰ、フロイト。死亡。

 ラスティは………。

 

 

 

 

「はっ、はぁっ………まだ、私は死ねない……!」

 

 炎上し始める機体から転がり落ちたのは、額からざっくりと出血しているラスティであった。腹部をレーザーで焼かれたか、パイロットスーツの一部が炭と化している。整った顔を歪めつつ、サバイバル・バッグを引っ張り出して、這って行く。骨が折れているのか、動くたび激痛が走った。

 衝撃。振り返ると、企業のMTが着地し、見下ろしてきていた。力なく壁に寄り掛かり、睨みつける。

 

「………! レイヴン、あとは…………ああ、せめて、君の、顔をもう一度……」

 

 ラスティは、バッグからパイロット最後の武器、拳銃を抜くと、企業のMTに照準。撃つ、撃つ、弾かれる。

 企業のMTはアサルトライフルを向けて、

 

 

 

 

 

『やらせるわけないでしょ!』

『速く救助を!』

 

 遠方から放たれた狙撃弾が、企業MTを貫通、爆発させた。

 ラスティを守るようにRaDメンバーが降り立つ。一機は自動操縦だったのか、無人のコックピットを晒していた。乗れと言うことらしい。操縦席に這っていくと、サバイバル・バッグから麻酔薬を取り出して首筋に刺す。効果はすぐに表れる。痛みが消えて、代わりに恍惚感が襲い掛かってきた。

 

『あんたは後方に下がれ! ボスの命令だ。死なせるなだってよ!』

 

 RaDの一人が無線でそう話す。ズドドドドと猛烈な音を上げてマシンガンを撃ちまくる。

 轟音に負けないように、ラスティは声を張った。

 

「しかし、それでは君たちが……」

『あのバケモノパイロット食ってくれただけで十分! 上等だよドーザー魂見せてやんよ!』

「……すまん!」

 

 コックピットハッチ閉鎖。ラスティは、後方へと撤退した。

 ちらりと振り返ると、スティールヘイズ・オルトゥスが燃えて、真っ黒に染まっていくのが見えた。

 

 

 

 

「君ならやり遂げる……そう信じよう。あとは頼んだぞ、レイヴン!」

 




エヴァンジェのセリフをパク…オマージュ

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