第4話 発掘作業、意外な結果

「なんで俺が自腹でスコップ買う羽目になってんだコラ」


 近くのホームセンターにパシらされた挙句、自腹で人数分のスコップを買わされた燈真は半ば怒り気味に吐き捨てた。


「いいでしょ別に。退魔師やってんだからケチらない」

「そりゃお前もだろうがよ」

「私は弟妹がいるでしょ。あの子たちに使うんだから」

「くそ。っていうか埋蔵金掘るのにちっこいスコップなんぞ役に立たんだろ」


 燈真はそう言いつつ、神主のおじさん化け狸から苦笑まじりに「まあ、この林なら掘り返しても構わんよ」と言われた場所にやってきた。

 ちなみにスコップは税込で二二〇〇円。それが五つ。決して安くない出費だ。

 すると光希はとんでもないことを言った。


「狐連中なら変化解いて足で掘った方が速いんじゃねえの」

「は? おい、椿姫、雄途、なんで先に言わないんだ」


 椿姫と雄途が顔を見合わせて、こう返す。


「「面白いから」」

「どーうどうどう燈真、平手でもよせ、友達と女が相手なんだ」


 光希に羽交締めにされた燈真は聞こえよがしに舌打ちし、スコップを手に足元をこつこつつついた。


「ったく。万里恵、幕末生まれのお前なら目星ついてないのか?」

「私平成に入るまでフラフラしてたからよくわかんないんだよね。魅雲村の知識なんて椿姫たちと変わらないわよ」

「ふぅん……まあいいや。とりあえず五時になったら切り上げな」


 燈真がそう言うと、四名は頷いた。

 それぞれスコップ片手に穴を掘り始める。適当に、ほとんど勘で目星をつけて掘っていく。

 だが、当然ながらそれで埋蔵金という隠語の呪具が見つかるかといえばそんなことはない。時間だけが過ぎていき、空も段々明度を落としていく。

 一万以上も無駄になったのかよ、と口に出しそうになったがやめた。まあ、スコップは一つあればそれなりに役立つ。園芸目的でも、ペットの糞の始末でも、あとは弟妹やなんかに譲れば遊具になる。

 そう思えば、燈真の買い物も無駄ではないだろう。菘あたりに渡せば喜ぶし、それでいいのだ。

 と、


「ん……」


 燈真のスコップが硬いものにあたった。ゴツ、と先端が跳ね返される。


「なあ、来てくれ」

「どうしたんだよ燈真」

「便所なら神社にあるぜ、野糞は流石に女子の前で——」

「光希、お前は男だからグーで行くぞ」

「悪いって。で、何」


 女子二人は別の場所で声が届かないらしいが、雄途と光希は来てくれた。燈真がスコップで、硬いものを示す。


「なんかある。周り掘り返してくれ」

「マジ? 五億ありうる?」

「ちょうど五人いるし、一人一億ってことか!?」


 テンションが上がる狐と雷獣。燈真はそんな上手く行くかよ、と思いながら掘り進めた。

 しかし、実際に顕になるのは木箱のようなもの——縦横三十センチほどで、厚さは十センチ前後。


「おいおいマジかこれ……」

「雄途、俺らやっちまったかもしれねえ。燈真、お手柄だぜ!」

「まあ税金とかでだいぶ引かれそうだけどな」


 夢がないリアリスト、漆宮燈真。人間社会で暮らせばそうなるか——と、雄途と光希は苦笑する。

 掘り起こした木箱を手に取ると、それなりの重さだ。


「椿姫、万里恵! こっち来てくれ!」

「なによ燈真ー」

「トイレなら神社にあるでしょ」

「なんでお前ら俺の腹の心配しかしねえんだよ。胃腸は弱くねえっての」


 五人揃い、椿姫と万里恵は目をまん丸にした。


「えっ、マジ?」

「椿姫、あんたに仕える忍者だからって取り分上納しないからね」

「とりあえす神主さんに見せようぜ。下手に開けて邪気でも漏れたら困る」


 燈真の意見に、全員が頷いた。下手な妖気・邪気は悪霊の類を呼んだり、最悪魍魎を発生させる。

 発見者の燈真ではなく、この中で最も曰くつきに耐性がある万里恵が抱え、運んでいった。

 社務所の前に来ると、まだ神主と話し込んでいた柊が振り向く。


「お、なんだ。いい年して泥遊びか」

「違うわよ柊! 私たち億万長者になったの!」

「はあ? なんのことだ」


 雄途が胸を張りながら言う。


「埋蔵金ですよ柊様! 俺ら、埋蔵金見つけたんです!」

「マイ雑巾?」

「柊、つまらない。やり直し」


 子孫からの辛辣な評価に、柊は閉口する。


「まあ、柊ならこれ開けても大丈夫かな。知ってんじゃない? ここにあるっていう五億の呪具」

「ああ……退魔局が警戒しておるあれか。いや、うん? これはただの箱だぞ」

「「「え?」」」


 柊から突きつけられた無慈悲な言葉に、五人が固まる。


「お主らのことだから厳重な封印で妖力さえ漏れぬと思っておったか? 残念だがこれはただの箱。中身は……」


 万里恵の手から受け取った箱を開けた。中身は、雑多なガラクタである。


「木箱自体は妖木で腐りにくいものだが、中身はご覧の通り。いわゆるタイムカプセルだ」

「「「えーーーーーっ!!」」」


 あっけない結果に、流石に現実的に考えていた燈真でさえ肩を落とした。

 柊は腹を抱えて笑い出す。


「くっくっく、子供が呪具を見つけられるものか。それに、その呪具はもう見つかった」

「えっ、柊様、見つかったんですか?」

「ああ。お主らが来る前に妾が見つけて、神主に渡した。ここへ来たのは祭りに先んじて、危険なものを排除するためだな。毎年いちいち結界で守りを固めるのも面倒ゆえ、妾の千里天眼でさっくり見つけた」


 なんてことだ。そんな空気が漂ったが、すぐにその通りだなと納得できた。

 数億単位の呪具など等級にすれば間違いなく特等級。そんなものが野放しになっていれば村民も安心できないだろう。いくら九尾が守る土地とはいえ、不安である。


「なーんだ、燈真のせいで肩透かしよ」

「俺か? そもそもこの話題出したの光希だろ!」

「俺ェ!? 姉貴が——」

「喧嘩するな馬鹿どもが。全く、若造めが。ほれ、掘った穴を戻してこい。説教は勘弁してやる」

「「「はーい……」」」


 なんとも見事に無駄に終わったが、まああのワクワクと宝探し感の興奮はプライスレスだ。

 燈真たちはそう思うことにして、林に戻った。

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