第3話 埋蔵金
龍神様に会って二週間余り、高校の一年生たちは地域奉仕のため午後の授業を切り上げ、村にある稲荷神社まで来ていた。道中、燈真たちは秋祭りが近づいていることを、村の雰囲気から感じ取っていた。
九月中旬に行われる秋祭りまであと三日ほど。長いようでいて短い期間である。高校側もお祭りに寄せた地域密着の活動として、各班に分かれてお祭りを行う魅雲稲荷神社の清掃活動を行なっていた。
そんな九月十八日の水曜日の午後、燈真は所属していた班のメンバーと共に真面目にゴミ拾いをしていた。まあ、神社の巫女さんたちが清掃しているので実際は落ち葉拾いだったり草むしりなどだが、単純作業なので余計な思考が払い除けられ落ち着いてのんびり活動できる。
燈真は班員の一人、一尾の妖狐の少年——
「清掃っていうか、雑用じゃねえか?」
雄途はそう愚痴った。燈真は肩をすくめ、
「地域奉仕なんてそんなもんじゃないか? 俺がいた明白町もそんなだったぜ」
「明白町って、
「街並みはイギリスでも、顔ぶれは大半が日本人だったけどな」
他の生徒も落ち葉や折れた枝などを細かくまとめ、持ってきた。全員学校指定の水色のジャージ姿である。暑い者は上を脱ぎ、体操着になっていた。燈真も上は半袖の体操着で、ジャージの上着は腰に巻き付けている。
そろそろ涼しくなってくれてもいい頃だが、現実はそうもいかない。残暑が厳しく、炎天下というほどではないにしろ、集中が途切れるとじっとりと汗ばんでいたそれらの不快感が押し寄せてくる。
神社はみるみる綺麗になっていき、勤めている巫女さんたちが「休憩でもいかがですか?」と声をかけ、隅でかき混ぜていた豚汁を振る舞ってくれた。
その巫女の中に柊が混じっており、彼女は大鍋から豚汁をよそうというおおよそ九尾の妖狐がするとは思えないことをしていた。
クラスメイトはそれについては何も言わない。ということは、こう言った光景は魅雲村では当たり前なのだろう。
神社の隅で豚汁を啜っていると、手伝いに来ていたのか竜胆もいて、彼は神主と思しき老爺と何やら会話をしていた。
村の相談役的な立ち位置にある稲尾家にとって、こう言ったイベントにおいては積極的に助言を求められるのだろう。竜胆も若くしてその役目を担っている……そういうことに違いない。
熱々の豚汁を食べていると汗もどんどん滲むが、悪い気はしなかった。赤だしで具沢山のそれは食べ応えもあり、疲れた体に染み渡る。
他のクラスメイトたちは談笑しつつ、燈真は光希と雄途と一緒に、ほとんど食べることに集中していた。
やがて白い器の中身がなくなった頃、光希が取っておいた豚肉を頬張りながら言う。
「知ってるか、この神社の境内に埋蔵金があるらしいぜ」
とっぴな物言いに、燈真も雄途も目を丸くし、顔を見合わせた。
いきなり何を言い出すのだろう——光希は続ける。
「現地解散だし、あとで探さねーか?」
「怒られないか? 俺嫌だぜ、柊から三時間も説教されんの」
「柊様って三時間も説教するのか……」
雄途が呆れ顔でそう漏らした。
燈真と光希は過去に三回ほど説教されているが、いずれも三時間は長話を喰らっている。しかも冒頭五分が真面目な説教で、あとは延々柊の武勇伝を聞かされるという聞く地獄である。
気持ちよさそうに話す柊に上手いこと相槌を打てば、最大で一時間は説教を短くできると椿姫や万里恵、竜胆が言っていたが……とにかく、説教は避けたかった。
「まあまあいいじゃねえか。バレなきゃいいんだよ」
光希は楽天家だった。
そもそもなぜ埋蔵金があるだなんて噂を信じているのかはしらないが、よしんば見つけても国に接収されておしまいではないだろいうか。ああいったものは個人の資産にできるのだろうか。
それに、
「曰くつきのとんでもないものじゃないだろうな」
燈真が雄途と光希の器を回収し、自分のと重ねて近くの回収用ゴミ袋に突っ込む。
「さあな。でも妖怪の俺らにとっちゃ、呪いとか祟りなんて当たり前だし。なあ雄途」
「おう。何なら俺はその代表みたいな妖狐だぜ」
「馬鹿野郎俺は人間なんだよ」
「んだよ男だろ。キンタマの小せえこと言うなよ」
小さくねえよ。
「あんたらなに盛り上がってんの」
そこに椿姫と万里恵がやってきた。ジャージ越しにもわかる恵まれた体が、周りの男子の憧れとなる理由だ。ちなみに万里恵は学生ではなく一般妖のボランティアとしてゴミ拾いに参加しているので、私服である。
光希はずばり腰に手を当て、
「埋蔵金、興味ねえか?」
椿姫は生真面目だしそういうの興味ないだろ、と燈真は思ったが、
「なにそれ。柊が言ってた噂話? あんなの菘を喜ばす嘘じゃないの?」
「そーよ。菘ちゃんとか竜胆君を乗せる口車でしょ?」
万里恵も椿姫に賛同していたし、燈真も同じくである。だが光希は諦めない。
「分かってねえなあ。この境内のどっかに、現代の日本円レートで五億相当の呪具が埋まってんだ。退魔局もそれを知ってる。それが埋蔵金の正体だ」
「なんであんたがそんなこと知ってんのよ」と椿姫。
「すっげー前に姉貴が愚痴ってたんだよ。酔ったはずみでな。俺らが見つければ退魔局から報奨金に加え、もしかしたら等級昇格だってあり得るんだぜ?」
等級昇格——それは退魔師にとっては、昇給に権限拡大が伴う魅力的な言葉であると同時に、退魔師としての力量を認められる証拠でもある肩書だ。
最強の退魔師を目指す燈真にも、無視できない話である。
「ふぅん……まあ、小一時間くらいなら付き合ってあげていいけど」
「椿姫は甘いんだよなあ……断る理由は確かにないし、私もいいけど。燈真たちは?」
「しょうがない、付き合うよ。雄途はどうする? 退魔師じゃないだろ」
「仲間外れにすることないだろ? 報奨金には興味あるし」
都合五名、埋蔵金こと呪具探しに参加することとなった。
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