第5話 鉄山羊団
そんなシアンズリバーの聖五芒星教
このシアンズリバーには小教区が合計で十二個あり、それぞれに建てられた教会が住民の誕生から死、婚姻に至るまで祭事や記録を執り行っている。
「僕はここ二年くらい真面目に礼拝には来てないな……」
「強制じゃあないし、でも……教会には来るんだろ?」
「団員が結婚したり、あと見送ったりするときはね」
見送ったり、と言った時、ジークの顔には微かに
ノエルが微笑んで、
「時々お祈りに来るといいですよ。少し、楽になります」
「……そうだね」
教会に入ると、ステンドグラスを背景に女神ステラミラの像が佇立していた。四本の腕に
肉感的な体つきは、実際の姿かそれを作った者のこだわりか。
女神は両目を布で覆い、微笑みを浮かべている。
司祭が一人一人と言葉を交わしたり、特に話がないものは席についてお祈りをしている。エストたちは特別話がないので席につき、五芒星を切った。
瞑目して仕事がうまく行くことを祈り、それから個人的な祈りを捧げる。
すると、ガシャガシャと鎧の音がした。
同業がやってきたのだろうか——そう思って顔を上げると、司祭の側に武装した神官が立っており、何やら耳打ちしていた。
(マキナータ? 珍しいな)
マキナータとは、暗黒時代に生まれたとされる種族である。高度な先史文明であったとされる古代人の機械人形に魔力が宿り、長い年月をかけ金属と機巧の肉体でありながら子孫繁栄が可能になった……らしい。
詳しいことはわかっていないが、暗黒時代以前のことなんてそんなものだ。神の怒りに触れた民が住む南西土地は、星の裁きと呼ばれる現象で一夜にして砂に没したとか、そんな話もある。
「いきましょうか、エスト、ジーク」
「ああ」「行こうか」
教会から出ていく三人を、武装神官の女性マキナータがじっと見ていた。
×
水路脇の廃道は、薄暗くジメジメしておりカビ臭かった。エストは閉口して、目が闇に慣れるのを待つ。しばらくして夜目が利くと、暗い場所でもはっきりと視界を確保できるようになった。
エストは既に抜刀している。先頭に立ち、水が滴り落ちるそこへ踏み込んだ。
一歩ずつ進み、地面の感覚を確かめる。どの程度の力加減で進めばいいか、どうすれば滑らないか。それらをハンターとしての勘で掴み取り、エストはだんだん感覚を学び、いつもの速度で歩き出した。
後ろではノエルが同じように歩いており、ジークは経験が長い分すぐに慣れて歩いている。ノエルは杖を、ジークは機巧仕掛けのクロスボウを腰に構え、警戒しつつ進む。
「お前ら、何もんだ」
廃道に並ぶ柱の陰から男たちが四人、出てきた。いずれも人相が悪く、身に纏うのは粗悪な軽鎧。手には、一応はマシな剣を握っている。
いきなり切りかかってこないだけマシかと思いつつ、エストは言葉を発した。
「鉄山羊団にここを立ち退いてもらいたい。ついでに言えば、ラッセル・バークレーとその腰巾着であるショーン・トンタスにもな」
「何言ってやがる、ショーン様がそんな条件呑むわけねえだろ! やっちまえ!」
ち、と舌打ち。短絡的な思考に終始していることは分かり切っていたが、ここまでいきなり敵対するとは思わなかった。
「いいのか、こっちは現役のハンターだぞ!」
「うるせえ! 逃げたって殺されるんだ、構わねえやっちまえ!」「男二人は殺せ! 女は生かしておけよ!」「たっぷりイかしてやるぜ!」
エストは振り下ろされた剣を右に払いのけ、切先を喉笛に突き立てた。判断は早い。山賊や悪漢を切ったことは何度かある。だが、人を斬るこの感じは——慣れない。
「くそっ、ジョージ! てめえ!」
別の男が飛びかかってくるも、ノエルが「フレイア!」と声を鋭くしながら杖を振ると、赤い魔石から火炎の玉が飛び、それが相手の顔面に直撃。
皮膚と髪を焼かれ、もんどりうってのたうち回る。溝に溜まった水に頭を突っ込んで消火するが、焼かれたショックで気絶していたのかそのまま顔を上げることはなかった。
「二人とも、伏せて」
ジークの指示に従い、エストとノエルはその場に伏せた。すると歯車が噛み合って回転する金属音と、連続で弦が引かれる音、そしてボルトが速射される激しい射撃音がした。
弾幕。そう呼ぶに相応しいボルトの嵐に晒された二人の男はヤマアラシのようになり、昏倒する。
機巧クロスボウを上げると、ジークが片眉を上げた。
「職人に頼んで作ってもらった僕の一品さ。この世に一つだけの、最強のクロスボウだよ」
「すげえ……」
エストは剣についた血を払い、布で拭いつつそう漏らした。
襲いかかってきた男たちの遺体はあとで弔うとして、三人は奥へ進む。
すると明かりが見えた。
奥の小部屋である。何かの詰所だろうか。
気配と足音を殺し、側に寄ると話し声が聞こえてきた。
「……発掘作業は、芳しくねえです」
「私が急げと言っているのにか! バークレー伯爵のご命令だぞ!」
「そう言われましても、人手が……」
「ええい、この……おい、見張りも呼べ。奴らにも発掘作業をさせるんだ」
「いいんですかい?」
「見張りに四人もいるか!」
エストはジークに視線を送った。ハンドサインで、トンタスは生かしてくれ、と指示する。彼はこくりと頷き、身を乗り出した。
「な、なんだ貴様!?」
「一般ハンターさ」
機巧クロスボウの引き金を引く。魔力ディスクが回り、秒間八発の速度で上下の弦からボルトが射出された。中にいた男たちを貫いていき、弾雨の中でトンタスは怯えて丸くなっている。
十秒ほどの斉射の後、ジークはボルトが収まっていた箱を外して新しいものと取り替えた。
「ひっ、ひぃぃいい!」
「ショーン・トンタス。いや、サー・トンタスとでも呼びましょうか」
ノエルが前に出て、トンタスを睥睨した。白黒のケープが、廃道の湿気で重く垂れ下がっている。それがまるで、折り畳まれた竜の翼のように見えた。
「あなたを連行します」
リミナル・テラシス — お前らっ、笑うんじゃねえ! 新米狩人はなぁ、最強ハンターを目指して人外娘たちに囲まれながら過酷な狩りをしてんだよッ! — 夢咲ラヰカ @RaikaRRRR89
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