NHKの根幹を破壊する前田前会長の「人事制度改革」
前田氏は、就任直後からNHKの人事制度の刷新に意欲を燃やしてきました。2023年1月の退任時のスピーチにおいては、次のように述べています。以下は内部協力者から入手した、文字起こしです。
非常に難しい問題を抱えているこの組織を、こう人事制度改革とかに触らずに、うまくいく事はありえないと思います。〈中略〉この人事制度改革につきましては、本当に皆さんから見ればとんでもないことをやってくれたと思うのでしょうが、それは当たり前でして、そういうのに慣れ親しんだ方から見れば、とんでもないことをやってくれたということと思いました。
しかし、ですね、若い方の立場から見ると、50歳越えないと局長なんかになれませんよ、という、そういう制度で本当にいいのか? 〈中略〉入社した時、皆さんこれくらい幅の広い能力を持っているんですけど、縦であなたは記者ですよね、あなたはアナウンサーです、あなたはドラマ作ってくださいって縦で決めて、適材適所で本当にきちっとハマればいいんですけども、若い時と年齢があるとこまでいった時とは、自分が一生この道一筋でいくと確信を持って仕事をできる人は僕はいないと思います。
前会長肝いりの「放送キッザニア」
とりわけ大きな問題となったのは「専門性よりも、ゼネラリストであることが大事だ」という育成方針の大転換です。NHK職員のうち、ディレクター・アナウンサー・記者・技術職は入局後少なくとも5年以上は緊急報道に必要な放送スキルの獲得のために地方局を中心に“修行”を積みます。しかし、前田氏の施策は、そうした専門性を軽視。ジョブローテーションを導入しました。何のスキルもない新入職員が短期間のうちに様々な部署を転々とする状態に陥ってしまったのです。
この状況、局内では「放送キッザニア」と揶揄されていましたが、前田前会長の肝いり施策ということで誰も抵抗することはできませんでした。その結果として、先陣を切って緊急報道に取り組むはずの若手が全く育っておらず、そもそも放送が出ないような状態に陥りました。
加えて、前田氏は「シニア斬り」にも取り組みました。確かに、50代以上の職員はダブついています。とりわけ、バブル期は衛星放送の拡大戦略も相まって、ディレクター職単体で200人超だったと聞きます。2007年入局の私の代が全職種合計で110人、ディレクター職単体で30人ほどですから、いかに多いかわかりますよね。しかし、この「シニア斬り」で問題だったのは、高度なスキルを持つ職員まで一斉に退職に追い込んでしまった点です。

