ロシア海軍による液体放射性廃棄物の海洋投棄に関する会長声明
ロシア海軍は、去る10月17日ウラジオストク南東約200キロの日本海において、内容も量も隠したまま液体放射性廃棄物を投棄した。ロシア政府は一応予定されていた再投棄の中止を発表したものの、今後の再投棄の可能性は否定していない。
環境中に直ちに拡散する液体のままの状態で、放射性物質が投棄されたことに対して漁業関係者をはじめとする日本海の沿岸諸国民からは、海洋汚染による生命、健康、生態系への影響などに対する不安と懸念の声が高まっている。
いわゆるロンドン条約(1972)及びIAEA(国際原子力機関)の基準(セーフティ・シリーズ NO.78)によれば、高レベル放射性廃棄物の海洋投棄は全面禁止、低レベル放射性廃棄物については容器に封入されたものは、一定レベル以下のものであること、当該国の許可があること、水深4000メートル以上の海底であることなどを条件に投棄を認めているが、液体状の容器に封入されていない放射性廃棄物の海洋投棄は禁止されている(1985年には旧ソビエト政府は留保したものの、低レベル放射性廃棄物の海洋投棄の一時停止が決議されている。)。従って今回の海洋投棄は1985年の決議に反するだけでなく、IAEA基準に違反しており、従ってロンドン条約にも違反している疑いが強い。
また「海洋法に関する国際連合条約」(1982)は、いずれの国も海洋環境の保護及び保全に関する自国の国際的な義務を履行する責任を負う、とうたっている。今回のロシアの海洋投棄は、この国連条約の精神に反するものである。
日本弁護士連合会は、このような海洋投棄に厳重に抗議するとともに、今後の海洋投棄計画を全面的に撤回する事をロシア政府並びにロシア海軍に要求する。
また日本政府に対し、ロシアの海洋投棄を即時中止させるためにあらゆる外交手段を取るとともに、これまでに海洋投棄した放射性廃棄物に関して、量、内容、廃棄の態様などの情報の開示を求め、またこのようなロシアの暴挙を招いた遠因となった日本政府自身の低レベル放射性廃棄物の海洋投棄方針を撤回する事を求める。 さらに、このような海洋投棄によって生態系が受ける影響については慎重な調査が必要である。日本政府は安易な安全宣言をするのではなく今後の海洋汚染の調査を組織的継続的に責任を持って行うべきである。また、日本政府は来る11月に予定されているロンドン条約締約国会議において、低レベル放射性廃棄物を含むすべての放射性廃棄物の海洋投棄が禁止されるように率先して、ロンドン条約を改正するよう締約各国に働きかけるべきである。
1993年(平成5年)10月26日
日本弁護士連合会
会長 阿部三郎