女子トイレを使うのは誰?

結構皆さん誤解があるように感じています。私は性別を女性に変更したわけですが、生活を完全に女性に切り替えてから、手術と戸籍変更に至るまで、15年ほどタイムラグがあるのです。ですので、そういう見地から、「女子トイレ問題」を考えてみたいと思うのですよ。

1. 女子トイレに男性が入るのは犯罪か?

実はそんな条文はありませんし、実際には多くの男性が合法的に女子トイレに入っています。トランスジェンダーはまったく無関係なのです。

・施設の管理者が、さまざまなメンテナンスのために、女子トイレに入る。消耗品の補充もあるだろうし、あるいは施設の営業が終わってから、「誰も隠れていない」のを確認する防犯のため、という目的もある。
・トイレの故障などの事態があれば、水道業者などが入って修理するのは当然。
・トイレの中で気分が悪くなった人がいれば、救急隊員などが立ち入ることも、ある。また、犯罪があった場合にも、捜査官は入るでしょうね。
・幼稚園児などが母親に連れられて入ることも....小便器設置の女子トイレ、ありますからね。

というわけで、現実問題として、「男性が女子トイレに入ったら犯罪」は法律として運用不可能です。ですから、そんな条文はありませんし、これからできることもないでしょう。

もちろん、覗きなどの性犯罪目的で女子トイレに侵入して、逮捕される事件はよくあります。もちろんこれは、

・「覗き」「盗撮」が目的ならば、軽犯罪法に触れる
・わいせつ目的があるのならば、刑法に触れる

のは言うまでもありません。性犯罪目的の場合には、それなりの処罰規定があります。では、それ以外のケース、ということになるわけです。その場合に適用されるのは、「家宅侵入罪」です。言い換えると、施設管理者による立ち入り制限の意思を無視して「侵入」することを、処罰しようという理屈です。ですから、最初に挙げた「正当な業務」なものは、施設管理者の意思に反しないから、違法性がない、ということになるのですよ。

つまり、施設管理者の胸先三寸なのです。これをよく認識しておく必要があります。

これは私の実経験ですが、2000年くらいだったかな、とあるマンガ喫茶で、女子トイレの入り口に「いかなる理由があっても、戸籍上の男性は女子トイレに入らないでください」という張り紙がしてあったのを目撃しました。何かトラブルがあったんでしょうね.....こういう張り紙がされていたら、これは差別なのでしょうか?それとも施設管理者の権限なのでしょうか?

トランス女性は女子トイレに入らないでください

こんな張り紙が女子トイレの入り口に貼られる時代は....来てほしくないですね。

2. 女性にとって、女子トイレとは

まずそこから問うべきでしょう。やはり、周囲が女性だけになる環境が、女性の生活にとって必須なのです。女で暮らすと、男性の性的な視線というものを、警戒もしなければいけないし、余計なスキを与えてはいけない、というのが女性の心得であることが分かってきます。男性がいるところで、お化粧を直すのは恥ずかしいですし、髪を整える、衣服を整えるなどの、無防備になる時間を男性と共有したくはないのです。

これは女性固有の要求であって、絶対に譲れない部分です。これについて、妥協がありうる、と思ってはいけません。ですから、いわゆる「ジェンダーフリートイレ」、すべて個室で誰でも使えるトイレは、絶対に女性に使ってもらえません。個室内の安全は確保できても、個室内に拉致されたら終わりですから。周囲に「女性だけ」がいる状況というのが、一番安全なのです。女性同士で利害が共通するために、確実に守ってもらえる保証があるからです。女性同士が相互に安全を保障しあっているわけです。

もちろん、女性にも女性を愛するレズビアンはいます。性的被害がありえないのか?といえばそうではありませんでしょうが、逆に問題を起こして女子トイレから総スカンを喰ったときが悲惨です。常識があれば、レズビアンが女子トイレで性的暴力をふるうのは、自殺行為だと分かるはずです。

しかし、です。どんな女子トイレでも、

入るにあたって、女性であることを証明する身分証などを提示する必要があるトイレ

というのには、誰もお目にかかったことがないでしょう? これはなぜなのでしょうか?

3. 人々の方法論

私は社会的性別を女性に変更してから15年間、戸籍と性器が男性でしたが、まったく見かけが女性だったこともあって、女性の服装をしているときには女子トイレしか使いませんでした。それで、何の問題もないのです。もちろん、行列に並びます。自分の番になったら....出てきた方が会釈してくれますよ。

おそらく女性に移行した後の勤め先では、女性社員は事情を知っていたのでは?とも思うのです。それでも何の問題もなく、女子トイレでは会釈して使っていましたよ。そんなものです。

逆に男性モードで男子トイレに入って「ぎょっ!」とされることが移行期とその前には結構ありました。見た目・雰囲気が完全に女性化していたわけですね。だからこそ、女子トイレでは何のトラブルもないわけです。

つまり、「パス度」がすべてなのです。いかに「女性としての常識と態度を身に着けて」いて、見た感じ不自然ではないか。これがOKならば、誰も戸籍なんて見ようとも思わないわけですし、パンツの中身も関係ありません。それどころか、レズビアンかどうかなんか、チェックのしようもありませんしね。

それでもこの「見た目による判断」が十分機能するのです。言い換えると、「女子トイレを誰が利用できるのか」という問題は、法律的な問題ではなくて、社会学的な問題なのです。女子トイレで成立する「コミュニティ」に受け入れられる成員と、排除される非成員を区分する社会学的なルールが、現存するのです。それが「一瞥による判定」なのです。

パッと見て、女性にしか見えなければ、女子トイレを使っていい。「あれ?」と思われる部分がある方は、ご遠慮を。

こういう曖昧なルールですが、これがしっかり機能しているのです。これは、女性固有の「性被害を可能な限り避ける」目的での、「蓋然的だがコストの安い」解決法のわけです。「相手の見た目が女性なら、自分が性被害に遭う可能性は低い」というこんな「人々の方法エスノメソドロジー」にそれなりの妥当性があることを否定できません。

ですから、トランスジェンダーを含めた場合での、女子トイレのルールが現実にないわけでは決してありません。しっかりとした、ルールがあるわけで、闖入者はそれによって裁かれることになるのです。

4. 戸籍変更の手術要件が廃止されたら?

トランスジェンダー・クィア派が中心になって、GID特例法の手術要件を廃止しようとしています。私は実は、反対なんですね。もちろん、とくに FtM さんで身体的な負担が高い性別適合手術(SRS)を避けたい、という方がいるのは承知の上です。でも、これって実は、戸籍を変えてパートナーさんと結婚したい方が多い、ということのようにも感じるのですよ。だったら、同性婚を実現すれば、特例法とは無関係に結婚できることになりますし、また、現状の世論を見る限り、同性婚の実現の方がずっと社会に受け入れられやすい主張のようにも思うのです。

いや、戸籍変更に妙な期待をされる方が多いようです。あんなの、ただの紙きれです。トランスジェンダーのQOLをアップするのは、一にも二にも「パス度」です。「パス度」が高ければ、戸籍が何だろうと女性で通用しますし、「パス度」が低ければ、戸籍が女になっていても苦労するだけです。これが厳然とした、現実なのですよ。

しかし、とくに女子トイレの問題としては、戸籍がやや絡む問題もあるのですよ。もし、トランスセクシュアルで戸籍も女性に変えた MtF、でもパス度が低い方が、女子トイレを使ったとします。「あれ?」と思う女性がいて、通報されたとします。その時、身分証明書が「女」になっていれば、とりあえず問題にはならないでしょう。釈明ができるわけです。なぜなら、現状では手術要件と戸籍変更が結びついているので、戸籍が女ならば、おそらく性被害を受けることがない、というのを証明できるからです。

これが、手術なしで戸籍を女性に変えることができるとします。そうすると、身分証明書を見ただけでは、「性被害を受けるかどうか」を判定できないわけです。この状況は、パス度が低い手術後のトランスセクシュアルにとって、悪夢以外の何物でもないですよ。だから女性の自衛と、施設管理者の問題防止のために、

トランス女性は女子トイレに入らないでください

という張り紙を、トイレに貼ることになるでしょう。こう掲げたら、トランス女性がその女子トイレに立ち入るのは、「施設管理者の管理権を侵害した」ことになります。

安全装置を外して、はたして幸せになる人が、いるんでしょうか.....

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MtF のトランスセクシュアル。 自身のブログ 梢おばさまのトランス日記(http://blog.livedoor.jp/kozuesug/)からの転載を主体にします。 そちらもぜひご訪問ください。 自称は「おばさま」。
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