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ハイテク時代のストラト『エリート・ストラトキャスター』

2022-09-22

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

■ エリート・ストラトキャスター製作時代背景

1970年代末期から1980年初頭、パンク・ミュージックが下火となりオールド・ウェイブと酷評されてきたハードロックが英国で新しい音楽に変化して、めきめきと頭角を表して来た。その後ヘヴィメタルと呼ばれる様になる。

その後にアメリカでLA METALという、シーンが形勢されてきた。またヨーロッパでも沢山のヘヴィメタルバンドが出現した。

我が国では新たな音楽誌が発刊して、表紙を飾るようにメジャーなジャンルとなった。そして『ヘビメタ』と言う言葉が生まれた。音楽ファンのなかでは冷ややかな対応をしたが、コアなファンも着実に生まれてきた。

ジミ・ヘンドリックスの出現は発売中止まで人気の落ちたストラトキャスターの可能性を広げ、人気を復活させるのに貢献した。

さらにエディ・ヴァン・ヘイレンの出現によりアーミングという奏法が煌びやかに広がり、ギター業界はこの流れを無視出来なくなった。

記憶が正しければ、シンクロナイズドトレモロユニットの発展系フロイトローズを広めたのはナイトレンジャーのブラッド・ギルスだと思う。ファーストアルパム1曲目『ドント・ テル・ ミー ・ ラブ・ミー』のギターソロはフロイトローズを用い、驚異的なサスティーンは最高にCOOLだった。

アーミングの先駆けはエディ ヴァン・ヘイレンだが、バンドとしての活気やアメリカ特有の明るさが華やかで 、ナイト・レンジャーの活躍も目立った。国内ギターメーカーのフェルナンデスはパンフレットにブラッド・ギルスが2回程表紙を飾ったほどだ。

■ ピックアップレイアウトとトレモロユニット

以後ブラッド・ギルスの仕様の一部を元にしたストラトタイプのギターが続々と出てきた。

それらのギターは二つの特長があった。

その①
シングル ・シングル ・ハムバッカー。所謂SSH仕様のPUの電装系。フロント・センターは激しいサウンドに違和感はあまりなかった。そこでリアにハムバッカーを付けるギターが多くなる。このモデファイはリフを刻むのに格好の 『リプレイスメント ピックアップ』となり、ピックアップもダンカンやディマジオだけではなく、多くのビックアップ製作会社が生まれた。

その②
究極的メタル仕様としてリアにワンハムバッカーとフロイトローズだけのギターも出現した。コントロールはボリュームのみでトーンはない。あくまでピッキングの角度と位置で差をつけろ、と言わんばかりである。代表的メーカーはクレイマーが挙げられる。フロイトローズ トレモロユニット。は『3』が現状では一番古く、ファイン・チューニング付きの『5』でほぼ完成形となり、ギター界に広まって行く。

しかしブラッド・ギルスは『3』に拘った。本来なら『5』を選択すると思うが、ブラッドのメインギターの『3』はフロイトローズ氏のハンドメイドと思われ、市販品と異なる。『ハンドメイド系3』の方が音が良いと判断したからだ。これぞ! という時の伸びやかなサスティーンはスタジオ盤のソロでもオリジナリティが存分にあった。

後にメタルミュージシャンが一同に集まってレコーディングされたセッション アルバム『STARS』での多くのギタリストソロの中でも、一聴して彼とわかるオリジナリティーがあった。

もし、ライブ中にチューニングが狂ったら、サブのギターに交換すれば良いし、サウンド重視であえて『3』を選んでいる。ナット付近に六角レンチを挟んでいる所から相当お気に入りだと思われる。

■ ストラトキャスターの限界

1950年代から売上げを伸ばしてきたフェンダー社は 長年、看板機種であったストラトキャスターに頼れない状況に陥った。

ストラトの難点は、激しいアーミングをすると、よほどの名手でない限り音程が狂う事。 またシングルコイルでは力不足で、ヘヴィメタルには迫力不足が否めなかった。

この頃ストラトをメインとしてライブをしていたのはシェクターの太いマグネットを使用した1974年製の愛用者リッチー・ブラックモア、オールドの60sピックアップを搭載したゲイリー・ムーア、1stアルバムで使用した70s のストラトを用いたアルカトラス時代のイングェイ・マルムスティーン 位であった。(このなかでもシングルコイル型ハムバッカーを使用しているが、基本シングルコイルを使ったギタリストとして)

ギター業界では米国製チャーベル、ジャクソンを使うメタルギタリストが出てきた。

■ エリート・ストラトキャスターの登場

そこでフェンダー側も時代に沿ったマーケットに入り込まなくてはならなくなった。

そこで企画・開発・製作されたのが、『エリート・ストラトキャスター』(以下エリート)だ。エリートは1981年から構想が練られ、1983年5月に発売された。

まだ1980年製には、ストラトはハムバッカーの対抗策として、リアポジションに『X-1』ピックアップと言う高出力ピックアップを開発し、リアに搭載した。(コイルを多く巻いただけだが。)ストラトキャスターという看板機種からハムバッカーを搭載するのはデザイン的にも音色もNGであったのだろう。

その様な状況でエリートはストラトより実践で使える仕様を次々と考案して行った。

■ エリートとの出会い

エリートを一度だけ楽器店で見た事がある。ブラウンサンバーストで『目立つ』と言うより、ひっそりと壁に掛かっていた。直ぐに店頭からなくなった。その店は神田商会の直営店であった事からフェンダー・ジャパン製であったと思われる。価格はアメリカ製の30万もしなくて10万円台~であったであろう。「あれっ、いつもと違うストラトがある」これが第一印象。

店内の商品配置から『試作品』扱いだった事がうかがわれ、私もギターを始めて一年あまりの未熟なギタリストであったため、実際に弾いた経験をもつプレイヤーは現在60歳前後になると思える。

■ エリートの特長

まずEMGピックアップを意識するカバード仕様のピックアップ。マグネットはアルニコ2で、ノイズキャンセルが出来る。

次にトレモロユニット。1950年代末期から採用されたシンクロナイズドトレモロユニットに手を加えて、弦を裏から弦を入れるのではなく表から入れる設計となった。フロイトローズ のライバル会社ケーラー製のトレモロユニットと弦の入れ方が似ている。そしてナイフエッジの支点を持つ。このユニットには相当拘った証で『F』の文字がさりげなく刻印されていた。しかしこの手の込んだトレモロユニットは後継機種スタンダード・ストラトキャスター以外は使用されていない。

スプリングはピックアップ真下に3本入っていてテンションも調節出来た。裏側はアクティブサーキット用の電池が入る箇所のみ左下に加工されていた、もちろん裏側のスプリングを収めるキャビティ加工が無い。

トレモロアームは簡単に取り外しが出来て、安定して使える。

トラスロッドは順ぞり、逆ぞり両方に調整可能な設計でネックを外す必要が無い。とても賢明な発想だ。50年代60年代のvintageストラトではネックを外さなくてはならない。これなら直ぐに調節可能だ。

また上記9V電池で アクティブ・サーキットも収まっている、私はフェンダー・ジャパンのエリック・クラプトンモデルで使用したが、(写真1989年パンフレットより)ナチュラルにオーバードライブしてくれて、ゲインアップに欠かせない武器となった。昨今流行っているブースターよりギラギラと煌びやかなトーンであった。ブースターとしては、かなりクセがある。電池の位置はエリートと異なった。エリートより小さめ。

1989年フェンダー・ジャパンカタログ。1枚8本のCBS期のジャパン・バージョン

1本のみのアップ写真。ブラック・メイプル指板。 レースセンサー付きストラト。ライブでお世話になったがフレットの減りは否めなかった。

ピックアップはレースセンサーと言うピックアップと似ている。またはEMGと良く似ている。

かなり通な話だがレースセンサーはパリンバリンしたサウンドが身上だ。エリックはノイズレスシングルコイルピックアップを使用する前はこのピックアップを使用しており、ジェフ・ベックも一時期使用していた。

また私のクラプトンモデルも、音に輪郭が少ないアルダー材が私は好みではなく、数年間使用して手放した。フレットはもとから細くて低いフレットだったため、音詰まりが発生直前であった。メイプルネックは再塗装が必要であり、リペアに出す見積りで最低3万円以上かかったので。早めに売却した。

もし、軽量なアッシュボディなら所有していたかも知れない。

エリートを愛用していたプロは、エリック・クラプトンのギターテクニシャン LEE DICKSONが脳裏に浮かぶ。たしかクラプトンの好んだピューター(鉛色)で、お気に入りの1本と述べていた。

世界は広い。もしかしたら『エリート ストラトキャスターは、拘るギタリストに秘かに所有されて、いつの日か陽の目をみる機会があるも知れない。』米国ストラト史上、企画ものでは最もオリジナリティーがある。金額も高かった。モデファイする箇所がないほど『ある意味完成されたストラト』であった。


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Realize

リッチーブラックモアのアルバム『Diffcult to Cure』の『第9』アレンジを聴いてファンになり、『Spotlight Kid』を聴いてストラトキャスターに目覚める。以後様々なストラトを手にし、20年以上ストラトオンリーで毎月ライブ活動を行っている。
ストラトに対するこだわりは強く、『ギターマガジン』、米国誌『VINTAGE GUITAR MAGAZINE』に所有ストラトが掲載されたことがある。翻訳書として、2002年Fender Accessories Catalogue等に掲載されている『The Fender Stratocaster』第4版がある。
ストラトへの改良は外見からみたら何処を変えたかわからないのがポリシーである。

 
 
 

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