2023.09.02

インドネシア人を破傷風のワクチンの実験台に…ほとんどの日本人が知らない「日本の暗い過去」

週刊現代 プロフィール

破傷風事件の「真相」

ワクチン開発を目指す倉内には、破傷風菌の毒素を不活性化させるという課題があった。ホルマリンを加えれば不活性化できると知られていたが、その正確な分量がわからなかったのだ。

「陸軍防疫研究所の日本人研究者たちは、ホルマリンの適量を見つけるため、マルタがいないインドネシアでは代わりの実験台としてロームシャに接種させました。しかし結局、破傷風ワクチンは完成せず、石井が目指した『積極免疫』は実現できなかった。その結果、ワクチンを開発できた米国と比べて、日本軍での破傷風の発生率は約1万倍にも上ったのです」(前出の松村氏)

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無辜のインドネシア人が数百人も亡くなったにもかかわらず、朝鮮人強制連行などと比べて、ロームシャの暗い歴史はほとんど知られていない。インドネシアとの間にも解決すべき問題があることを、日本人は知っておくべきだろう。

「ロームシャと遺族に対して、日本政府はいまだに謝罪も補償もしていません。一方で経済関係を優先するインドネシア政府も、この問題を直視しようとしない。まるで『消耗品』のように使い捨てられた彼らの存在に、もっと心を配るべきでしょう」(倉沢氏)

終戦から78年が経つが、日本がいまだ清算できていない「負の遺産」は大きく、そして重い。

「週刊現代」2023年8月26日・9月2日号より

『ワクチン開発と戦争犯罪 インドネシア破傷風事件の真相』(岩波書店)/倉沢愛子、松村高夫
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