2023.09.02

インドネシア人を破傷風のワクチンの実験台に…ほとんどの日本人が知らない「日本の暗い過去」

半ば強制的に連行されたうえ、人体実験の「実験台」にされ、破傷風で苦しみながら死んでいく―かつて日本軍に惨たらしく殺された人々がいた。多くの日本人が知らない歴史の闇を明らかにする。

本記事は後編記事です。前編記事『「口は開かず、体をねじまげ、のたうちまわり」…かつて日本人がインドネシア人に行った「残虐な行為」』

スケープゴートにされた

インドネシアでも一部を除いて、これまでこのシナリオに疑義を挟む人はいなかった。だが前出の倉沢氏は、この「モホタル謀略説」への違和感を強く述べる。

「日本側はモホタルの犯行動機を『ロームシャの待遇改善を喚起し、さらにまたインドネシア人の反日感情を刺激して軍民の離反を狙うため』としています。しかしインドネシア人医師が同胞のために、同じインドネシア人を無差別に殺害するなんて、どう考えてもおかしいでしょう。現地でも少しずつ冤罪だという声が上がるようになり、事件の再検証が進められています」

 

倉沢氏もこの事件を初めて知った30年ほど前から、直感的に「この筋書きはおかしい」と感じていたという。その後日本軍の内部文書を入手し、人体実験の疑いを深めていった。しかし確たる証拠がない状態では公表できず、心の奥に引っかかったまま時が流れた。

事態が動いたのは、七三一部隊研究の専門家である前出の松村氏と共同で再分析を始めたことだった。倉沢氏が有する当時のインドネシアの詳細な情報と、松村氏が知る七三一部隊の医師たちの経歴が合わさって、前述の日本軍内部文書から事件の全体像が鮮明に浮かび上がってきたのだ。

七三一部隊というと、人体実験による細菌兵器の開発が有名だろう。中国人やロシア人の捕虜たちを「マルタ」と呼び、もっとも殺傷力が高い細菌を調べるため、彼らを使って人体実験を行った。

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しかし七三一部隊の任務は兵器開発だけではなかった。松村氏はもう一つの側面を指摘する。

「七三一部隊の正式名称は『関東軍防疫給水部』で、その名の通りワクチン開発を含む疾病予防も主要任務でした。特に破傷風は兵士が戦場で受けた傷から感染しやすいので、ワクチン開発は重要課題の一つだったのです」

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