2023.09.02

「口は開かず、体をねじまげ、のたうちまわり」…かつて日本人がインドネシア人に行った「残虐な行為」

週刊現代 プロフィール

「インドネシア人の謀略」

破傷風は破傷風菌が傷口から入り込み、体内で毒素を発して痙攣や呼吸困難を引き起こす感染症だ。しかし人から人へ感染することはないため、通常ここまで蔓延することはありえない。

ロームシャが搬送されたジャカルタ医科大学病院の報告を受け、現地の疾病予防を担う日本軍の南方軍防疫給水部が感染源を探る中、候補として挙がってきたのが、発症の1週間ほど前に接種されたチフス・コレラ・赤痢の三種混合ワクチンだった。これはバンドンにある陸軍防疫研究所で製造されたもので、南方軍防疫給水部が管理し、軍から委託された医療従事者が接種していた。

 

さらにその後の病理検査によって、接種されたワクチンに破傷風菌が含まれていたと判明すると、事態は急展開する。日本軍の憲兵隊が捜査に乗り出し、突如として「インドネシア人による謀略」と断定。現地の医学関係者を次々に捕らえて、取り調べを始めたのだ。中でも主犯とされたのが、ジャカルタ医科大学教授で細菌学の権威のアフマッド・モホタル医師だった。

モホタルら関係者への取り調べは熾烈を極め、壮絶な拷問で死亡する医師もいた。拘置所の中で痛めつけられる人々を目の当たりにし、モホタルは心を痛めたのだろうか。当初は潔白を主張していたものの、やがて供述を覆して、「破傷風菌入りワクチンを注射するよう指示した」と”自白”。'45年7月3日に斬首された。遺体はローラーで押しつぶされ、海岸に葬られたという。

「週刊現代」2023年8月26日・9月2日号より

後編記事『インドネシア人を破傷風のワクチンの実験台に…ほとんどの日本人が知らない「日本の暗い過去」』に続く。

『ワクチン開発と戦争犯罪 インドネシア破傷風事件の真相』(岩波書店)/倉沢愛子、松村高夫
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