ジャニーズ事務所、ブランド名を温存について

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これはあってはならないだろう。以下のブコメをした。

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ブランド名を温存する問題点「カリスマの栄誉の温存」

一つには、性加害者の栄誉を温存することになってしまうこと。

 

ジャニー喜多川は、山下達郎が語ったように、「日本の英雄」「カリスマ」としてメディアに扱われてきた。

 

ジャニーが死んだ際は、各メディアが追悼特集を連発し、各局のキャスターが全員喪服を着ていたりした。異様すぎる光景だ。

 

さんざんジャニーズを表紙にしてきたことを誇り、「ジャニーさん、ありがとう!」「YOU、やっちゃいなよ」と表紙に大書した週刊朝日

 

「“子供達”の愛に包まれて」というおぞましいテロップは、局の人間が考えて付けたんですよね?

 

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NHKが紅白でジャニー追悼コーナーをやらなかったのは本当にギリギリの良心だったな。

 

三者委員会が指摘したように、マスメディアと日本社会は完全にジャニー喜多川の性加害の共犯者だった。今回の騒ぎは、日本社会が過ちを認めて、性加害天国である日本のメディア・芸能界と決別する最大の機会だった。

 

ジャニーズという屋号を守るということは、ジャニー喜多川の栄誉を守るということだ。正気か?

 

ジミー・サヴィルはどうなったか?

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英国では、国民的人気者だったジミー・サヴィルの死後、その罪が暴かれた。

 

サヴィルが生きていた頃は英国社会から黙殺されていた児童への大量の性加害が明るみになり、ロンドン警視庁も動き、その結果何人もの芸能関係者が性加害で逮捕された。MeTooによって、悪しき常識と決別し、英国社会全体が「私たち英国社会は、どんなカリスマだろうと、権力者だろうと、性加害を許さない」というメッセージを発したのだ。

 

サヴィルを英国社会が断罪し、否定することが、多くの権力者・性加害者への牽制と共に、性被害者に対しては「相手がどんなカリスマだろうと権力者だろうと泣き寝入りしなくていい。社会があなたを支える」という強いメッセージになったのだ。

 

サヴィルが狙ったのは病院や養護施設、女子のための矯正施設などにいるローティーンの少女たちだった。90年までに50以上の病院や養護施設で慈善活動に関わったが、彼はこれらの施設の中で多くの人々を餌食にしたのだ。病院だけでなく、「番組に出してやるから」と連れていかれたBBCの彼の楽屋で性加害された少女たちもいた。

 

 90年代から散発的に告発は行われたが、いずれも相手にされなかった。ロンドン警視庁スコットランドヤード)にも匿名の告発の手紙が届いたが、証拠不十分として調査も報告もされなかった。サヴィルは警察の上層部にも顔が利いたのだ。

 

 当時、女子のための矯正施設で性加害に遭っていた女性の言葉がサヴィルをとりまく英国の状況をよく表している。

 

「あんな施設にいた娘の話を誰が聞くの? ジミー・サヴィルは教皇から爵位を授与され、皇太子夫妻やサッチャーとも友達なのよ。誰が私たちを信じるの?

 

ともかくサヴィルの栄誉は全て引き剥がされた。それだけでなく、サヴィルの件でロンドン警視庁が本気を出したため、芸能界の性加害者たち(人気ミュージシャンなども含む)が何人も逮捕されたのだ。

 

日本でもそうなるべきではないか?

 

ブランド名を温存する問題点「全ての性被害者の勇気を奪う」

被害者が何百人、何千人いるかわからないが、服部吉次さんらの告発によってジャニー喜多川に性加害された児童は、ジャニーズJr.だけでなく、もっと広範に渡る」ことが示唆された。

 

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ジャニーという性加害者の名前が温存されることは、全ての性被害者に無力感を与えることになる。

 

被害者たちは今後の人生のあらゆる場面で、「ジャニーズ」というブランド名を見ることになる。その度にトラウマがフラッシュバックし、敗北感と無力感を抱くだろう。

 

なぜならジャニーズは国民的アイドルであり、道を歩けばジャニーズ、テレビを見ればジャニーズ、電車に乗ればジャニーズ、社会の至る場所がジャニーズに埋め尽くされているからだ。避けて生きることなどできない。本当に普通に暮らしているだけで、嫌でも毎日「ジャニーズ」を目にすることになる。

 

国民はみんな「ジャニーズ」ブランドが大好きで、大事だから、告発者の事を迷惑だとすら感じている。そういうメッセージになってしまうんだよ。

 

MeTooが不発に終わると、告発者本人だけでなく、全ての性被害者の勇気が奪われる。「結局、性被害告発なんかしても無駄なんだ」「社会はカリスマや人気者や権力者の方が大事なんだ」「性被害者なんかの嫌な言葉を聞くより、アイドルで楽しみたいんだ」と学習させてしまうのだ。もちろん性加害者たちも「なんだ、やっぱりこれまで通りで大丈夫なんじゃないか」と安堵してしまう。

 

これは大げさじゃない。ジャニーズって、「ジャニーのモノ」ってことだぜ。事務所名が変更になれば、ジャニーの被害者だけでなく、あらゆる性被害者に勇気をもたらすんだ。日本社会はちゃんと性加害を非難し、告発者の言葉を聞いてくれるんだと。

 

英国は、サヴィルの死後になってようやくとはいえ、少なくともそれをやったのだ。

 

ちなみに今回の外圧の発端となったBBCだが、彼らは当初、サヴィルを擁護していた。BBCの人気番組の司会者だったサヴィルは、BBCにとって「身内」であり、守ろうという意志が強く働いだのだ。サヴィルを告発した他メディアに「それはおかしい、なぜなら~」と反論などしていた始末だ。

 

この大きな過ちを踏まえて、BBCはジャニーズ問題を取り上げるというモチベーションを得たのではなかろうか。

 

松尾潔さんが言っていたとおり、これは性加害者と性被害者に対してだけではなく、全ての日本人、とりわけこれからを生きる子供たちへもメッセージになるんだよ。

 

ジャニーズ事務所がブランド名を変更するというのは、「告発は無駄ではなかった」「日本社会はジャニーの性加害を許さなかった」という永遠の成果になる。歴史に刻まれる成果となるだろう。それを、

 

「たとえ性加害者であっても、ジャニーさんはカリスマだから許される」

「性被害告発するとみんなから迷惑がられ、売名扱いされて叩かれるだけだよ」

 

そんなメッセージを日本社会が発するのか?許してなるものか。

 

ブランド名を温存する問題点「グローバルでの恥晒し」

次にビジネス観点の話だが、単純に性加害者の名前をブランド名に残すって正気か?

 

KPOPにファンを奪われて陰りが見え始めたジャニーズは、最近は海外展開も視野に入れているというが、性加害者の名前を誇らしげに掲げて、何も反省もせず、図々しいにも程がある。

 

ファクトフルネスじゃないけど、この世界の人権意識は多少行きつ戻りつしつつも、基本的には人権擁護の方向に進んでいる。ここで抵抗してみせたところで、ジャニーズはジリ貧になっていくはずだ。

 

ついでに俺も日本人として恥ずかしいわ。松野官房長官のアホ発言と同じくらい恥ずかしいよ。

 

そしてその裏にある真の問題点

で、「なぜジャニーズ事務所は屋号を温存したいのか」ということになるが、これはビジネス上の理由だけではない。ビジネス的にジャニーズブランドを温存したいのは、むしろテレビ局と広告主だろう。ジャニーズ事務所側が屋号を守りたい理由は、おそらくもっとしんどいものだ。

 

今でもジャニーズ事務所内では、ジャニー喜多川がカリスマであり、タレントも従業員も団結して大好きなジャニーさんの栄誉を守ろうとしている。

 

これこそが、真の理由だろう。俺は今回の件でタレントに罪はないと思ってきたし、「ジャニーズファン」を一括りに批判する事はよくないと思ってきた。

 

しかし、この数週間いろいろ見てきて、ジャニー喜多川の悪行を正当化するために団結するタレントとファン」が唯一の、そして本質的な問題なんじゃないかと感じるに至った。

 

「ダーク・ヴァネッサ」という小説がテーマにしていることだが、児童を性加害するグルーミングの達人というのがこの世にはいるようだ。ジャニー喜多川はその最大級の教材といえる。

 

グルーミングされた児童たちは、自身の尊厳を踏みにじられ、心を守るために加害者を擁護し、正当化していく。

 

ジャニーズという組織内にあっては、ジャニー喜多川への信仰心は先輩から後輩に受け継がれている。

 

よく大企業の信じられないような不祥事とかあるけど、たまたま極悪人がその企業に集まってしまったわけではなく、人間は誰でも組織の常識に染まってしまうものだ。よくあるのが、他社から転職してきたばかりの頃は「なんだこの会社、おかしいだろ」と違和感を持ち、周囲に疑問をぶつけたりするが、数ヶ月経って馴染むと、何をおかしいと感じていたのかよくわからなくなってしまうという現象だ。

 

だって、憧れの上司が、大好きな先輩が、戦友とも言える同僚が、全員悪事に手を染めていたら、人間の心理としてはそれは全て正当化したくなってしまうのだ。

 

だから外部から見たら「え!?」と信じられないようなロジックで自社の悪行を正当化し、擁護してしまう。その辺のことを過去に書いた。

 

shin-fedor.hatenablog.com

 

ましてや、右も左も分からない、アイドルに憧れる児童が、グルーミングの達人であるジャニーに取り込まれない方が不思議なぐらいだ。

 

ジャニーズ事務所においては、ジャニーからの性加害を受けたタレントが、周囲の尊敬する先輩たちの“ジャニーさん”への強い信仰を見て「これは普通のことなんだ」「むしろ良いことなんだ」と自己洗脳を繰り返しているのだろう。

 

だからみんなで団結して“ジャニーさん”を守ろうとしている。「世間一般には理解しがたい事なのかもしれないが、俺たちとジャニーさんの関係はそういうものじゃない」*1という気持ちが、さらに団結を強めるだろう。新興宗教と変わらぬ構図だ。

 

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こんな状態で、社内に相談窓口を設けるとか、調査するとか、できっこないよね。ビッグモーターじゃないけど、ジュリーや東山の、会見での発言が、社員やタレントへのメッセージになっているのだ。「社としてはこの方針だから」と。それ以前に、東山が次の社長に就任というのがもっとも強いインナー向けメッセージだわな。「お前らわかってるよな、今までどおりだぞ」と。何も変わるつもりはないぞと。ちゃんとみんなでジャニーさんを守るんだぞと。

 

ジュリー社長も、東山氏も、櫻井氏も、達郎も、「もし児童への性加害があったとするならば、絶対に許されないこと」というぬるい一般論しか述べてないよね。

「世間が許さないでしょうね」という論法だ。これはただのエクスキューズだ。

 

問題は、「性加害を知った今、あなたが、ジャニー喜多川をどう思っているか」だよ。あなたは許すのか?許さないのか?そこに向き合ったコメントは一つも出てこない。(まあ全員知ってたと思うが。そして悪いとも思ってない!)

 

会社がタレントや社員に向けて発しなければならないメッセージは、

 

「現経営陣は、創業者とはいえジャニー喜多川の悪を許しません。創業者のおぞましい犯罪に加担していたことを反省し、二度とタレントへの性加害が起こらないように、社内改革を行います。現在所属する中でも、かつてジャニーの被害を受けた人は、社内に秘密厳守の相談窓口を設けます。タレント活動に悪影響は出ないと約束しますので、安心してご相談ください」

 

とかだろ。最低限そうしろよ。何が「二次加害にならぬよう、社内調査は行いません」だ。

 

ちなみに被害者の会のメンバーの中には、かつてはジャニーを絶賛し、弟をジャニーズに入所させたりしていた人物がおり、「あれあれ~?昔はジャニーズとジャニーさんを絶賛してたくせにw」などと心無い誹謗を浴びている。でも、性被害者の心の動きとして、むしろこれは自然なものなんだけどね。

 

同様に、今現在所属しているタレントの中にも、「ジャニーさんを尊敬してきたけど、やっぱりあれは酷い事をされたんじゃないか?」「自分はすごく傷ついたんじゃないか?」と揺らいでいる人もいるだろう。その揺らぎを「以前の態度と逆だ、矛盾だ」と言って叩くのは、あまりにも人間というものへの想像力に欠けている。

 

こうした洗脳を解くためには、ジャニーという単なる性加害者の栄誉を奪う必要がある。英国民がジミー・サヴィルの栄誉を奪うことで、「こいつは偉大なカリスマ、英国の誇りではなく、単なる性加害者だ」という現実認識を社会にインストールしたように。

 

その結果、芸能界における他の性加害者も続々逮捕された。英国が、「もう後戻りできないし、しない」と覚悟を決めたから、そうなった。

 

さらに、この数週間、ジャニーズ関係のキーワードがXのトレンドに上がってくる事が増えたのだが、被害者をバッシングし、ジャニーを擁護するファンが少なからず観測された。

 

また、保守系陰謀論者たちが「松尾や被害者の会は共産党およびナニカグループに入れ知恵されている」「パヨクの陰謀に乗せられるな」といったツイートを行い、それをジャニーズファンが「真実はこうらしいです」と拡散する悪夢のような光景も見られた。

 

なんだそりゃ。もちろんファン全員がおかしいわけではないのはわかるし、最大多数のファンは「この件に一切触れない」層なのもわかってるが、これはこれであまりにひどい状況だと感じる。

 

もう一個あるのが、「一部ファン」は、タレントの恋愛は許さないが、ジャニーの性加害は容認するという傾向が見られた。例えば、最近のなにわ男子のメンバーの熱愛報道に対して、ジャニーズファンたちが怒り狂っていた。そこまではアイドルファンとして普通のことだし、別にいいのだが、なんとジャニーの「恋愛するな」という発言を引用して「ジャニさんの言葉を肝に銘じてね」などとタレントに苦言するツイートが1万いいねされて、トレンドワードのトップに来たりしていた。今それ!?

ジャニー喜多川の発言らしい。これを引用してなにわ男子メンバーを咎めるツイートが1万いいねされていた

これこそタレントを人間扱いしてないよね?自由恋愛はアイドル失格だけど、アイドルに性加害するジャニーはOKなんだ?

 

大半のファンは「不快な話題だからスルーしている」とは思うし、そこまでは責められないが、このように積極的にジャニーを擁護し、被害者を憎んで叩くファンたちの洗脳を解くには、まず社内での洗脳が解除される必要があるだろう。

 

報道の通りなら、ジュリー社長はジャニーズ事務所の株の100%を保有しており、交際説のあった東山氏を社長にして院政を敷くだけではないか。そしてブランド名も温存。「何も変えたくないなー」という事務所と、「何も変わらないといいなー」という広告主、テレビ局、ファンの利害が一致し、何も変えないことに決めたわけだ。

 

最後に松尾潔さんの一文を引用する。

 

私は、今回の疑惑を放置することは、ジャニーズ事務所だけの問題じゃないと思っています。一番の弊害は、今回の報道やマスコミの有り様を見た子供たちが、もし性犯罪・性暴力の被害者になったとき、「声を上げても無駄だ」という諦めの気持ちになるかもしれないことです。疑惑を放置することで、社会全体が諦めの気持ちを子供たちに植え付けかねないのではと怖れを感じています。

 

メディア、広告業界、芸能界だけでなく、みんながこの問題を直視しない限り、性加害や性暴力は、この先もなくならないでしょう。音楽業界に身を置く私も正直つらいです。ましてや、こういう世界に憧れたことがある、あるいは憧れている家族がいる、といった人たちも胸を痛めているはずです。

 

私たち一人一人が、この国が抱える問題として当事者意識を持ち、みんなで膿を出すというところに、舵を切るべきじゃないでしょうか。

 

(2ページ目)「スマイルカンパニー契約解除の全真相」弁護士を通じて山下達郎・竹内まりや夫妻の“賛成事実”を確認|日刊ゲンダイDIGITAL

 

*1:これ完全に「ダーク・ヴァネッサ」の心理

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