なぜ「初音ミク」はネギを手にしたのか? 振り続けて16年、考案したボカロPがいま語る
バーチャルシンガー・初音ミクが誕生して2023年で16年を迎えた。記念日である8月31日には、「ポケットモンスター」シリーズとのコラボも発表された。予告画像にはモンスターボールを持つ初音ミクと、ポケモンの「カモネギ」が大きく描かれた。SNSでは、ネギに縁のあるキャラクターが並んでいるなどと話題になった。
いまや「初音ミクといえばネギ」というイメージが浸透し、ネギを持った初音ミクのイラストや商品が広がっている。そのきっかけとなったのが、ニコニコ動画に投稿された動画「VOCALOID2 初音ミクに『Ievan Polkka』を歌わせてみた」だった。
J-CASTニュースは2023年9月3日、初音ミクにネギを持たせた張本人に取材した。
「初音ミク」誕生から4日後にネギを振り始める
初音ミクが登場してからわずか4日後のことだった。ボーカロイドPのOtomania(オトマニア)さんは2007年9月4日、フィンランド民謡「Ievan Polkka(イエヴァン・ポルッカ)」を初音ミクに歌唱させた動画をニコニコ動画に公開した。
インターネット上では、この動画が話題になる前から「Ievan Polkka」が人気を博していた。きっかけは2006年ごろ、人気アニメ「BLEACH」のキャラクター・井上織姫が同曲に合わせてネギを振り回す動画が海外で大流行したことだと言われている。
初音ミクがカバーしたのは、歌詞に意味のない「スキャット」部分で、「あ らっつぁっつぁ」という独特なフレーズで始まる。動画では、気の抜けた表情をした初音ミクがリズムに合わせて長ネギを振り回している。中毒性のある楽曲そのものや、ゆるいアニメーションがインターネット上で大流行した。
なぜOtomaniaさんは初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせたのか。取材に対し、次のように答える。
「ミクの歌声を友人たちと内輪で楽しんでいた時に、『日本語じゃないものを歌わせたら面白いのでは?』という発想が生まれたのがきっかけです」
「この子にネギ振り回させたらもっと面白そう」
Otomaniaさんが初音ミクによる「Ievan Polkka」の歌唱部分を、イラスト活動を行っているたまごさんに送ると、非常に好評だったという。しばらくすると、たまごさんから楽曲に合わせた脱力感のある、初音ミクをデフォルメしたイラストが送られてきた。
「それを見た自分も大ウケし、『この子にネギ振り回させたらもっと面白そう』という考えに至りました」
「Ievan Polkka」は公開から16年経った現在までに、600万回以上再生されている。たまごさんの描いた初音ミクも人気を博した。このような大きな反響を受けてOtomaniaさんは、たまごさんと話し合いのうえで、この初音ミクを「はちゅねミク」と命名したと、2006年9月11日に公開したブログで明かしている。
「はちゅねミク」は、初音ミク同様に多数のメディアに進出した。はちゅねミクを題材としたマンガがKADOKAWAから発売されたほか、ゲームに登場したりグッズが発売されたりしている。また本家の初音ミクにも、ネギを持っているイメージが定着した。
先日発表された「ポケットモンスター」シリーズとのコラボイラストには、おなじみのポケモン「ピカチュウ」に加え、ネギを背負ったポケモン「カモネギ」も描かれている。イラストは初音ミクのキャラクターデザインを手掛けたKEIさんの書き下ろしだ。SNSでは驚く声が広がった。
「カモネギと初音ミク、そもそも本来ミクとネギは何も関係なかったのも含めて胡乱」
「ピカチュウよりデカいポジションにいるカモネギは後にも先にも初音ミクとのコラボのみだと思う」
「初音ミクとのコラボでプリンやメロエッタ使わずカモネギ使う時点で任天堂も大分ネットミームに毒されてるのでは?」
初音ミクにネギを持たせた人なのに・・・
このように初音ミクとネギは切っても切れない関係となったが、Otomaniaさん自身は「生のネギ類が大の苦手」だと述べる。
「『ミクにネギを持たせた人なのに!?』とよくツッコまれます。あ、でもカレーや牛丼など熱を通したものは割りと好きです。むしろ焦がしネギは好物なので、麻婆豆腐やチャーハンなどそれらをふんだんに使った料理をよく作ります」
Otomaniaさんは小学生のころに声楽を習い、中学生で吹奏楽、高校生でバンドに励みギターやベースを用いた音楽活動を始めたという。
「『初音ミクという面白いものを沢山の人に伝えたい』という気持ちが事の始まりでした。後は皆さんご存知の通りです」
初音ミクに出会ってからは、セガ「初音ミク -Project DIVA-」の楽曲収録や音楽媒体やイベントなどに携わり、ソーシャルゲームなどのコラボイベントでの楽曲提供などに取り組んだ。ベーシストとしてライブ活動も行っている。
初音ミクとネギのイメージや、「はちゅねミク」が広まったことについて16年たった現在、どのように受けとめているのか尋ねた。
「『◯◯したい』という願望って、ひとつの『夢』だと思うんです。
自分の思い付きが、文化の歴史に刻まれるほど世界中に知れ渡る。
これほど大きな『夢』が叶った心境を想像してみて下さい。
多分、俺が今感じている心境がそれです」
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)