SRSを済ませて戸籍を変えた後で、性別移行を後悔する方が一定の数存在する...というのは、今までも知られていないわけじゃないのですけども、やはり「失敗」は恥ずかしい、というのもあってか、なかなか表には出てきてませんした。しかし、このところ、「再度の変更」を求めて...という方の話がちらほらありますね。中には、裁判所に「変更の取消」を求めて、認める判断が出た記事もありますし、再変更を求める方のテレビ番組もありました。例の「性別ゼロ」もほぼこれに近いものでしょう。
その前提として、「ジェンクリでの性同一性障害の診断が、誤診だった」ということを、ジェンクリのセンセ方が認めないと、特例法やガイドラインとの辻褄が合わなくなります....いや、なかなかハードル、高いですね。センセらの言い分となると、
客観的指標がない中、本人が誤って信じた内容で診断せざるを得ない
わけで、ジェンクリを一概に責めるわけにもいかないです。「性別違和を感じる」というのはあくまで主観的な訴えであって、それに性分化疾患なり精神病なりの「客観的な原因」がないことによって、かろうじてGIDが定義されているわけですから、「いや思い込みでした!」とちゃぶ台を返されても困っちゃう...がホンネでしょう。だし「性別変えたら、生きづらさが解消する!」となったら、当事者は一生懸命「学習」しちゃいますもの。「典型的なGIDの訴え」になるように、自分の体験を歪めてまでして、GIDの判定を得ようとするわけです。
いやね、おばさまもいろいろ聞いたんですよ。絵を描かせる心理テストのHTPなら、「家」「人」「木」など描かせます。MtF だと「木を描け、という課題では、切り株を描け」なんて話を聞きました。...アカラサマでしょ、去勢願望を絵にすればポイント高い、という短絡的な話です。ホントかしら?? まあ、人物は「希望する側の性別の人物を描け」というわけで、こっちはまあ、納得もいきますか。
実際、おばさまの時の心理テストでは、「いや~こんな情報聞いてたんですよね~~」なんてそもそも実験者にバラしながら、「でも切り株なんて描くの、イカニモでしょ?」なんて雑談しながら、普通の樹木を描きましたよ。情報がある、というのも本当に良し悪しな話ですね。
そりゃ「体験のオリジナリティ」を追求するとかすれば、それなりに「判定」できるのかもしれませんが、当然そうなったらアート同様に、受け取る側の主観的な効果でしかありませんから、制度にはなじみにくいです。熱意とか基準にするのも、意味ないですしね....いや「これしか、生きづらさを解決できない!」なんて思い込んだら、熱意という面なら誰にも負けたりしないでしょうよ。
困ったものですね。
まあおばさまみたいに、生物学的男性でも「ホルモン未使用で、見た目雰囲気が女性、女装もし慣れていて、違和感なし」なら、GIDの診断も疑いなく下せて、しかも後悔もしっこない、と医者も確信もできるでしょうけども、「今からホルモンを使って、希望する方の性別に性徴を寄せていきたいです」という場合はやはり判断が難しいでしょう。
MtFならば、状況によっては「通常の医学的手段では、あなたが望むほどには、希望する性別の外見は得られません。それでも、しますか?」という問いをして選択させるというのもあるでしょう。骨を削るほどの大掛かりな手術をするのは、リスクも大きければお金もかかります。満足する見かけを得ても、健康を害してしまったなら、それで満足が得られるのでしょうか?
FtMの場合には、もっとややこしいでしょう。男性ホルモンは女性ホルモンよりずっと、効きますからね。しかし、男性ホルモンを使ってしまえば、声が低くなってこれを戻すのはかなり難しいですし、雰囲気も男性的になってしまいます。MtFへの女性ホルモンだって、子供が作れなくなりますから、ホルモン治療にも不可逆性があります。それでも「見た目が今女性でも、男性ホルモンを使ってかつ筋肉を鍛えれば、そこそこは、行ける」ものなので、そういう「伸びしろ」を見込めば、MtFよりも純粋に医学的な面での障害は低いかもしれません.....「思い込み」で突っ走るためのハードルは、確かに低いでしょう。
いや逆に、FtM の場合には、「男になって、どう生きるの?」の方がずっと切実な問題でしょう。男社会の上下関係や、学歴・職歴、社会的スキルなど、ただでさえ競争でストレスフルな「男の人生」に、かなりのハンデを抱えて参入するわけです。はっきりハードモードです。「思い込み」で突っ走るには、リスクが大きすぎる賭けのように感じます。
いやいや、お医者にこんな判定をさせて、責任を負わすのはかなり酷な話でもあります。しかも、「思い込みでした!」で変更を取り消すためには、「誤診でした」と「専門医としての失敗」を認めないといけない.....大変です。
じゃあもう、「診断しきれない」のを前提にやるしかない、かもしれません。すべて自己責任。特に診断なしにホルモン療法もできれば、SRSも美容外科並みの扱いで受けられる。「自分で望んだのだから、自分の誤りに責任を持ちなさい」というだけ。戸籍の再変更も自由にできますが、いじった体は元には戻らず、結婚しても子供は作れず、中途半端な見かけに奇異の眼を向けられて、ホルモンバランスの乱れにも辛い思いをする....
いや、性別移行を「生きづらさの解決手段」だと思い込むことから、こういうことになるのでしょう。本当は、性別移行で「性別以外は、何も変わらない」のが、最高の「性別移行の成功」なのだと思います。
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