利用の低迷で10年前に閉鎖した大阪市立海洋博物館「なにわの海の時空館」(住之江区)について、閉鎖後に市が負担した維持費が7000万円に上ることがわかった。海に浮かぶ建物の構造上、地下に流れ込む海水をポンプで排水する必要があり、電気代がかさむという。無人の建物に多額の維持費をかけている状況を解消しようと、市は9月に活用する事業者を探すための3回目の公募を行う。(三歩一真希)

利用者低迷、累計赤字30億円超

 時空館は、大阪の海の交流史を紹介するため、人工島・咲洲さきしまに2000年に開館した。総工費は176億円。ガラスを組み合わせたドーム形の屋根(直径70メートル、高さ35メートル)が特徴で、10億円かけて復元した木造船「菱垣廻船ひがきかいせん」(全長約30メートル、幅約7・5メートル)の展示が目玉だった。

 しかし、年間の来館者は当初見込みの6分の1程度の10万人前後に低迷。累計30億円超の赤字を出し、13年3月に閉館した。市は施設の撤去も視野に入れていたが、菱垣廻船を外に運び出すのに5億円以上、船を解体するにしても数千万円の経費が必要なことなどを考慮し、撤去はせず、民間事業者に活用してもらう道を探ることになった。菱垣廻船や江戸時代の大阪湾が描かれた絵などの資料約9000点の多くは建物内に残されたままだ。

 市によると、13〜22年度の10年間でかかった維持費は計7094万円。このうち電気代が86%(6103万円)を占める。施設は地上4階、地下2階で、地下部分は海中にあるため、放置すると海水が流入する。このため、地下にある32個のポンプを作動させて施設外に海水を排出しているという。ポンプは定期的に交換する必要があり、5回の取り換えで計688万円がかかった。

 市は13年、建物を約6200万円で売却するという条件で活用事業者を公募したが、菱垣廻船の扱いがネックとなり、応募する事業者は1社も現れなかった。

 20年9月の再公募では、市が所有する施設周辺の緑地約6万平方メートルも使えるなら応じたいとする事業者が複数いたが、新型コロナウイルスの感染拡大で「先行きが見通せない」などと辞退が相次ぎ、応募は再びゼロだった。

場所は「大阪万博」会場近く

 時空館は、25年大阪・関西万博の会場となる夢洲ゆめしま(此花区)から海を挟んで1キロの場所にある。市は、コロナ禍が落ち着いてインバウンド(訪日外国人客)も回復し、万博の開催も近づいてきたことから、3回目の公募に望みを託す。

 4月から実施していた施設の見学会にはイベント企画会社など5事業者が参加。建物は約5600万円で売却し、土地は月約132万円で貸す。周辺の緑地も使えるが、建物を建てる場合は別途、月約167万円の賃料がかかる。9月1日〜28日に応募を受けつけ、書類審査や面接を経て12月までに事業者を決める方針だ。

 市幹部は焦りをにじませる。「市の負担がこれ以上膨らむのは、市民の理解が得られにくい。『三度目の正直』で今度こそ事業者を見つけたい」

最後の「負の遺産」

 なにわの海の時空館は、2011年に就任した橋下徹市長が「負の遺産」と位置づけた市の17のハコモノのうち、処理策が決まらないまま残っている最後の一つだ。

 橋下氏が市長を退任した15年までに、複合ビル「オーク200」(港区)を86億円で売却するなど14のハコモノの処理が完了。吉村洋文氏(現大阪府知事)が市長を継いだ後、残る3施設のうち、時空館を除く2施設はいずれも売却されて活用事業者が決まった。

 利用者の低迷で11年に休止した温水プール「リフレうりわり」(平野区)は、18年から紙製品の工場になった。また、1999年の開業以来、赤字が続き、2010年に閉鎖した温泉フィットネス施設「ラスパOSAKA」(東住吉区)の跡地は、周辺の再開発に伴って26年8月から商業施設や倉庫として利用される。