2023-09-03

無敵の人」を生んでしまたかもしれない話

大学の頃のクラスメイト無敵の人になったらしい、というだけの話。

彼(以下、A)とは大学で同じクラスだった(大学クラスはないか嘘松と言われても面白くないので説明するが、私の大学には一応クラス存在し、1年生の前期だけは語学等の必修の授業に限り、そのクラス単位で受けていた)。

Aはクラス最初の授業にて、自分は2浪であること、この大学には現役の時にも受かっていたこと、年上だけど気にせずにタメ口で話しかけてきてよいという自己紹介を行い、そこから漂うコミュニケーションが下手そうな気配により、なんとなく避けられている存在だった。

そんな中、いかにも高校時代生徒会をやってそうな男女が幹事となり、クラスの懇親会が開かれることとなった。

3,000円の食べ飲み放題ではろくなものが食べられないだろうと思ったので、家でご飯を食べてから遅れて行ったところ、Aの向かいの席しか空いてなかったのでそこに座ることにした。

その時点でAは相当出来上がっており、私が席につくなり、「このテーブルに座る人にはセンター試験の点数を答えてもらいます」と言ってきた。

どこの世界挨拶だ、と思ったが、抵抗するのも面倒だったので、自分は内部進学なのでセンター試験は受けてないということを伝えたところ、Aは露骨に内部生を馬鹿にし始めた。

相手にするのも面倒だったので、適当に「さすがですね」とか「お酒強いですね」とか言ってたところ、Aは上機嫌になり、さらお酒のペースを速めて行った。

途中からこちらのテーブルクラスメイト女子が来ると、Aはさら調子に乗り、日本酒をとっくりから直接飲み始め、女子から体験を聞こうとするなど、凡そ全ての悪い酔い方を見せた後、少し寝たかと思ったらその場でマーライオンになってしまった。

クラスの面倒見のいい男子トイレまで運び、懇親会が終わるまで席に戻ってくることはなかった。途中、用を足しにトイレに行ったところ、個室からAの泣き声が聞こえていた。

コース時間が終わり、クラスメイトの手により店の外に連れ出されたAは、人体から出得るありとあらゆる液体に塗れていた。きっとこの日のために買ったであろう、ヒステリックグラマーTシャツから女性の姿がほぼ見えなくなっていた。

その翌日、Aはmixiの呟きでわざとらしく狼狽し、自己嫌悪に陥っていたが、特にそれにコメントする者はいなかった。

懇親会の後の最初の必修の授業で、先生から始める前にAから5分話があると伝えられた。

Aは皆の前に立ち、先日の粗相謝罪して深々と頭を下げ、一人一人の机を回って謝りながら地元銘菓だという大福を置いていった。

せめて個包装のにしろよ、と思ったものの、大福は美味しそうだったので私はもらったそばから食べたが、クラスメイトの大半の机の上には授業が終わるまで大福がぽつんと置いてあった。

授業が終わり、先生教室を去った後、懇親会でAがしつこく絡んだ女子教室の前のゴミ箱に見せつけるように大福を捨てて教室から出て行った。

Aはその後、体調が優れないので一旦実家に帰る、後期には戻ってくるからみんなよろしく、という呟きをmixiにしたが、やはりそれにも誰もコメントしなかった。

大福が捨てられたゴミ箱の中をじっと見ているAの背中が、私の見た最後のAの姿となった。

その後、私はJTCに就職し、色々あってコンサル転職した。

クライアントの一つにメールCCをやたらたくさん関係者を入れたがる会社があり、その100人以上のCCにいた内の1人が大学クラスメイト(以下、B)だったらしく、連絡をくれた(私の名字は珍しいので、すぐに分かったとのことだった)。

クライアントに出社するタイミングが合えば一緒にランチを食べようということになり、こちらとしてもクライアントの内部事情を聞きたかったので日程を合わせてランチを食べた。

その際、件の懇親会の話になり、BからAは覚えているか?と聞かれた。後にも先にもあそこまで悲惨に酔っ払った人は見たことなかったので、覚えていると言うと、Aの近況について話し出した。

Bは一浪地方出身だったこともあり、Aとは多少親しくしていたから連絡がきたらしいが、Aは実家に帰った後、再び東大を目指して勉強を始めたそうだ。いくら東大でも三浪はどうだろう、だったらこ大学ストレート卒業した方がいいんじゃないか?とBは言ったものの、どうやら高校時代全然勉強していない連中(恐らく内部生のことだ)と机を並べることに耐えられないとのことだった。

それ以降Aと連絡を取ることもなかったが、何年か前に大学クラスの集まりがあり、その時興味本位でAの名前ネット検索したところ、爆破予告をして捕まった、というニュースがあったらしい。結局、初犯で反省してるということもあり執行猶予はついたらしいが、この先どうするつもりなんだろうね、とBはわざとらしくため息をついた。

これを聞いた時、私は「無敵の人」を生んでしまったのではないか、と思った。

懇親会で調子に乗って飲んでいるAに、「飲み過ぎですよ」と言ってお酒を奪っていれば、あるいは、ゴミ箱を見つめるAの背中に「大福美味しかった、ありがとう」と声をかけていれば、とたくさんのたらればが浮かんできた。

自分の家も家庭も持った今、「無敵の人」になってしまたかもしれないAから復讐が何よりも怖く、震えて眠っている。

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