悪い癖(くせ) 悪い癖(へき)
ぷつっ
あ
犬歯
口の中が少し鉄の味になった。見ると彼女の右内ももから二箇所、血が出ていた。針で開けたような穴二つを赤黒い液体が満たしている。炊きたてのお米みたいな相手の肌には似合わない、ので、はやく拭わなければならない。
「ごめん!まじごめん!」とティッシュを探すふりをして見つめていると、血が膨らんで、表面張力も超えて今にも溢れそうになった。
だって可愛いくて可哀想なのが可愛いかったから。苦しそうな声が、少ない理性を手放すまいと葛藤しているみたいで素敵だったから。きみの頭の中が俺でいっぱいになっていく様子がおもしろくて、俺が少し指でなじるだけで100倍の返答をする身体がおかしかったから。
純粋そうな顔しやがって。
あとはお酒が回っていたからかもしれない。「お酒を飲むと本性が出る」ならば、俺はじきに嫌われるのかなあと思う。わかれても、友達もいるから、意外と大丈夫に暮らせそうなのが残酷で怖い。嘘、本当は怖くない。こんな程度で怖いなら、俺はとっくに死んでいる。嘘、本当は一回死んでいる。
血が太ももを伝っていく。確実に痛そうだった。あのとき皮膚を貫く音がしたのだ。痛いに決まっている。なのに
「ありがとう」
と言われた。
「もっと噛んでいいよ」
このこは、本当に俺に嫌われたくないんだなと思った。
俺はティッシュを彼女の太ももに当てて血を拭って、服を着せた。次は彼女の被害者ヅラを矯正してあげなければならない。
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