ひとつの青春が終わった(漫画)

登録日:2021/12/05 Sun 04:35:00
更新日:2023/07/20 Thu 09:42:39
所要時間:約 5 分で読めます




※WARNING※
この項目はホモエロネタです。
耐性のない方、18歳未満の方、信仰心深いノンケは今すぐブラウザバックしてください。





山川純一のホモ漫画。初出は『薔薇族』1983年春増刊号。2006年の再々復刊第1号にも掲載された。
単行本未収録だったが、後に復刻された『ウホッ!! いい男たち~ヤマジュン・パーフェクト』および『ウホッ!! ヤマジュン・セレクション やらないか』に収録されている。
超展開もさることながら、後述するようにヤマジュン作品の中では特異な経緯を持つ作品でもある。



■あらすじ

とある教会で、一組の美男美女の結婚式が執り行われていた。
新郎・矢部達彦と新婦・野上京子が誓いのキスをしようとした正にその時、一人の青年が式場に乱入してきた。
その青年は、式の前日に突然別れを告げられた達彦のセックスフレンド・聖也であった。

一時の遊びと考えていた達彦とは異なり、聖也は真剣に達彦を愛していたのだ。

聖也は、達彦がホモであることを大勢の前で暴露するが、感極まって達彦にすがりついて号泣する。
「せめてあと一日だけでも愛し合える時を持てたら結婚を祝福できた」と語る聖也に、達彦は自分勝手に聖也を捨てたことを謝罪し、
皆の前で全てをさらけ出すことを宣言して全裸になり、聖也も裸になるよう促す。

達彦は、京子にも性癖を隠していたことを謝罪し、これから自分のやること(ホモ・セックス)を見て結婚式をやめるか続けるか決めてほしいこと、
自分が誰よりも京子を愛していることを告げた。無茶苦茶カッコいいシーンだが、この男、全裸である。

祭壇の前で達彦は聖也を抱き、あまりの迫力に参列客も息を呑むほかなかった。

同時に二人がイッた後、満足げな達彦の表情を見て、聖也は自分の計画を思い返していた。
達彦の性格から、大勢の前で全てを暴露してしまえば、その場でセックスに持ち込めるかもしれない。
そうすれば、ホモ・セックスを忘れがたくなった達彦は、自分との変わらぬ愛を誓うはず――。
今までの聖也の行動は、衝動的なものではなく、達彦とよりを戻すための冷静な芝居だったのだ。

だが、聖也の計画を打ち砕いたのは京子であった。
京子は達彦の顔面についた精液を優しくふき取った後、達彦について行くことを宣言。
京子曰く、自分を抱いているときの方が達彦は恍惚とした表情をしている、それはすなわち、達彦が男性よりも女性のほうに魅力を感じているからだ、と。

達彦は京子を抱きしめ、先程できなかった熱い口づけを交わした。このときもやっぱり全裸である。

愛を再確認した二人を両親や参列客が祝福する中、聖也は自分の計画の失敗を確信していた。
それは、京子とキスをしている達彦の一物が再び勃起していたからであった。
達彦は、彼が宣言したとおり、女性を愛することができる男だったのだ。

愛した男が自分たちの世界の人間ではなくなったと知った時、聖也は一人涙を流し、彼の中の一つの青春が終わりを告げたのである。



■登場人物

  • 聖也(せいや)
主人公。ゲイ。
達彦を真剣に愛していたが、達彦からはセックスフレンドとしてしか見られていなかった。
結婚式前日に一方的に関係を破棄され、衝動のままに結婚式へ乱入したと見せかけて、本人曰く「ホモとして最低の芝居」で達彦を取り戻そうと計画した。
ウエディングドレス姿の京子を「おぞましい」と形容するなど、ヤマジュン作品では珍しい*1、女性に対して明確に嫌悪感を抱いているミソジニスト。

【名セリフ】
「矢部達彦はホモなんだ!好きでもない女と愛のない結婚をしようとしてるんだ!」
「俺がほんとの兄キの恋人なのさ。何せ兄キとは毎晩のようにホモセックスをやってる仲なんでね」
「こうして俺の一つの青春が――終わりを告げた…」

  • 矢部達彦(やべ たつひこ)
聖也のセックスフレンド。女性寄りのバイ。
聖也とはセックスフレンドの関係であると思い込んでおり、彼が真剣に自分を愛していることには気づいていなかった。
聖也の告白を受け止め、全てを京子や両親の前でさらけ出し、審判を仰ぐことで、彼らの愛と信頼を勝ち取った。

【名セリフ】
「お父さん、現実から逃げないで下さい。これはまぎれもなくあなたのひとり息子の偽らざる姿なんですよ」
「今から俺のやることを見て、この結婚式をやめるも続けるも君の自由だ」
「ただ、これだけは言っておきたい。俺はだれよりも君を愛しているということを」

  • 野上京子(のがみ きょうこ)
達彦の結婚相手。
突如明かされた達彦の性癖に驚愕し涙を流すが、聖也と達彦が愛し合う姿を見てなお、全てを受け入れるとてつもなく冷静な観察眼と大きな度量の持ち主。
ヤマジュン作品きっての「いい女」。

【名セリフ】
「私…やっぱりあなたについて行きます」
「私の上にいる時のほうがあなたは恍惚とした表情をするのがわかったんですもの」

  • 達彦の両親
父は神聖な結婚式の式中に、京子の目の前で聖也との行為を行おうという達彦に怒り、一時は絶縁を宣言。
母は突如始まった息子の衝撃的なホモ・セックスに、言葉も無く涙した。当然です。
最終的には息子が京子の愛を勝ち取った姿を見て、彼と和解し、二人を改めて祝福した。

【名セリフ】
「達彦!お前という奴は…お前は取り乱してるんだ!」
「泣くんじゃない、母さん!あんな奴はもう親でも子でもない!」

  • 神父
結婚式を執り行っていた中年男性。
神の御前でセックスを始める聖也と達彦に驚き、十字を切って神へと祈りを捧げたが、本心では自分もやりたいと思っていた

【名セリフ】
「な、何ということ、祭壇の前で…」
「神よ…(私もやりたい)」

  • 参列客
結婚式の参列客。
突如として行われたクッソ汚い行為に衝撃を受けるが、そのあまりの迫力に感嘆の声を漏らした。

【名セリフ】
「すげェ…」



■余談

くそみそテクニック』のネットへのアップ後、ヤマジュン作品が再評価され、他作品の発掘&アップが進んだことは、山川純一の項にもある通り。
その中で単行本未収録作品は国立国会図書館に収蔵されていた『薔薇族』本誌から発掘されていった。
しかし、本作と『死のロンド -オオカミと羊-』は増刊号への掲載であったため、国会図書館にも収蔵されていなかった*2
二作の存在を知ったネット民の大捜索の末に『死のロンド』は発掘&アップされたが、本作は発掘に至らなかったためネットにアップされることもなかった数少ない作品である。
(他には復刊直前に存在が判明した『疾走する獣たち』のみ)
上述の通り、現在では復刊本に収録されているため、容易に読むことができる。



追記・修正は全裸になって結婚相手に性癖を告白した人にお願いします。


この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2023年07月20日 09:42

*1 意外かもしれないが、ヤマジュン作品にはほとんど女性が出てこないため、女性に対してどのような感情を抱いているか分からないことが多く、あの阿部さんですらバイの可能性があるのだ。出てきたとしても恋人や妻の場合が多く、明確にバイであるキャラクターも多い。明確に女嫌いであるのは他に『裏切り』の川島洋二ぐらい。

*2宿直室を襲え!!』と『教育実習生絶頂す』も増刊号への掲載だったが、この二作は比較的早期に発掘されている。