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2023年5月、新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類に移行されました。そして、少しずつ新型コロナ流行前の日常に戻っています。
2023年3月13日から厚生労働省も、「マスク着用は個人の判断が基本」と呼びかけています。しかし子どもたちの間では「マスクがはずせない」という声も。富山大学附属病院小児科 種市尋宙先生は「子どもたちのマスク着用には弊害がある」と言います。種市先生は、現在、富山市立学校感染症等対策検討会議座長を務めています。
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マスクを着用すると、子どもたちはお友だちの悲しむ表情に気づきにくい
種市先生は、新型コロナの位置づけが5類に移行しても、マスクをはずせない子が意外と多いと言います。先生は「子どもたちに、マスクは不要」「子どもたちは、早く日常を取り戻して!」と訴えます。
――現在、種市先生のまわりでは、マスクをはずしている人のほうが多いですか。
種市先生(以下敬称略) 富山市の保育園では基本的に子どもたちはマスクをはずしていますが、保育士はつけている人が多い状況です。
しかし小学校では、先生はマスクをはずしているけれど、子どもたちはマスクをつけている子が多いです。
「子どもたちの健やかな成長のためには、マスクははずしたほうがいい」「子どもたちは、マスクをし続けることで弊害がある」ということはコロナ禍の最中でもずいぶん言われていました。
コロナ禍でずっと大人たちに、マスクを着用するように言われ続けてきた子どもたちの中には、今でも簡単にははずせない子もいるようです。
――子どもたちのマスク着用の弊害とは、たとえばどのようなことでしょうか。
種市 たとえばマスクをしていると顔が隠れてしまうので、子どもたちは相手の表情が読み取りにくくなります。アメリカ ペンシルベニア大学の調査では、表情の中でもとくに相手の悲しむ表情が読み取りにくいという結果が出ました。
喜怒哀楽のうち、悲しい表情が一番わかりにくくなるのがマスク顔なのです。体に傷ができると血が流れ、周囲の人たちはすぐにわかります。では、心に傷がつくと人は何で気づくでしょうか? それは表情や言葉なのです。マスクはそれをさえぎって隠し、周囲の友だちや先生たちが悲しみに気づきにくくなるようにしてしまいます。素顔のコミュニケーションはとても大切なのです。
そのため、大人が子どもたちに「マスクをはずして」と言ってほしいと思います。個人の判断を求めていては、いつまでもはずせません。自由という名の責任転嫁を子どもたちは感じています。事実、メディアは、運動会、文化祭で感染が拡大した、などと子どもたちの責任を追及するような報道をしているのではないでしょうか。大人たちもよく考えて行動しなくてはいけません。
厚生労働省が発表した2022年に自殺した小中高校生は、過去最多の500人を超えています。コロナ禍の3年間は、統計を取り出して以降、子どもの自殺者数はワースト1、2、3です。多くの子どもたちがSOSを出しているのに大人は気づけていません。
5類移行後も、ある中学校では、養護教諭が1カ月の間で「死にたい」と思っている生徒を3人も見つけたそうです。コロナ禍以前には、なかったことです。不登校や心身症も増えており、大人たちはもうこれ以上、子どもたちを追い込んではいけません。素顔のコミュニケーションを取り戻し、1人でも多く、1秒でも早く、心の傷を見つけてあげてほしいと思っています。
子どもは、かかるべきタイミングで感染症にかかり免疫を獲得することが必要
種市先生は、マスクをし続けることによる子どもたちの弊害に、もっと目を向けてほしいと言います。
――「マスクをしていないと、新型コロナに感染するのでは?」と心配するママ・パパもいると思います。
種市 マスクの感染予防効果について、医学的研究で効果ありの論文がよく報道されていますが、効果がないという論文も複数出ています。マスクの感染予防効果について、まだ懐疑的な状況であり、効果を示す論文でも10~20%程度の予防効果にとどまっています。是が非でも感染対策をしなくてはいけない状況であれば、選択肢の一つになるかもしれませんが、感染対策だけをしていればいいというわけではありません。
エアロゾル感染のときは、マスクを着用していても効果がないということはすでにわかっています。マスクの効果を全否定するわけではありませんが、これまでの経過で子どもたちにとってデメリットが大きいことは明白です。
子どもたちがマスクをし続けることへの弊害にもっと目を向ける時期ではないでしょうか。
――子どもたちがマスクをし続けることの弊害とは、先ほどの相手の表情が読み取りにくくなるということだけでしょうか。
種市 新型コロナに感染しないために 徹底した感染対策をしたことの影響なのか、子どもたちの感染症の傾向の変化も気になります。
昨年(2022年)、全国的に手足口病が大流行しましたが、例年の症状とは異なり39度ぐらいの高熱を伴う子が多くみられましたし、けいれんする子も多かったです。
手足口病は、手のひらや足の裏、ひざ、口の中などに小さな水ぶくれができるのが主な特徴です。微熱を伴うことはありますが、今までは高熱はないとされていました。そのほかにも各地でヘルパンギーナの大流行や、季節外れのRSウイルス感染症の流行が起こっています。
小児科医は、こうした変化があると、子どもたちの感染症の状況が変わってくるのでは!?と、嫌な予感がするものです。風邪にかかってはいけないという風潮が長く続いてきましたが、子どもたちはかかるべきタイミングで風邪をひいたり、感染症にかかったりしながら獲得免疫を身につけて、病気に負けない体を作っていくことが必要ですし、それが本来の姿なのです。
その中でごくわずかですが、重症化する子がいるのも事実です。その子たちに対しては、いち早く高次医療機関につなげる体制を取り戻すことが重要です。行政、医療機関における過剰なコロナ対応により、あらゆる重症小児患者へのアプローチが遅れている傾向が見られています。この3年で私たちは何が大切で何を恐れるべきかを学んできました。もう新型コロナの流行が始まったころの2020年に戻る必要はありません。
過剰なコロナ対策は、WHOの健康定義にも反する
新型コロナの流行による、小中高校の全国一斉臨時休校が始まったのは2020年3月2日。ここから子どもたちの生活は大きく変わり始めました。
――新型コロナが5類に移行して、改めて種市先生はコロナ禍騒動をどのように見ていますか。
種市 WHO憲章では「健康とは、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義されています。
コロナ禍では、肉体的な健康、つまりコロナ感染対策にばかり目が行き「精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」という部分がまったく無視されていたのではないでしょうか。コロナ禍初期であれば、それでもしかたない話だと思いますが、3年以上経った現在、健康とはどういうことなのか、もう一度冷静に考えなくてはいけません。
私は今後、子どもたちの自殺や不登校がまだまだ続くのではないかと心配しています。子どもたちのコロナ禍は終わっていません。新型コロナによる社会の混乱が、子どもたちの心に与えた影響は計りしれないのです。その対策に大人が広い視野を持って動かなくてはいけません。早く本来の姿、あるべき日常を取り戻してほしいと願っています。
お話・監修/種市尋宙先生
取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
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厚生労働省が「マスク着用は個人の判断が基本」と呼びかけたことで、マスクの着用に悩むママ・パパもいるでしょう。
しかし種市先生は「高温多湿の中でのマスク着用は絶対危険。水遊びのときのマスク着用も危険です。子どもたちは、基本的にはマスクは不要と考えてください」と言います。
●記事の内容は2023年6月の情報であり、現在と異なる場合があります。