MAMOR 最新号

9月号

定価:630円(税込)

 2020年8月、日本製レーダーがフィリピン軍に採用されることが決まった。「日本の防衛装備、初めての輸出!」と話題になった国産レーダーだが、レーダーといえば、天気予報から野球の球速測定、最近ではクルマの自動運転技術など、私たちの暮らしに身近な装置だ。

 これまで、レーダーの基本的な原理や仕組みを解説してきたが、自衛隊ではさまざまなレーダーが日々運用されている。どのような部隊でどのようなレーダーが活躍しているのか紹介しよう。

レーダーサイトのレーダー

全国28カ所から日本の空域を警戒・監視する国防の要

 航空自衛隊は、空からの外敵の侵入を防ぐため、固定式レーダーを設置する「レーダーサイト」を全国28カ所に配置し、24時間365日空域を警戒・監視している。運用するのは、各地の「警戒群・警戒隊」。

「ガメラレーダー」とも呼ばれる、カメの甲羅のようなカバーが特徴のレーダー

 普段、レーダーは飛行機などの目標を探知しているが、その中には多数の民間機が含まれている。民間機は、各地の航空交通管制機関に飛行計画が提出されており、その情報は空自と共有されているので、照合することで正体が分かる。もし正体不明機が監視空域内で探知された場合、戦闘機を差し向けて、不明機の正体を確認したり、場合によっては退去を求めたりする。

 また、レーダーサイトや戦闘機などのレーダーには、電波を用いて誰何(すいか)する機能もある。これは、暗号化された通信を送り、相手が正しく返答するかどうかによって敵か味方かを判別するものだ。

移動警戒隊のレーダー

画像: 「J/TPS-102」は円筒形のレーダーを搭載し、そのほかにも電源車やコンソールを搭載した車両と共に運用される

「J/TPS-102」は円筒形のレーダーを搭載し、そのほかにも電源車やコンソールを搭載した車両と共に運用される

空自の警戒・監視を支える移動式レーダー

「J/TPS−102」は、空自の移動式レーダーで、固定式のレーダーが整備などで使えないときなどに現場に展開して固定式のレーダーを肩代わりする。

画像: 任務を行う現地で「J/TPS-102」を展開する移動警戒隊

任務を行う現地で「J/TPS-102」を展開する移動警戒隊

 レーダーサイトに設置しているレーダーと同等の能力を持つレーダーを装備しており、運用するのは「移動警戒隊」という部隊だ。レーダーサイトの警戒・監視を24時間365日維持するためには整備や点検が不可欠だが、それによって監視に穴があいては困る。それを防ぐのが移動警戒隊の任務だ。

早期警戒管制機のレーダー

画像: 旅客機をベースに、警戒管制システムを搭載した航空自衛隊の航空機。機体背面に搭載された円盤がレーダーで、侵入機の発見・監視を行う。遠隔地まで飛行して長時間の警戒監視が可能

旅客機をベースに、警戒管制システムを搭載した航空自衛隊の航空機。機体背面に搭載された円盤がレーダーで、侵入機の発見・監視を行う。遠隔地まで飛行して長時間の警戒監視が可能

大型レーダーを搭載し、空中目標を探知追跡する

 空自のE−767早期警戒管制機は、円盤形のドーム内に捜索レーダーを搭載した航空機で、地上の固定式レーダーと併用することでより遠方を早期に探知することを目的に運用されている。搭載する捜索レーダーは、周囲360度の広範囲を遠距離まで探索し、高速・高機動・レーダー有効反射面積が小さい目標までもが探知可能だ。ほかにも、陸・海・空各自衛隊の部隊とも通信を行い、陸上にあるレーダーサイトの代替や通信中継なども行う。

戦闘機のレーダー

画像: (出典:航空自衛隊オフィシャルサイト https://www.mod.go.jp/asdf/equipment/all_equipment/F-15/index.html )

(出典:航空自衛隊オフィシャルサイト https://www.mod.go.jp/asdf/equipment/all_equipment/F-15/index.html

機体の前方で周囲の目標を探知・捕捉する

 戦闘機に搭載されているレーダーは、敵機の捜索・捕捉・追尾に加えて、ミサイルの誘導をはじめとする「火器管制」の機能も備えている点が特徴。多くの戦闘機のアンテナは機首内部に前方へ向けて設置されているだけで、側方や後方はカバーしていない。

画像: 戦闘機は機体前方にレーダーを搭載している(写真はアメリカ空軍のF-15戦闘機)。自衛隊の戦闘機も同様にレーダーを搭載し、目標を捜索・探知している。 写真/USAF

戦闘機は機体前方にレーダーを搭載している(写真はアメリカ空軍のF-15戦闘機)。自衛隊の戦闘機も同様にレーダーを搭載し、目標を捜索・探知している。 写真/USAF

 上空を飛行する航空機だけでなく、洋上の艦艇や地上の車両を探知する機能を備えた機種もある。探知目標を細かに知る必要があり、高い分解能が求められるので、使用する電波の周波数は高い傾向にある。

航空管制用のレーダー

画像: 丸いドーム内には飛行場周辺の航空機を探知する「ASR(Airport Surveillance Radar)」レーダーが収められている

丸いドーム内には飛行場周辺の航空機を探知する「ASR(Airport Surveillance Radar)」レーダーが収められている

滑走路に進入する航空機の位置や高度を捉える

 航空管制用のレーダーは、基地周辺を飛行する航空機や滑走路に進入する航空機の動向を把握するために運用している。管制官は、これらのレーダー情報をもとに、パイロットに指示を出している。

 自衛隊のほか、国土交通省の航空局といった航空機を運用する機関でも使用している。飛行場によっては、滑走路や誘導路を行き来している航空機を監視するために、専用のレーダーを用意していることもある。

画像: 滑走路に向けて着陸態勢に入った航空機を捉えて誘導するレーダー、地上誘導着陸装置「PAR(Precision Approach Radar)」

滑走路に向けて着陸態勢に入った航空機を捉えて誘導するレーダー、地上誘導着陸装置「PAR(Precision Approach Radar)」

 航空路監視用レーダーは探知可能距離が長くないと仕事にならないので、使用する電波の周波数は低め。飛行場とその周辺でだけ使用するレーダーでは分解能も大事なので、使用する電波の周波数は高めになるケースが多い。

護衛艦のレーダー

画像: 艦艇の主なレーダーの設置場所はマストなど。高い位置から電波を発射した方が遠くまで届きやすいため、レーダーなどが集まっている(出典:海上自衛隊オフィシャルサイト https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ )

艦艇の主なレーダーの設置場所はマストなど。高い位置から電波を発射した方が遠くまで届きやすいため、レーダーなどが集まっている(出典:海上自衛隊オフィシャルサイト https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/

数種類のレーダーを目的に合わせて使い分ける

 護衛艦は、広範囲にわたって飛行する航空機やミサイルを探知する「対空捜索用レーダー」や、周囲にいる船舶や、潜水艦が海面上に出した潜望鏡を探知する「水上捜索用レーダー」、ミサイルを目標に導くために目標を追尾したり誘導用の電波を発信したりする「ミサイル誘導レーダー」など 、多種多様なレーダーを備え、目的に応じて使い分けている。近年では、捜索、誘導などを1基で行う「多機能レーダー」を搭載した艦艇もある。

 艦艇の主なレーダーの設置場所はマストなど。高い位置から電波を発射したほうが遠くまで届きやすいため、レーダーなどが集まっている。

ヘリコプターのレーダー

画像: 陸上自衛隊が装備する戦闘ヘリコプター。空対空ミサイルなどを搭載。ローター上部のロングボウ・レーダーにより、地上にある100以上の目標を探知できる。通称「アパッチ・ロングボウ」(出典:陸上自衛隊オフィシャルサイト https://www.mod.go.jp/gsdf/equipment/air/index.html )

陸上自衛隊が装備する戦闘ヘリコプター。空対空ミサイルなどを搭載。ローター上部のロングボウ・レーダーにより、地上にある100以上の目標を探知できる。通称「アパッチ・ロングボウ」(出典:陸上自衛隊オフィシャルサイト https://www.mod.go.jp/gsdf/equipment/air/index.html

戦車や装甲車など、重要な探知目標を判別する

 AH−64D戦闘ヘリコプターは、「ロングボウ・レーダー」という、地上の車両を探知・識別するためのレーダーを、ローター上部に備えている。地面や建物、植生から反射される電波を無視して、戦車や装甲車などの重要な探知目標からの反射波だけを判別し、100以上の目標を探知する機能を備えている。

 地平線の向こう側までカバーする必要はないので探知距離はそれほど長くないが、機体の周囲360度にわたって広範囲を探知する。

(MAMOR2021年2月号)

<文/井上孝司>

知りたい!レーダーの基礎知識

 万が一の事故に備え、24時間365日態勢で出動に備えている百里救難隊。彼らを指揮する救難隊長、松瀬瀬実2等空佐に、部隊の目指すことや救難隊の実績について話を聞いた。併せて、あらゆる状況でも対応するために、救難隊が日ごろどんな訓練をしているのか、その一部を紹介しよう。

人の命を救う責任を自覚し、プロとして技量を追求する

U-125A、UH-60J両機の操縦資格を所有する松瀬2佐。ミッションに合わせクルー配置を考え、現場を指揮する。また、訓練の管理で段階的に隊員をステップアップさせる役割を担う

 百里救難隊を「関東一帯の捜索救助の専任部隊である責任を自覚し、献身的に動く部隊」と表現する松瀬2佐。ここは「大変な面もあるが、楽しくやりがいがある職場」だと語る。「災害救助の業務上、頑張った分だけ人の命を救えて、救助をした方から感謝されることもある。手紙をもらったり目に見えて気持ちが伝わるので、やりがいを直接的に感じやすい」そうだ。

画像: あらゆる現場での救助活動に対応するため日ごろから鍛錬を重ねるだけでなく、岩壁登坂や冬季の低温潜水など過酷な環境での訓練を重ねている

あらゆる現場での救助活動に対応するため日ごろから鍛錬を重ねるだけでなく、岩壁登坂や冬季の低温潜水など過酷な環境での訓練を重ねている

「自衛隊の組織は上下関係があり、私が強く言うと萎縮させたり雰囲気を悪くすることもある。自分の考えを押し付けすぎると、言ったことをやるだけになるので、自主的に動いてもらえるように気を付けます。指揮官の威厳も大切ですが、部下の意見に耳を傾ける“聞く力”も非常に重要だと思います」

画像: 雪山の救難ではストレッチャーに要救助者を乗せて搬送することも。救難員は65キログラムの荷物を背負い安全な場所まで進む雪山訓練を行う

雪山の救難ではストレッチャーに要救助者を乗せて搬送することも。救難員は65キログラムの荷物を背負い安全な場所まで進む雪山訓練を行う

 現場の雰囲気作りで心掛けるのは、太陽のような明るさ。「救難隊の任務は大変ですが、どうせなら楽しく働きたいし、明るく前向きに行動したほうが結果も変わる。厳しさも必要ですし安全も強く意識しますが、同じぐらい明るさを大切にしたいです」。

厳しい訓練を重ね続け、いち早く現場に駆け付ける

画像: 小さな部品でも上空で外れたら事故につながるため細部の整備が重要。整備員同士で都度マニュアルを確認し、慎重に点検作業を行う

小さな部品でも上空で外れたら事故につながるため細部の整備が重要。整備員同士で都度マニュアルを確認し、慎重に点検作業を行う

 1958年に編成された臨時救難航空隊が、71年に航空救難団へ改称。救難隊は全国10カ所(千歳、秋田、松島、百里、新潟、浜松、小松、芦屋、新田原、那覇)に配置され、隊員はあらゆる状況を想定した厳しい訓練を年間300日ほど行っている。

画像: 百里救難隊には80人程度の隊員がいる。整備員もパイロットなどと同様に24時間態勢で整備作業を行い、いつでも離陸できるよう準備を整える

百里救難隊には80人程度の隊員がいる。整備員もパイロットなどと同様に24時間態勢で整備作業を行い、いつでも離陸できるよう準備を整える

 救難隊の任務は、航空救難、災害派遣、航空輸送の3点。主任務は航空機墜落事故が起きた際の航空救難だ。これまで251件、151人の救難の実績がある(2022年2月時点)。だが、その救難技術の高さから、海上保安庁や消防、警察などが対応できない海難・山岳事故の捜索依頼も多い。救難団のモットーは「That others may live(かけがえのない命を救うために)」。救難隊は、遭難などの事態や戦闘機が緊急発進した際の事故に備え、24時間365日態勢でクルーがスタンバイしているのだ。

 (MAMOR2022年5月号)

<文/守本和宏 写真/赤塚 聡>

命を救うためのワンチーム!

画像: 令和3年度自衛隊統合演習のようす 出典:統合幕僚監部ホームページ(https://www.mod.go.jp/js/photo/photo-jx.html#photo-jx25)

令和3年度自衛隊統合演習のようす 出典:統合幕僚監部ホームページ(https://www.mod.go.jp/js/photo/photo-jx.html#photo-jx25)

 3つに分かれている自衛隊。近年ではその枠を超えて協同する「統合運用」が重視されている。いっそのこと陸・海・空の区別をなくし、1つの自衛隊にするほうが効率的だという考え方もある中、今後の3自衛隊はどうなっていくのだろうか。

新たな領域にも対応した進化した統合運用が不可欠

画像: 自衛隊統合演習の1シーン。海自の護衛艦『いせ』において、海自および空自隊員が連携して、陸・海・空各自衛隊の航空機を誘導している 写真提供/防衛省

自衛隊統合演習の1シーン。海自の護衛艦『いせ』において、海自および空自隊員が連携して、陸・海・空各自衛隊の航空機を誘導している 写真提供/防衛省

 陸・海・空の各自衛隊は、独自の歴史と文化を持ち、独立した存在だ。一方で、自衛隊の任務を迅速かつ効率的に遂行するためには、有事はもちろん、災害派遣や国際平和協力活動においても、陸・海・空各自衛隊が協同して任務にあたる必要があり、全自衛隊を一体的に運用する「統合運用」が重視されてきた。

 そこで自衛隊では、有事の際に防衛力を効果的に発揮するため、陸・海・空が協力して行う「統合訓練」を積み重ねてきた。1979年以来、部隊を実際に動かす「実動演習」のほか、シミュレーション中心の「指揮所訓練」をおおむね毎年交互に実施している。そして2011年の東日本大震災における災害派遣では、初の陸・海・空統合任務部隊が編成され、任務を全うした。

 また、陸・海・空各自衛隊の総司令部ともいえる統合幕僚監部の機能強化も推し進め、より一層、統合運用がスムーズにできるように態勢を整えているほか、装備品の仕様共通化やファミリー化(注)、さらには陸・海・空共通の装備品を共同調達して費用を削減するなど、限られた予算内で効率的に部隊・装備を運用できるよう改革を進めている。

 加えて最近では、宇宙、サイバー、電磁波領域など、技術の進展を背景とし、従来の陸・海・空の区分にはあてはめにくい新たな領域も含めた「領域横断作戦」を行う必要がでてきた。これにはさらに進化した統合運用能力が求められている。

(注)基本的な設計や部品構成を共通化しつつ、機能や性能にバリエーションを持たせることでさまざまな要求に対応すること

防大同期のつながりなど自衛隊はまとまる土壌がある

 これに関連して、長年自衛隊を取材しているジャーナリストの井上和彦氏に、陸・海・空各自衛隊の統合運用、そして将来像について尋ねてみた。

「防衛省は自衛隊の統合運用を進めていますが、あえて組織を変えずとも、陸・海・空各自衛隊には、十分に1つにまとまって動ける土壌があります」と井上氏は言う。

「防衛大学校の存在がその証拠です。他国の士官養成学校は、多くが陸・海・空の軍種別に設立されていて、交流がありません。しかし自衛隊では、後に陸・海・空に分かれて隊員となる全ての学生が、一緒に集まって学び、在学中に陸・海・空へと進路を決めます。彼らが『同じ釜の飯を食う仲』であることが、良い結果を生んでいます」

 井上氏は成功例として、国際平和協力活動において初めて陸・海・空統合運用を行った、スマトラ沖大規模地震およびインド洋津波における国際緊急援助活動を挙げる。

「自衛隊は、陸・海・空から要員と装備を現地に送りました。このとき活動のキーパーソンとなる各自衛隊部隊の指揮官に、防大同期生がいたのです。互いをよく知っていたので、調整もツーカーで済み、見事な連携プレーができました」

 ほかのケースでも、防大や各種学校の同期生、かつての先輩後輩といった、すでに人間関係を構築できている者たちが同じ目的のオペレーションに携わることも多いため、自衛隊には他国ほど陸・海・空の「壁」はない、と井上氏は言う。だから3自衛隊を1つの組織に統合する必要はないという考えだ。厳しさを増す安全保障環境や少子高齢化を考えると、自衛隊のさらなる効率化も必要不可欠。井上氏はこう提言する。

「人材確保が難しい状況においては、充足率を高めることが重要です。少子化の影響を受けるのは自衛隊だけでなく、警察や海上保安庁も同じ。国はこうした「公」のために身を投じてくれる志の高い若者を確保するため、もっと積極的に動くべきだと思います。

 自衛隊は有事や災害派遣時を考慮し、警察や海保との連携をさらに強化すべき。部品や燃料、弾薬の融通などを考えると、警察や海保も自衛隊と同じ航空機や艦艇、火器などを装備することを検討すべきではないでしょうか」

【井上和彦】
ジャーナリスト。軍事・安全保障、外交問題、近現代史を専門とし、執筆活動のほかバラエティーやニュース番組のコメンテーターとして出演するなど幅広く活躍中。著書に『国民のための防衛白書』(扶桑社)など
 
(MAMOR2022年1月号)

<文/臼井総理 撮影/山田耕司(扶桑社)>

自衛隊には陸海空があるの知ってた?

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