第7回迫る記者会見、焦る病院 1枚の想定問答を届けた「すごい人」たち
連載「記憶喪失になった病院」
大阪急性期・総合医療センターでは、サイバー攻撃が発覚した2022年10月31日夜、緊急の記者会見を開いて事実を公表した。
攻撃を受けた場合に何を説明すればよいのか、どこまで説明すべきなのか、病院はわからないことだらけだった。
会見の直前、1枚の想定問答が届いた。この数時間前、東京からオンライン会議で初めて合流した、政府の専門家チームが作成したものだった。(文中敬称略)
主な登場人物
嶋津岳士=総長、粟倉康之=経営企画マネージャー、能勢一臣=総務・人事マネージャー、川崎浩二=事務局長、板東直樹=ITシステム専門家、萩原健太=セキュリティー専門家
10月31日朝、経営企画マネージャーの粟倉康之は幹部会議を終えた後、大阪府や国など、関係各所に連絡する役割を担った。ところがどこに連絡すればよいのかわからなかった。
送り込まれた「支援チーム」、その正体は
国なら厚生労働省なのだろう。サイバー攻撃を受けた時の連絡先があるのかどうか調べるよう、部下に求めた。
その間に総務・人事マネージャーの能勢一臣と手分けし、病院の運営母体である大阪府立病院機構本部や大阪府健康医療部、大阪市保健所、地元の住吉警察署に連絡をとった。
機構本部からは、政府の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)にも報告した方がいいと伝えられた。
サイバー攻撃を受けた被害組織は現状、国や自治体など関係各所に個別に連絡することを強いられる。負担の重い作業だ。
部下が厚労省のウェブサイトにあった緊急連絡先を見つけ、印刷して粟倉に渡した。「医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室」と書かれていた。
粟倉は電話をかけ、病院のシステムがランサムウェアに感染したことを伝えた。厚労省側からは、エクセルのシートで作られた報告書の提出を求められた。
この時、厚労省の担当者から「政府の専門家チームを派遣できる」という説明があった。
正式には「初動対応支援チーム」という。サイバー攻撃を受けた医療機関を助ける厚労省の支援制度だ。
2021年10月に徳島県つるぎ町立半田病院がサイバー攻撃を受け、地域医療に大きな影響が出た。この時の被害対応の反省をもとにつくられたのが支援チームだった。この1カ月ほど前の9月末に発足したばかりだった。
病院側は派遣の要請について、この日正午の対策本部会議で正式に決まった。
ただ院内では当初、支援チームの受け入れに懐疑的な空気もあった。
「正直申し上げて、厚労省の役人さんがきて、あれこれ意見を言われるだけだと思っていました」
粟倉はのちの取材に語った。続けて、こう述べた。
「まさかあんなすごい人たちが来るとは思わなかった。本当に思わなかった」
支援チームの一員で、ITシ…