SNSのフォロワー数10万人超のタクシードライバーが開いた、赤字であえぐ会社の復活への扉

公開日:2023/2/28

SNSのフォロワー数10万人超のタクシードライバーが開いた、赤字であえぐ会社の復活への扉

三条タクシー(新潟県三条市)は昭和18年設立の地域密着型のタクシー会社。お年寄りを中心とした地元の方々の“足”となりながら、約80年に渡り堅実な経営をつづけてきた。しかし、2020年同社は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を大きく受ける。人々は外出を控え、タクシーを使って繁華街にお酒を飲みに行く人もいなくなり、売上は大幅にダウンした。そんなピンチをSNSツールをつかって救ったのが、新人女性ドライバーだった“ひよりん”こと刈谷陽和(ひより)氏だ。今回はその裏側とそれに伴う変化、これからの展望などを刈谷氏と代表取締役社長の渡邉惣太氏に伺った。コロナ禍で同社が踏み出した新しい第一歩とは──。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、売上が8割ダウン

新潟県三条市に住んでいる方々の交通手段は、自家用車がほとんど。タクシーは病院に出かける高齢者や、観光やビジネスなどで三条市を訪れた県外の方などの利用がメイン。そして夜は三条市の中心部にある繁華街へお酒を飲みに行く方の送迎が、多くの割合を占めていたそう。しかし運転代行の普及によりタクシーで飲みに行く人は徐々に減少。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が始まったことで、三条タクシーは大きなダメージ受けてしまう。「私は親会社であるマルソーという物流会社から、三条タクシーの立て直しを命じられて2019年11月にこちらに異動してきました。当時はかろうじて黒字を出せていた状態だったのですが、コロナ禍に突入して昼間の利用も減ってしまい売上は8割ダウン。すぐに赤字経営に突入してしまったんです。どうにかしたいという想いから、3月から通常は出前をやっていない飲食店の料理を、市内の対象エリアに配達料500円で届ける『さんタクイートサービス』をスタートしましたが、思うようにはいきませんでした」と代表の渡邉氏は当時を振り返った。

SNSのフォロワー数10万人超のタクシードライバーが開いた、赤字であえぐ会社の復活への扉 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、売上が8割ダウン

お客様からのアドバイスで動画系SNSをスタート。3ヶ月で3万人超のフォロワーを獲得

新型コロナウイルスの感染拡大で頭を悩ませる渡邉氏に、刈谷氏が想定外の提案をする。それは、“動画をメインとしたSNSツールを使用して三条市や会社のPRを行いたい”というものだった。「最終学歴は中卒で、しかも2人の子どもを抱えるシングルマザー。このような経歴の私を正社員として採用してくれた上に、コロナ禍に突入して売上が落ちているにもかかわらず、お給料を出してくれている会社に、いつか恩返ししたいと思っていました。転機となったのは2021年9月。三条市内にあるキャンプサイトへ来られたお客様をお送りした際に、動画をメインとしたSNSツールを教えてもらったのがきっかけでした。テキスト系のSNSはやっていたのですが、“こっちのほうが人気だよ”とお伺いし、お客様が車を降りられた瞬間にアプリをダウンロード。代表の許可は事務所に帰ってから事後報告でもらいました(笑)」と刈谷氏は、いたずらっ子のような笑顔で教えてくれた。そして、会社を黒字にするために奮闘するタクシーのお姉さん “ひよりん”の仕事に関連した動画や、プライベートの出来事を紹介する動画は大きな反響を呼び、フォロワー数はアカウント開設から半年足らずで3万5000人を突破し、2022年12月時点で10万人を超えている。

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ひよりんの活動が社内に新風を吹き込み、地域活性化とコロナ禍以降初の黒字化を実現!

「刈谷さんにはお客様待ちの待機時間をつかって動画を配信してもらっています。フォロワーさんが増えてくると、彼女指名での貸し切り運行も増加。関西や九州など遠方のお客様だけでなく、なんとメキシコから三条市を訪れてくださった方もいらっしゃいました。SNSによる会社の知名度アップは他の社員の働き方にもいい影響を与えていて、全員がお客様に気持ちよくご利用いただく環境づくりに、より力を注いでくれるようになりました。おかげで三条タクシー全体の予約数も増え、2022年10月には2年ぶりに黒字化を実現することができました」と渡邉氏。SNSによるうれしい変化が起こったのは会社だけではない。2022年8月、刈谷氏が初代・三条ふるさと観光大使に任命されたのだ。「三条市にある企業や農家さんを訪問して商品や農作物をSNSで紹介する中で、私自身もモノづくりの街・三条市の魅力を再確認しています。さらにマルシェを開催したことで、地域活性化にも今まで以上に興味が湧きました。ここに入社するまでの私は、何をやっても達成感がなく仕事をつまらないと感じていました。それが今ではこんなに充実した日々を過ごせている…会社には本当に感謝しています!」と刈谷氏はうれしそうに話してくれた。

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“もう1つ”の肩書きがある人材を採用することで、三条へわざわざ来てくれる人を増やしたい

子育て中の刈谷氏にとって、三条タクシーが行う女性が活躍できる環境づくりも働きやすさの理由の1つとなっている。「女性ドライバーで結成した『さくらチーム』にはシングルマザーが2名所属しています。従業員は事務所2階の放課後等デイサービスを月5000円で利用できる上に、子どもの体調不良や保育園の用事も配慮してもらえるのでとてもありがたいです」。以前は2つの仕事を掛け持ちしていて子どもとの時間がとれなった刈谷氏だが、ここに入社したことで一緒に過ごす時間が格段にアップ。テレビへの出演など忙しい日々を過ごしているが、お子さんは「ママが頑張っているのがうれしい」と応援してくれるそう。さらに渡邉氏には従業員の採用と地域活性化の両方を実現する、とある計画があるらしい。「刈谷さんの活動を通じ、三条にわざわざ来てくれる方が増えました。今考えているのは“もう1つ”の肩書きを持った方の採用です。たとえばフォトグラファーになる夢を追っている方にドライバーとして働いてもらうことで、お客様は観光をしながら家族写真が撮れるだけでなく、ご本人は日々カメラに触れられます。ただの乗り物ではなく体験・経験を付加することで、それを目的に三条市に来てくださる方が増えるとうれしいですね」。1人の女性ドライバーがSNSを開始したことで大きく広がった同社の新しい扉──三条タクシーはその先につづく明るい未来に向けて走りつづける。

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