政府と東京電力は24日、福島第1原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出を開始する。福島民報社は福島県内59市町村長に海洋放出への賛否を聞いた。「どちらとも言えない」が25市町村長(42%)で最多だった。処理水の科学的な安全性や廃炉工程における処分の必要性を理解しつつも、新たな風評発生への懸念を拭えないなどとする理由が多く、割り切れない複雑な思いを抱えている現状が浮き彫りとなった。合意形成には至らない中、30~40年とされる海洋放出が始まる。
政府が放出開始日を最終決定したのに合わせ、「賛成」「どちらかと言えば賛成」「反対」「どちらかと言えば反対」「どちらとも言えない」の5択で現時点での受け止めを調べた。
「どちらとも言えない」とした25市町村長からは「科学的安全性への理解は進んでいるが、風評の懸念は拭えていない」(木幡浩福島市長)、「科学的根拠に基づく放出には賛成だが、風評被害が懸念され、説明や理解が十分とは言えない」(矢沢源成三島町長)などと国内外での理解醸成の不十分さを指摘する声が多かった。福島第1原発が立地する大熊町の吉田淳町長、双葉町の伊沢史朗町長は「賛成、反対で結論付けられる簡単な問題ではない」と同じ立場を取り、「どちらとも言えない」と回答した。
「賛成」は下郷と広野の2町長(3%)で、星学下郷町長は「やむを得ない選択だが、反対しても始まらない。今は海洋放出が最良という政府の考えに従う」とした。「どちらかと言えば賛成」は15市町村長(25%)で、「処理水の保管タンクがいっぱいになり、廃炉作業に支障が出ているので処分は必要」(湯座一平棚倉町長)、「廃炉作業を進めるためにも必要なプロセスと考える」(山本育男富岡町長)などと一定の理解が示された。「どちらかと言えば」を含めた「賛成」は17市町村長(28%)だった。
一方、「反対」は川俣町と鮫川村の2首長(3%)。関根政雄鮫川村長は「風評は免れない。処理水の処分は喫緊の課題だが、放出までのスケジュールが早過ぎた」と訴えた。「どちらかと言えば反対」は9市町村長(15%)となり、「廃炉に向けて処理水を処分する必要性は理解している。ただ、世論調査結果からも理解が十分に広がっているとは言い切れない」(室井照平会津若松市長)、「県民や国民の合意形成が不十分だ」(宮田秀利塙町長)などとの意見があった。「どちらかと言えば」を合わせた「反対」は11市町村長(18%)だった。
他の6市町村長(10%)は「答える立場にない」などとして無回答だった。
岸田文雄首相は「廃炉と復興のために処理水の処分は避けて通れない課題」とし、「政府が全責任を持つ」と強調する。ただ、県内市町村長の受け止めはさまざまで、地域を問わず賛否が入り交じっている。
【県内59市町村長の処理水の海洋放出への賛否】
▽賛成(2町長)=下郷、広野▽どちらかと言えば賛成(15市町村長)=須賀川、本宮、桑折、湯川、金山、会津美里、棚倉、石川、玉川、平田、浅川、古殿、楢葉、富岡、川内▽反対(2町村長)=川俣、鮫川▽どちらかと言えば反対(9市町村長)=会津若松、檜枝岐、只見、猪苗代、中島、矢吹、矢祭、塙、小野▽どちらとも言えない(25市町村長)=福島、いわき、白河、喜多方、二本松、田村、南相馬、伊達、国見、大玉、鏡石、天栄、南会津、北塩原、西会津、磐梯、会津坂下、柳津、三島、昭和、西郷、三春、大熊、双葉、葛尾▽無回答(6市町村長)=郡山、相馬、泉崎、浪江、新地、飯舘