お風呂から出てこなかった息子
2021年10月。神奈川県鎌倉市に住んでいた中学1年生の13歳の少年は、その日、土曜日に登校していた。授業は休みだったが、部活動があったためだ。野球部で、根っからの野球少年。朝7時には部活動へ行き、昼過ぎに帰宅していた。
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午後5時前、集団接種会場で2回目のワクチン接種を行った。薬剤はファイザー製で、接種直後、何も異常はなかった。「入浴は普段通りで大丈夫ですよ」帰り際に、看護師にかけられたこの一言を、母親は鮮明に覚えているという。
午後7時ごろ、母親は少し遅めの夕食の準備を始めた。息子はさっぱりとしたものが食べたいとリクエストし、食事の支度を手伝ってくれた。
「お風呂でも入ってきたら」そう勧めたのは母親だった。接種会場で言われた一言があったので、何の躊躇もなく入浴を勧めた。まさか、これが最後の会話になるとは思ってもみなかった。
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少年は午後8時半くらいにお風呂に入った。少年はいつも長風呂だったので、この日も入浴してから30分を超えていたが、母親はさほど疑問は感じなかった。
50分ほどが経過した頃、あまりにも長いと思い、声をかけてみた。返事がない。嫌な予感がしたため、慌てて浴室の扉を開けると…少年は浴槽の中で、腰を折るように前かがみに座っていた。少年の顔は、お湯に浸かっていた。
意識はない、息もしていない。慌てた母親は、少年を浴槽から出し、心臓マッサージを始めた。「救急車、救急車」帰宅したばかりの父親が救急車を呼ぶ。
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すぐに救急車が駆けつけて、自宅からほど近い総合病院へ搬送された。医師や看護師による心肺蘇生が行われた。家族に対して看護師が状況説明に来るが、希望を持てるような報告は一度もなかった。そして、いよいよ状況的に難しいと伝えられた時、母親は病院側に依頼した。「最後、私達家族に心臓マッサージをさせて下さい」
母親、父親、そして高校3年生になる少年の姉の順番で、1分間ずつ両手で彼の胸を押した。