職場や学校など、様々な場面で使用するコンピュータのキーボード。それぞれのキーにはアルファベットや記号が割り振られていますが、その並びはアルファベットやひらがな順ではありません。一見、不規則なこの配列には、どんな法則があるのでしょうか?
大阪市に本社を構えるパソコン周辺機器メーカー『エレコム株式会社』でパソコン用キーボードやマウスなどの入力機器の開発を行う、薬真寺さんに話を聞きました。
コンピュータのキーボードの多くはQ・W・E・R・T・Yからはじまる「クワーティ配列」と呼ばれる並びになっています。この配置は母音と子音が混じり合ってバラバラに並んだものです。慣れれば速く正確に打つこともできますが、タイピング時は指があちらこちらに移動することが多くなるため効率の良い並び方とは言えません。
コンピュータのキーボードには、クワーティ配列以外にも、フランス語圏などで使用される「アザーティー配列」、母音と子音の位置を揃えて入力速度の効率化を図った「ドヴォラック配列」など様々な並び方が存在します。しかし、キーボード付きのコンピュータが開発された当初から現在まで、配列の主流は変わらずクワーティ配列なのだそうです。
薬真寺さんによると、このクワーティ配列は、使う頻度が高い母音などを離れた位置に配置した“あえて入力しづらい”並べ方なのだといいます。その理由は、18世紀ごろから欧米を中心に文字を紙に印字するために使われてきた「タイプライター」を参考にしているからだと考えられているそうです。
タイプライターは、キーボードを押すと長いアームが動いて紙にインクを押し付ける仕組みになっています。そのため、早い速度で文字を打つと、アームが絡んで機械が故障することがありました。そこで、あえて使用頻度の高い母音をばらけさせて配置し、タイピングの速度が落ちるように工夫した並びが、この「クワーティ配列」だったそうです。
その後、パソコンの前身となった通信機能付きのタイプライター「テレタイプ」にも、クワーティ配列がそのまま採用されました。この流れから、現在のキーボードにも同じ配列が引き継がれたと考えられているようです。
また、複数のキーを押して入力の動作を効率化する「ショートカットキー」の並び順を変化させないためにもクワーティ配列が使用され続けているのではないかと薬真寺さんは分析しています。
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キー配列や形状について、現在もさまざまな研究と議論が続けられているというコンピュータのキーボード。近い将来、新たな配列が発明されるかもしれません。
(取材・文=村川千晶)