[2023/4/28更新] 「接種後にmRNAやS蛋白が長期残存」はミスリード。発端となった論文を確認すると、長期にmRNAやS蛋白が検出されたのはGC(胚中心)内のみで、血漿中は急速に減少とある。この論文で厚労省の公式説明をデマと断じるのは誤り。その後も、幾つかの論文や記事があるが、どれも根拠となるような事実は読み取れない。
【解説】 Robert Malone氏がCell論文を「接種60日後にmRNA,S蛋白が検出された」と紹介したのが発端。これをJ.Sato氏が「早期に分解され消失するから安全だと言っていたのに、厚労省は公式デマだ」と拡散したもの。 論文を確認すると、接種60日後に検出されたというのは、GC(胚中心)内の濾胞樹状細胞に捕捉されたもので特殊なケース。安全性を懸念するものではないし、GC以外では検出されていない。「mRNAやS蛋白の残存」がワクチンの安全性の議論であるなら、本事例のような安全性に影響しない特殊なケースは除外されても良い筈で、この論文で「公式説明はデマ」と論うのは、ワクチンの安全性に誤解を招くミスリードである。◾️拡散されたツイート(2022/2/8)https://twitter.com/j_sato/status/1491010890065268738?s=20&t=SIuOeE89idkNJbcCUtufUA
◾️Cell(2022/1/24) “〜, and detected vaccine mRNA collected in the GCs of LNs on day 7, 16, and 37 post vaccination, with lower but still appreciable specific signal at day 60 . Only rare foci of vaccine mRNA were seen outside of GCs.” “Our histological data from SARS-CoV-2 mRNA-vaccinated humans at considerably later time points (7 to 60 days post-2nd dose) show vaccine RNA almost entirely in GCs, distributed primarily between the nuclei of GC cells, similar to the pattern seen by immunostaining for follicular dendritic cell processes or B cell cytoplasm.” “〜, but showed abundant spike protein in GCs 16 days post-2nd dose, with spike antigen still present as late as 60 days post-2nd dose. Spike antigen localized in a reticular pattern around the GC cells, similar to staining for follicular dendritic cell processes.” “〜, although a small number of infected individuals had higher concentrations in the ng/mL range. At later time points after vaccination, the concentrations of spike antigen in blood quickly decrease, 〜” 本論文を読むと、mRNA,S蛋白の検出は、GC(胚中心)内の濾胞樹状細胞と書かれている。濾胞樹状細胞には、抗原を捕捉し細胞表面に保持することで、免疫を活性化させる働きがある。今回の論文は濾胞樹状細胞が取り込んだmRNAやS蛋白を検出したもの。感染により体内に増殖した抗原とは異なり、60日後に検出されたからと言って、ワクチンの安全性に問題があると書かれているわけではない。寧ろ樹状細胞で抗原の保持が持続することは、変異株に対応できる効果があることを示唆していると書かれている。また、「GC外でmRNAが検出されることは極めて稀である」「血漿中のS蛋白濃度が高いのは1週間後までで、後は急速に減少した」とも書かれていることから、mRNA,S蛋白抗原が長期間体内に残存し悪影響を及ぼすとした内容ではない。https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(22)00076-9?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867422000769%3Fshowall%3Dtrue 本論文については、よし.U氏が以下のスレで詳しく解説している。https://twitter.com/YOSH_ueda/status/1492580125937860610?s=20
このCell論文以外にも、幾つかの記事や論文がネットで拡散されたが、いずれも根拠不明や勘違いである。その代表的なものを以下に記す。◾️Doctors For Covid Ethics Channel 記事(2022/8/19) ワクチン接種の9カ月後に気管支粘膜からS蛋白の発現が確認されたとする記事。査読済み論文が証明したと曲解したデマが拡散したが、一次ソースとなる元論文の引用記載がどこにも無い根拠不明な記事である。https://doctors4covidethics.org/vascular-and-organ-damage-induced-by-mrna-vaccines-irrefutable-proof-of-causality/ 以下のHealth Feedbackでファクトチェックされている。 Health Feedback(2022/9/3)https://healthfeedback.org/claimreview/unsubstantiated-claims-by-michael-palmer-sucharit-bhakdi-dont-demonstrate-covid-19-vaccines-harm-organs/
◾️The Journal of Immunology(2021/11/15) ワクチン接種によりS蛋白を持つ循環エクソソームが抗体産生前に誘導されることを示した論文。ブースター接種15日後と4カ月後を調査。15日目までにS蛋白は発現し、4カ月後には減少していたことを「4カ月まで残存」と曲解され拡まったもの。本論文の結論は「エクソソームが液性免疫のみならず細胞性免疫応答も誘導することが示唆された」である。筆者が書いていない結論を勝手に図から読み取ったものなので、可能性でしかない。極端に言えば、胚中心応答が6ヶ月後にも見られるなら、それは濾胞樹状細胞のS蛋白をエクソソームが移送していたり、もしかするとブレイクスルー感染等、様々な可能性が想定できる。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34654691/
◾️MDPI(2021/8/31) 血漿中のS蛋白の量を計測するセンサーを開発したという論文。ある1人の被験者のデータが接種50日後もS蛋白の量が減少していないことから、S蛋白の残存には個人差があり、長期に残存する人もいると主張する根拠に使われたもの。然し、実際に論文を読むと、風邪を引いた被験者で異常値が出ただけだと書かれている。よく読まないでグラフだけ見て判断した勘違いである。 For one subject (Figure 5, red dots), the final timepoint at 73 days was an outlier for both the spike protein and anti-RBD antibody measurements. This subject communicated that they had been sick with a cold concurrent with this final sampling. Thus, these aberrant measurements could be due to increased immune activity in the subject’s bloodstream (for the antibody measurement) and cross-reactivity with the spike protein of a common cold coronavirus such as OC43. ある被験者(赤点線)は異常値となったが、この被験者は風邪をひいていたことを伝えている。この異常値は、被験者の血流中の免疫活性の増加(抗体測定のため)、およびOC43などの一般的な風邪コロナウイルスのS蛋白との交差反応による可能性がある。https://www.mdpi.com/1424-8220/21/17/5857/htm
◾️高知大 Journal of Cutaneous Immunology and Allergy (2022/8/25) mRNAワクチンのS蛋白が帯状疱疹を誘導する可能性を示唆した論文。患部皮膚にS蛋白が発現した1例を報告したもの。1回目接種から数えて13日後に発症、21日後に2回目接種、23日後に初診、5日間治療したが改善が無く、その後に生検が行われた。3ヶ月にも及ぶ持続性多発性皮膚炎とあるが、生検がどのタイミングか不明なので、当論文からはS蛋白の長期残存は読み取れない。当論文の言及は患部にS蛋白の発現を確認したことまでである。そもそもS蛋白の残存についても、論文にもあるように、免疫組織化学によってのみ示唆されただけで、PCRでmRNAワクチン由来のS蛋白かどうか確認したわけではなく、他臓器にも残存が確認されたわけでもない。1患者の1患部の例だけでは確かなことは言えない。著者も書いているように「可能性を示唆した」というレベルの解釈と思われる。https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cia2.12278
◾️OXFORD (2022/2/15)https://academic.oup.com/cid/article/74/4/715/6279075?login=false 接種後のS蛋白の長期発現で血管臓器障害を起こすという話の根拠にされた論文だが、2回目の接種後における血中のS蛋白は、微量かつ1日以内に除去されると書かれている。以下で正しく解説されている。https://www.deplatformdisease.com/blog/spike-protein-circulating-in-the-vaccinated-what-does-it-mean
◾️APMIS(2023/1/17)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/apm.13294 接種後28日目のHCV患者の血漿からmRNAワクチンと同一の塩基配列が抽出されたことから、「28日後でもワクチンのmRNAが残存」とネットで拡散されたもの。 論文をよく読めば、抽出されたのは「”partial or up to full” 断片または全長」で、期間は「”from one to 28 days“ 1〜28日まで」の全期間であることがわかる。 データの検証が必要であるが、論文の記述からは、1〜28日までに抽出されたのは108人中の10人(9.3%)で、図表で示された10サンプルの内、28日目に抽出されたのは僅か1名で、然も壊れた断片であり、全長が検出されたのは1日目と5日目だけと読み取れる。 また、本論文は最後に「mRNAワクチンが安全で有効であるという結論を何ら変えるものではない」と括っている。
以下は参考資料である。◾️樹状細胞の働き(JB: 日本血液製剤機構)https://www.jbpo.or.jp/med/jb_square/autoimmune/immunology/im08/01.php
CDCがHPの記述を削除した件については以下を参照ください。「CDCが『mRNAとS蛋白は長く残存しない』をHPからこっそり削除した」はミスリードhttps://note.com/osamu_iga/n/n90dfac6d5cac
【追記】 ワクチンの有効性・安全性については自己でご判断ください。当方は、皆さんが正しい情報を基に判断できるよう、デマの指摘に努めます。