メラノサイト
メラノサイト(色素細胞・メラニン細胞)とは
メラノサイトは色素細胞ともメラニン細胞ともいわれたりします。
英語が「melanocytes」で「melano」は「黒い」という意味です。
表皮細胞のおよそ8%はメラノサイトです。(約90%がケラチノサイト、すなわち角化細胞です)
皮膚1㎜2あたり約1000~2000個のメラノサイトが存在し、7~36個の基底細胞に対して1個の割合で存在しています。(アバウトですが、身体の部位によって違うためです。)
表皮のメラノサイトは基底層にやや真皮側にはみ出すように存在しています。 係留線維の発達が悪く、隣接する細胞との間に接着斑(デスモソームやヘミデスモソーム)はみられません。
また、光にさらされる場所に多く、例えば臀部より顔に多く存在しています。
メラノサイト=色素細胞=メラニン細胞
メラノサイトは「色素細胞」とも「メラニン細胞」ともいわれたりします。組織学や化学や生物分野などで著書によって、表現名が違うということはとてもよくあります。混乱のもとだと思えますし、ますますわかりにくく、そして閉鎖的な印象がします。(たとえば「君たちは素人なのだからね!」って言われているような気分になりませんか…)
ただ、メラニンについても次々と新しいことが短い時間でわかったりして、業界全体がスピード感があるのも事実です。
メラノサイトの特徴
メラノサイトはケラチノサイトに比べて明るい細胞質、豊富な小型のミトコンドリア、内腔の狭い疎面小胞体を持っています。細胞内ではゴルジ装置が発達していますが、これはメラニンをつくる主役である酵素「チロシナーゼ」がゴルジ装置を経て合成されるためと思われます。
メラノサイトは、紫外線などの刺激を受けてない時は紡錘状ですが、刺激を受けて活性化するとアメーバのように形を変え、ちょうど木の枝を広げたような形をした樹枝状突起と呼ばれる触手をたくさん持つようになります。その樹状突起は細胞間隙を有棘層の中層まで達しています。
メラノサイトは皮膚(表皮・毛球)、眼(網膜・脈絡膜)、粘膜(口腔・食道・腸管)などに分布しており、顔面などの日光露出部や外陰部などの生理学的な色素沈着部には高密度で存在します。
なお、1個のメラニン細胞は約5~12個の基底細胞にメラニンを供給しています。
メラノサイトの働き
メラノサイトは「メラニン」と呼ぶ色素を産生する細胞です。
メラニンはメラノソームで生成され、メラノソームはメラノサイト内でのみ形成されるものです。
したがって、メラノサイトの活性がメラニン生成を基本的に決定していることになります。
メラノサイトは加齢とともに機能が低下し、数は減少します。
しかし、人種によるメラノサイトの数に差はありません。
人種による皮膚の色の違いは、産生されるメラニンの量の違いが決めています。
脳の神経細胞と色素細胞
メラノサイトは発生学的にケラチノサイトとは異なり、神経堤に由来します。
神経堤からは、種々の神経組織構造の内、脳神経と脊髄神経が発生します。
メラノサイトは胎性2ヶ月の間に真皮に到達し、3ヶ月の初めに表皮に入り込みます。
というわけで、メラノサイトは神経の一種です。
脳で考えて指令を送るというより、末端の神経系で行なわれる反応なのでコントロールはできません。
認知症の人は、脳の神経細胞が少なくなったことで、同じ神経系のメラノサイトも影響を受けます。
脳の神経細胞が壊れると、全身への神経ネットワークもくずれていきます。
メラノサイトの機能低下ということになります。
メラノソームとは?
メラノサイトのメラニン生成はメラノサイト内のメラノソームの中だけで進行します。
このメラノソームはライソゾームなどと同じ脂質二重膜で囲まれた細胞内膜小器官です。
メラニン生成の場であるこの小器官が、順調に形成されて初めてチロシンを出発とするメラニン生成が開始されます。
メラノソームはラクビーボールのような形をしたカプセル状でその中でメラニンがつくられます。
このメラノソームの発達段階を、メラニン沈着の程度によりステージ1~4に分けます。
滑面小胞体から分離されたプリメラノソーム(メラノソームの骨格)に粗面小胞体で生成された銅含有酸化酵素チロシナーゼがゴルジ器官関連小胞体で糖鎖がつけられて成熟し、メラニン合成は開始されます。
チロシナーゼをはじめ、メラニン生成に必要な酵素やタンパクが揃うと、メラニンポリマーの生成が開始され、生成したメラニンはメラノソーム内のタンパクと結合して巨大なメラニンタンパク複合体を形成し、メラノソームの中を埋めていき、肥大します。
stage4まで成熟したメラノソームは長径500~700nm程になります。(光学顕微鏡でも観察できます)
第1期メラノソーム:顆粒はチロシナーゼ以外のタンパク質も含んだ小粒状の基質を持つ。
第2期メラノソーム:メラニン合成が始まる。基質は並列したフィラメントで構成され、このフィラメント上に重合したメラニンが貯留される。
第3期メラノソーム:メラニンは基質に濃縮。
第4期メラノソーム:メラニンで完全に充満した成熟メラニンとなる。チロシキナーゼは失活、基質内部はメラニンで充満。
メラニンの運搬
メラノソームは、成熟に伴い樹枝状突起の先端に移動し、複雑なネットワークを通って周囲のケラチノサイトに配送されます。メラノソームはキネシンを介して微小管に沿って運搬され、メラノサイトの樹状突起の先端へ向かうのです。なお、メラノサイトの先端はアクチンに富んでいます。
その後、どのようにメラニンをケラチノサイトに与えるかというと、メラノサイトの樹状突起の先端がケラチノサイトによって食作用のようなエンドサイトーシスでとりこまれるのです。食した物質はリソソームと融合、その後ダイニンを介してケラチナサイト内の微小管に沿って運搬され、核の近傍へ至り、メラノソームとして放たれるのです。
エンドサイトーシスとは簡単にいうと形質膜が内側へ陥没して膜小胞を形成し、細胞外の物質を細胞内に取り込む働きのことを言います。この場合、ケラチノサイトはメラノソームごと細胞内に取り込みます。
メラノソームの供与をうけたケラチノサイトは、メラノソームを核の上方に集合させ、核帽(メラニンキャップ)を形成して紫外線からDNAを守ります。
ケラチノサイトはメラニンの貯留所として働き、メラニンを合成したメラノサイトよりもかえって多くメラニンを含有しています。
メラニンについて
メラニンとはフェノール類物質が高分子化して色素となったものの総称です。
人の皮膚に存在するメラニンは、チロシンから合成されたさまざまなインドール化合物がポリマーを形成した形態をとっています。
コラーゲンのように、いくつかのアミノ酸からなるポリマーの繰り返し構造ではないので、その明確な構造を示すことは不可能です。
メラニンは、黄赤色または黒褐色の色素です。
人にみられるメラニンは2種類存在し、黒色のユーメラニン(真性メラニン)と、黄色のフェオメラニン(黄色メラニン)です。
ヒトの皮膚や髪に存在するメラニンは、この2種類の複合体であり、その比率により皮膚や毛髪の色に違いが出ます。
- メラニンの働き
- メラニンの最も重要な役割は紫外線防御です。
具体的には紫外線をメラニンが吸収するということ。これにより日光障害や悪性腫瘍の発生を防ぎます。
よって肌の黒い人種であるほど、紫外線による皮膚がんの発生は少なくなります。(紫外線UV、とくに波長の短い中短波のB紫外線UV-Bは、細胞とくにDNAに対する障害作用があるためです)
しかしメラニン細胞自体は紫外線による障害をとくに受けやすい細胞です。
メラニンのその他の機能としては、紫外線による損傷の直後に皮膚で起きるフリーラジカルの中和、金属や薬剤の取り込みなどがあります。
- メラニンの生成経路
- メラニンの生成は、アミノ酸の1つであるチロシンというアミノ酸から出発します。
チロシンを酵素チロシナーゼによって酸化し、ドーパを経て、メラニンを生成します。合成過程では銅含有酵素チロシナーゼが重要な役割を果たします。チロシナーゼは疎面小胞体で合成され、ゴルジ装置で修飾を受けて顆粒内で濃縮されます。 - メラニン生成の引き金
- 紫外線の照射が直接メラノサイトを活性化することに加えて、紫外線照射によりケラチノサイトからサイトカインなどのさまざまな因子が産生され、メラノサイトを活性化することでメラニン合成が亢進されることが分かっています。
メラノサイトは周囲にあるケラチノサイトなどと密接な情報網をつくっており、種々のサイトカイン(生理活性物質)やホルモン、さらにケミカルメディエーター(化学伝達物質)を仲介物とした情報伝達システムによって制御されています。
ここで重要な役割を担う情報伝達物質には、
・サイトカイン…幹細胞増殖因子(SFC)、エンドセリン(ET)、線維芽細胞増殖因子(FGF)
・ケミカルメディエータ…メラノサイト刺激ホルモン(MSH)、副腎刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺ホルモン(エストロゲン)
・炎症メディエーター…プロスタグランジン、ヒスタミン、ロイコトリエン
などがあります。メラニンの合成は内分泌により制御されています。
- メラニンの発達段階
- 紫外線にあたると、メラノソームのそばにいるケラチノサイト(角化細胞)がメラノサイトに情報伝達物質を出します。
その情報をうけたメラノサイトはたくさんのメラニンを作りはじめます。
メラノサイトはこうして酸化、重合を重ねてステージ4まで成熟したメラノソーム(中は黒いメラニンで一杯)を樹枝状突起の先端から周囲のケラチノサイトに受け渡すのです。
メラノソームの供与をうけたケラチノサイトは、メラノソームを核の上方に集合させ、核帽(メラニンキャップ)を形成して紫外線からDNAを守ります。
上記のように基底層で、ケラチノサイトに取り込まれたメラノソームは主として核上部で、核を被うように集積しますが、細胞が表側に向かうとともに、メラニンは細胞質に均等に分布するようになります。ついでライソソームによって分解されます。またターンオーバーによって体外に排出されます。
ケラチノサイト内に取り込まれたメラノソームは、まず外側の脂質膜から消化され、次に巨大なメラニンタンパク複合体が、次第に小さなメラニン顆粒に消化され、角層に至る頃には電子顕微鏡でも確認できなくなります。
アジソン病(Addison disease)
副腎皮質からのコルチゾール低下によって副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に産生され、皮膚の色素沈着が進む疾患。
日焼け
紫外線に対する暴露はメラノソーム内の酵素活性を上昇させ、これによりメラニン産生が増加します。
紫外線暴露によってメラニンの量と濃さが上昇すると、皮膚は日焼けした状態になり、身体を紫外線から保護するのに役に立ちます。また、メラニンは紫外線を吸収して表皮細胞のDNAを損傷から保護し、紫外線による損傷の直後に皮膚で起きるフリーラジカルを中和します。
したがって適度のメラニンは保護機能として働くのです。
DNAの損傷に応答して、メラニン産生は増加しますが、メラニンを含むケラチノサイトが角質層からはがれ落ちると、日焼けの色は消失します。日光照射後に皮膚の色が黒くなりますが、日焼けをして皮膚が黒くなるのは紫外線から皮膚を守るというメラノサイトの働きの結果なのです。
ユーメラニンとフェオメラニン(Eumelanin and Pheomelanin)
メラニンは細菌、真菌、植物、昆虫、魚類、は虫類、ほ乳類に至るまでほぼ全生物にわたり存在します。
メラニンには黒色色素のユウメラニンと赤や黄色のフェオメラニンがあります。
ユウメラニンが多いと肌も毛髪も黒っぽさが濃くなり、フェオメラニンが多いと肌色は白色となり、毛髪は赤毛かゴールドまたはブロンドになります。フェオメラニンは白人に多く含まれているメラニンといわれ、ユウメラニンは黒人に多いとされています。
私たち黄色人種は、フェオメラニンとユウメラニンの混合型になります。
図でわかるとおり、ユウメラニンもフェオメラニンもチロシンからドーパキノンまでは同じ反応プロセスをたどりますが、その後システインというアミノ酸がくっつくことによってフェオメラニンになります。
これはチロシナーゼ活性が高いか、低いかということだと考えられています。
人種による色調の差異
人種による色調の差異は、メラノソームの数と大きさにより決定されます。
メラノサイト自体の分布や密度に人種間の差異は少ないのです。
人に見られるメラニンは黒色のユーメラニンと、黄色のフェオメラニンの2種類です。
先に述べたとおり、人の皮膚や髪に見られるメラニンはこの2種のメラニンの複合体であり、その比率により皮膚や毛髪の色に違いがでます。黄色人種や白色人種ではメラニンは表皮の深層のみに分布するが、黒色人種ではメラニンの顆粒は大きく、表皮全体にわたって存在します。
元々人間の肌はどの色だったのかはわかりませんが、何百万年もの月日を経て紫外線と共存してきたなかで、その防御の必要性に応じて皮膚の色を最適なものにしてきました。
赤道付近は太陽光線から身を守る必要性が、他のどこの地域よりも求められます。この地域に先祖代々から住む人たちのメラノサイトは、メラニン顆粒をより早く合成紙、ケラチノサイトへより多く分配され、蓄積されます。
皮膚の色は産生されるメラニンの量に創刊し、メラノサイトの数は白人でも黒人でも同じです。黒色皮膚は白色皮膚に比して40倍のメラニンを持ちます。
白皮症と尋常性白班(vitiligo)
・白皮症とは先天的にメラニンが産生されない人のことです。
白皮症に罹患した人をアルビノといい、その大部分の人は、チロシナーゼを合成できないメラニン細胞を有しています。
アルビノの毛髪、眼、皮膚では、メラニンが欠如しています。これが視覚障害、および過度の日光暴露により容易に皮膚の熱傷を起こりやすくする原因となってしまいます。皮膚がんのリスクも増加します。
・白班は、皮膚から斑状にメラニン色素が欠如し、不規則な白い斑点を生じる症状を言います。メラニン色素の欠如は免疫系の異常と関係があり、抗体がメラニン細胞を攻撃してしまうものと考えられています。 なお、ケラチノサイトは影響を受けません。
皮膚の色
ヒトの皮膚の色味はメラニン(黒)、ヘモグロビン(赤)、カロチン(黄)の3つの要素です。
皮膚の色の決定に最も重要なのは、メラニンとカロチンを含有するケラチノサイトと真皮の血管分布の密度である、ということです。
ですが、実際にはメラニンの量によってほとんど決定されています。
皮膚の色が濃い人は、表皮に多量のメラニンを持っているため、皮膚は黄色から赤褐色、黒色まで多様な色を呈します。
皮膚の色の薄い人は、表皮にはほとんどメラニンを持っていません。したがって表皮は透き通って見え、真皮の毛細血管を流れる血液の酸素含量に応じてピンク色から赤色を呈します。
赤い色はヘモグロビンによるものです。
黄色~橙色の色素であるカロテンは、卵黄や人参の色調の元になっていることで有名です。これはビタミンAの前駆物質であり、視覚に必要な色素の合成に利用され、食事から過剰に摂取すると角質層、及び真皮や皮下組織の脂肪領域に保存されます。実際にカロテンの多い食べ物を食べ過ぎると大量のカロテンが皮膚に沈着して、皮膚が橙色になってしまうことがあり、皮膚の色が薄い人は特にわかりやすいでしょう。
皮膚と粘膜の色により、ある病態を診断する手がかりが得られます。
呼吸が止まった場合のように、血液が肺から充分な量の酸素を受け取れない場合、粘膜、爪、皮膚は青くなってチアノーゼを呈します。
黄疸は、黄色色素のビルビリンが皮膚に蓄積することによって起こり、皮膚や白目が黄色みを帯びます。通常、これは肝疾患の存在を示しています。
紅斑は、皮膚が赤くなることであり、皮膚の創傷、熱、感染症 炎症あるいはアレルギー反応による真皮の毛細血管が怒脹することによって起こります。
蒼白は皮膚が青白くなることであり、ショックや貧血状態で起こりうる症状です。
皮膚の色
皮膚中の血液量の変化が主因
毛細血管には筋肉はありません。しかしそれより太いすべての血管には自律神経の影響で、血管低平滑筋により、血管を拡張させたり収縮させたりして、生体に悪影響が出ないように調節をしています。
普段はもっぱら体温調節のために血流を調節しているのですが、精神の状態も皮膚の色として現れます。
強い時や緊張した時は青ざめます。顔面蒼白状態です。これは交感神経系が働いて、血管を収縮させるため皮膚の血流量が減るためです。
アルコールの摂取は交感神経系を鈍らせ、副交感神経系を活発にさせるため血管の拡張を引き起こしそのため顔が赤くなります。
怒っている時は交感神経系が活発化されて、蒼白になるはずですが、血圧は上がるので、毛細血管ないの血流量は筋肉がありませんから増加して、怒りで顔が真っ赤になるということでしょうか。
精神的な動揺は、血管は拡張したり収縮したり複雑に変動するようです。
皮膚温と心拍数で見ると、怒りでは、皮膚温心拍数とも上昇、恐怖では心拍数は上昇して皮膚温は低下します。
なぜ色白になりたいの?
人類の起源はアフリカだといわれています。
アフリカは太古の昔でも紫外線の強い地域であったでしょうから、人類の祖先は色が黒かったであろうことは想像に難くありません。
アフリカから北上した人々は、身体に当たる紫外線の量が減るに従って、黒さが減ってきます。
さらに人々が集団で生活し、格差ができると、一日中外で活動しなくても良い上流階級がうまれ、その人たちは日光にさらされることが少ないため、その集団の中でも白い人たちであったことでしょう。
人々が白い肌に憧れるのは、朝から晩まで日光に暴露されるということがない生活への憧れがあるのです。
また、「色の白いは七難隠す」といわれるように、白い肌は女性を美しく見せ、化粧映えも良いため、女性の白い肌への欲求はとどまるところを知りません。
どうしてもいっておきたいのは、メラノサイト(色素細胞)はまるで敵のようにいわれ、嫌われていますが、健康的な肌を維持するために必要だ、ということです。
メラノーマ(malignant melanoma)
メラノサイト由来の浸潤がん。メラノサイトの異常増殖で、基底板に侵入し、真皮に深達し、更に血管やリンパ管へ浸潤するようになると、全身に広く播種されます。メラノサイトの危険な腫瘍で、過剰な紫外線にさらされた、皮膚の色の薄い人種に多く見られます。