「終わったぞ」
「はーい」
ドライヤーの電源を切るとルビーは乾きを確認するためか、それともアピールのためか、頭を軽く振って
金色の髪の毛をかき上げる。ふわりとシャンプーの香りがこちらにまとわりつく。

「綺麗？」「はいはいキレイキレイ」
俺のぞんざいな答えにルビーは頬を膨らませて立ち上がり、キッチンの方に行ってしまった。

下着姿のままでダイニングやリビングをウロウロする様子を見て、思わず苦言を呈す。
「そろそろパジャマ着ろ」
「今はミヤコさんいないからいーじゃん」
「そういう問題じゃ……」
「アクアが興奮しちゃうから？」
「……そういう理由がゼロとは言わないな」
「……」

俺の回答が意外だったのか、ルビーは急に黙りこむ。こちらから視線を逸らす。その頬に朱が差す。
その"照れ"に気分を良くしていると、彼女はやり返そうとばかりにこっちに抱き付いて囁く。
「も……文句あるならアクアがパジャマ着せて」
「自分で着ろよ」
「そういうこと言うんだ？……着せてくれないなら、私がアクアのやつ勝手に着るから」

そう言って、まだ風呂に入っていない自分をからかう。さすがにそれは勘弁してほしいので、両手を挙げる。
「わかったから……」
「わーい」

彼女にパジャマを着せ終わると、小声でぽそっと呟く。
「ありがと」
「どういたしまして」
「……着せてくれたことだけじゃないの」
「？？」

「今までも私と……お揃いのパジャマ……着てくれたから」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことじゃないよ」
「俺は……そこまで服に関心ないから……」
「服は重要だよ！！」
「そ、そうか……」

その圧に押されかけているとルビーは「あ、」と声を漏らし何かに気づいたようだ。

「それはそうと……お兄ちゃんも早くお風呂入りなよ」
「ああ」

俺が風呂から出てパジャマを着て脱衣所から出ると、胸に何かを抱えたルビーが待ち構えていた。

「これ……その……私の知り合いのＴＶクルーから貰ったんだけど。不用品だから」
「……」

彼女が持っていたのは、白衣とメガネだった。
「断る」
「まだ何も言ってない！！」
「……これ着ろって話だろ。それくらい予想つく」

ルビーは"せんせー"のコスプレを俺にさせようとしていた。

……別に、白衣とメガネをつけるのが嫌……ということではなかった。

ここでＯＫすると「自分もさりなの恰好する」と言い出しかねない気がした。
それは何となく「心苦しい」？しかし、そう思ってしまうのは……ある意味さりなの母と同じではないか？

黙り込む俺に、ルビーは説明を求める。
「別に医者の恰好するのが嫌ってわけじゃない。ただ、俺が"前世の姿"を真似たらルビーもそうするんじゃ
　ないかと思って……」

「……なるほどね……なるほど？……別に私が今、天童寺さりなの恰好するってことはないから安心して？」
「そうか……」

彼女は、俺の説明の言外の意味に触れかけているような気がした。それは、もどかしいような……おっかない
ような気分になる。こっちの顔色が変わったせいか、

「今……じゃなくてもいいから」
「……うん」

ルビーに気を遣わせてしまい、どうにもバツの悪い雰囲気になってしまってその後は二人とも特に言葉を発する
ことなく、歯磨きをしたり明日の準備をしたりした。

今日は俺の方が風呂に入ったのが遅かったので、自室に戻ると既に彼女はベッドに横になっていた。
自分も床に就くと、横から小声で囁かれる。

「さっきは……ごめんね」
「いや……謝るほどのことじゃ……」

声のした方に向き直ると、不安げで少しだけ目の潤んだ彼女の顔がある。……参ったな。
「ただ単に……さりなちゃんは……昔の思い出の再現がしたかった……だけだろ？たぶん」
「うん」

彼女をひとまず安心させたかったので、俺は頭をそっと撫でる。
すると瞼が閉じられて、顎を指で触られたネコみたいに気持ちの良さそうな表情に変わる。

「……いきなりだったから驚いた、というのもあるが。『医者であった自分』を突き付けられたような気が
　したんだよ。まあ……良いことも悪いことも……色々あったから」
「……なるほど……」

再び目を開けて、こっちに視線を送るルビー。その目は"まだ何かあるなら、全部話せ"と言わんばかりだった。

「同時に思ったのは……今、ルビーがさりなちゃんの恰好をしたら……それは何となく心苦しい気がした。
　でも、そう思ってしまうのは……ある意味さりなちゃんのお母さんと同じではないか？と……」

「お母さんとせんせーは違う！！」

急に近くで大声を出されたのでビクっとなる。彼女も自分でその声量に驚いた様子。

「えっと、その……お母さんは私に会いに来なくなったけど、せんせーは最期まで一緒にいてくれたから。
お医者さんが患者を診て心苦しく思うことは普通のことだよ。それに罪悪感を覚える必要はないと思う。
ただまあ……どのみち私が今、さりなの恰好をすることもない。別にせんせーが嫌がるとか関係なしに
特にしたいとは思わないっていうか……」
「そうか……」

「せんせーとお母さんは違う……そうだ……。私、前から気づいてるのに……」

いったん落ち着いたはずのルビーが、再び涙目になる。俺は、半ば反射的に彼女を抱き寄せる。
「アクア……またあなたの胸の中で泣いたら……呆れる？」
「もう、なんというか……お互い様だろ」
「うん……」

ルビーは俺のパジャマを掴んで、顔を胸にうずめて涙を流す。

「私……お母さんに見捨てられてたの。本当は……。星野アイと同じように。でも、今までその現実を認める
　のが怖くて……出来なかった。だから、アイの演技もできずに……」

"そんなことはない"と言うのは簡単だが、自分も今の天童寺まりなを見てしまっている以上はヘタな否定は
かえって傷つけると思った。言葉の代わりに、腕に力を込めて抱きしめる。
嗚咽を耳にしながら、次に彼女の口から出てきた言葉は意外だった。

「……でも……実は私もお母さんと同じなのかも」
「どういう意味だ」

ルビーは俺のパジャマで涙を拭った後、こっちを見上げる。

「もしかすると……お母さんを非難する権利なんて、自分にも……。お兄ちゃん……ママのことバラした後、
　裏切られたと思ってアクアのこと見捨ててた気がする。だから――」

――――そんなことを考えていたのか。彼女を安心させたくて、俺は額にかかっている髪をどけてキスをした。
まだルビーの瞳は潤んだままだったが「えへへ」と小さくはにかむ。そんな彼女をじっと見つめて話を続ける。

「さりなちゃんのお母さんと君は……違うと思う。あの時のルビーは俺を嫌ってたし、避けてたし……。でも、
　ある意味"関心の対象"であることに変わりはなかった。……見捨てるのと嫌うのでは意味が違う。見捨てる、
　だとそもそも関心の対象から外してるようなイメージがある」

だから前世の君は確かに見捨てられたのだ、とはさすがに言えなかった。

「ありがとう。慰めてくれて」
「事実を言ったまでだ」
「うん……でも……本当に……そうだと思う。嫌いになっても、どうでもよくなった訳ではないから」

そこまで話して、さっきまでとは打って変わって、ルビーの目には"決意"が宿った……ように見えた。

「最近……お母さんの気持ち……ちょっとだけわかるようになったかも。好きな人が苦しんでいるのを見るのは
　辛いところあるのは本当だから。アクアのトラウマとか……。でも、それでその人に関わるのをやめてはダメ
　なのもわかる。

　だから――――星野ルビーはあなたにこれから先もずっと……関わり続ける。

　辛くなっても、嫌いになったとしても。せんせーが私にそうしてくれたように」


そこまで言い切って、『今の言葉の証明をしたい』と言わんばかりに彼女の方から口づけを貰う。
いったん唇が離れた後ルビーの少し熱気を帯びた表情を見て、俺も行動で『その熱に応じる』。

互いに背中や腰に手を回して抱きしめ合い、しばらく戯れる。

はじめは互いに横向きだったのが、いつの間にかルビーが俺の上に覆いかぶさるように移動している。
そして、口以外にも頬や首筋にもキスを繰り返していた。そのうちに、彼女の太ももが俺の脚の付け根を擦る。

こっちのカラダが"反応"したのに気づいて、ルビーは蠱惑的な笑みを浮かべた。
……少しまずいな。このままエスカレートさせたくはない。今はまだ……。どこかでブレーキをかけたい。
「ところで」
「何？……」
「せんせーって呼ばれるので思い出したんだが」

ルビーも"今夜はもう終わり"というこっちのサインを察したのか、俺の上に乗るのは諦めて仰向けになって
隣に移動する。あんまり"拒否"の度合いを強く感じられても嫌なので、改めてその体勢のまま布団の中で
彼女の手を握る。

「そろそろ……試験近いけど、勉強は大丈夫なのか？」

はぁ……と少し長めの溜息が隣から聞こえた。

「急に現実に引き戻さないで」
「今までも現実だろ」
「それはそうだけど……。別に私は……仕事もあるし3年で卒業することにこだわってはいないというか」
「むしろ俺の方は気にしないけどな。留年するかどうかは」
「……どういう意味？」

思わず、彼女がこちらを向く。

「いや、いざ留年となったら困るのはルビー本人だから。お前、わかってるのか？友達はだいたい卒業して
　俺もいない中で知らない人ばっかの状態で1年過ごすことになるんだぞ？元々ぼっちの俺とは違うだろ？」
「確かに……それは嫌かも」

「だから、そうならないように勉強しろって話」
「つら……」
「辛くても嫌いでも一緒にいるんだろ？」
「ちょっと、そこでさっきのそれ持ち出すのズルくない？なんか台無しなんですけど」

「一緒にいるってことは……俺がお前に勉強教えるってことでもある」

「あ……うん……お願いします……。星野愛久愛海先生」
「フルネームで呼ぶな」
「さっきの仕返し」

俺の怪訝な顔を見て、ふふっと笑みをこぼす。

「でも……少なくとも……今の私……頑張ってるよね？」
「それは否定しない」

一度彼女は握っていた手を解いて、顔の前で両手を合わせる。
「だから、その……勉強頑張ったら……ごほーびちょうだい？」
「……わかった」
「やった！」
「でも、さすがに赤点回避くらいじゃ褒美はあげられんぞ」
「えぇ……」

ルビーのテンションが下がったところで、俺は考えを巡らせる。向こうから提案される褒美を呑む、という
展開にはなんとなくしたくなかった。

「とりあえず、赤点回避なら……さっき言ってたあの白衣……着てやるよ」
「いいの！？」
「まあ、それでルビーが満足できるなら……」

「じゃあ、もっと良かった場合は？」

ルビーが俺と揃いで身につけるもの、なら喜ぶであろうことはさっきの話題でもわかる。しかし何にするか？
今の彼女に任せたらそれこそ「指輪」とか言い出しかねない。さすがにそれは……。指輪を除いても実用性の
ないアクセサリー系はプレゼントするだけならともかく自分もつけるとなると……。それなら……。

「揃いの腕時計……とか」　
「ふーん？…………まあ、今はそれで良しとしましょう」
「何でお前が審査する側なんだよ」
「だって、私がごほーびと思えなきゃそれは報酬として成り立たないでしょ？」
「それは、そうだが」

ひとまずはルビーの"認可"も下りたようなので、ほっとする。
「ところで、もし私に腕時計くれることになったら……それは……お兄ちゃんが選ぶの？」

「サプライズで渡すってのも一瞬考えはしたが……。その時は、一緒に買いに行って選ぼうか。ほら……
　まだ、俺たちまだデートもロクにしてないだろ？」

「うん！！私……頑張る」
「今も頑張ってるけどな」
「頑張る……しんどい……。あ。

　アクアは……もし、私の傍にいるのがしんどくなったとしても……一緒にいてくれる？」

「ああ、もちろん」

そう答えた後、さっきの約束を確かめ合うように、互いの手首を擦り合った。
そして、これからも一緒にいるという誓いを行動で示すかのように、手を握り締める。

【健やかなる時も・病める時も・お揃いで】　おわり

大作ありがとう…これは良いアクルビ

水曜深夜は怪文書！

ルビーの母ネタで一つ書こうと思ったけど、難産でした……
もうちょっとしたら過去作のtxt挙げます

怪文書助かる…

下着姿を見せる程度はもはや普通になってしまったのかルビー....

あーみたいみたい蠱惑的な笑みのルビー

>下着姿を見せる程度はもはや普通になってしまったのかルビー....
家族だからね！！

>朝起こしたり、
うん
>着替えを手伝ったり、
うん....？
>歯を磨いたり……。
ちょっと待てや！！

ムリムリ
ドン引き
背徳感えぐい

いつの間にか上に乗ってキスもOKになってる…
これどんどんハードル下がってないですかね

>いつの間にか上に乗ってキスもOKになってる…
>これどんどんハードル下がってないですかね
アクア「キスはキスだ。それ以上のことはしていない」

>いつの間にか上に乗ってキスもOKになってる…
>これどんどんハードル下がってないですかね
ルビー「何も問題ないですね！」

fu2498276.txt
過去作一覧

ちょっとずつ攻略されてるアクア……いいですね

よく耐えてるなアクア……生殺しもいいとこじゃない？
普通に性欲はあるんだよね？

まだ一緒にお風呂までは行ってないから風呂で一回抜いて賢者モードに....

>あーみたいみたい蠱惑的な笑みのルビー
闇堕ち時はそんな感じがしないでもないような

なんか見たいネタとかあります？
アイディア自体はメモしてるけど、なかなか完成しなくて……

>なんか見たいネタとかあります？
>アイディア自体はメモしてるけど、なかなか完成しなくて……
アクかな....

毎度思うけど文字数すげえな…

>>なんか見たいネタとかあります？
>>アイディア自体はメモしてるけど、なかなか完成しなくて……
>アクかな....
それ以上いけない

>なんか見たいネタとかあります？
>アイディア自体はメモしてるけど、なかなか完成しなくて……
プレゼント買いに行く時にデートする話が見たい…
渋谷デートの約束守って109とか色々見て回って欲しい

>>なんか見たいネタとかあります？
>>アイディア自体はメモしてるけど、なかなか完成しなくて……
>プレゼント買いに行く時にデートする話が見たい…
>渋谷デートの約束守って109とか色々見て回って欲しい
自分があんまり東京に縁がないからなあ……まあ考えときます

今更だけどこの美形兄妹が渋谷歩いたら目立ちすぎるのでは！？

>今更だけどこの美形兄妹が渋谷歩いたら目立ちすぎるのでは！？
私もそう思う

つまり公式元彼女のあかねちゃんなら目立たない

>つまり公式元彼女のあかねちゃんなら目立たない
ひどい

>今更だけどこの美形兄妹が渋谷歩いたら目立ちすぎるのでは！？
がっつり変装しないと絶対バレるよね…そのハラハラドキドキもスパイスになるわけだ

>今更だけどこの美形兄妹が渋谷歩いたら目立ちすぎるのでは！？
目立つのを利用してお兄ちゃんとの中を衆目に見せつけるのか
それとも「なんか落ち着かない」ともっと人の少なそうな場所に行くのか

二人でいたら帽子グラサン程度じゃまったく意味がない

>二人でいたら帽子グラサン程度じゃまったく意味がない
多分オーラで「あれアクアとルビーじゃない…？」って周りざわざわしだしてバレそう

髪型いじってウイッグ被せて…

>二人でいたら帽子グラサン程度じゃまったく意味がない
どうせ帽子グラサンもお揃いなんだろうなあ

>髪型いじってウイッグ被せて…
アクア「その髪型はちょっと……」
ルビー「好きなくせに。有馬かなもＭＥＭちょもこんな感じだったじゃん」

久々に推しの子怪文書見た！
自分は一次創作に忙しくて書けてないからそろそろこっちも書きたいなぁ

完璧なペアルックしてるエモい兄妹発見～～
ってXにあげられてあれ？この2人…ってなるんだ…

>髪型いじってウイッグ被せて…
呼び方も互いに変えて…

>なんか見たいネタとかあります？
沖縄もしくは北海道に旅行に行く話とかかな
舞台を大きく変えた話を見てみたい

話題の双子、目立たない様にするも目立つ

沖縄ならプライベートビーチがみたいわ！
水着を見せてちょうだい

>>髪型いじってウイッグ被せて…
>呼び方も互いに変えて…
周囲の人（なんで「せんせー」と「さりな」って呼び合ってるんだろ……何かの役作り？）

>話題の双子、目立たない様にするも目立つ
あんな感じならそりゃ一目で気付くよ…ってなるわ

俺も何か描きたいけど今のところネタとしてストックは
アクアメルト兄貴の3人でダベるネタくらいなんだよね

>沖縄ならプライベートビーチがみたいわ！
>水着を見せてちょうだい
ルビー「プライベートビーチで二人きりなら水着いらなくない？」
アクア「さすがにそれはやめろ」

忙しくて全然進まなくてすまない…アクルビあか考えるの楽しいんだけど…

旅行ネタはなんか書きたいよなあ、とは思いつつもさらっとした感じで書くのはむずい

>忙しくて全然進まなくてすまない…アクルビあか考えるの楽しいんだけど…
ルビーも演技覚えたので
アイエミュルビーとアイエミュあかねに迫られるアクアとか

旅行ネタはいったことあるとこ以外難しいよな
俺が書くと自然と行先は四国になる

>旅行ネタはいったことあるとこ以外難しいよな
>俺が書くと自然と行先は四国になる
本編と縁のなさそうなところの方が新鮮で面白いかもよ

逆に高校入学当時のアクルビがブラコンシスコンすぎるってネタも面白いかなぁ？