質量とはなんだろう
「質量」の説明は決してやさしくありません!
空港の到着ロビー付近にある手荷物受取所(バゲージクレーム)を例に考えてみましょう。バゲージクレームでは、乗客の荷物がベルトコンベアに乗ってぐるぐると回転しています。
偶然にも、まったく同じ二つの「キャリーバッグ」が出てきたとしましょう。メーカーはもちろん、大きさも色も形もまったく同じで、ネームタグもついておらず、見た目だけでは区別のつけようがありません。
便宜上、一方のバッグを「荷物A」、もう一方を「荷物B」とよぶことにします。外見上はまったく同じ荷物Aと荷物Bを見分けるにはどうすればいいでしょうか?
明確に区別できる方法が、一つだけあります──「重さ」です。いくら外見がまったく同じでも、重さまでまったく同じである確率はきわめて小さく、ほとんどゼロと考えられます。実際に手にもってみて、荷物Aのほうが荷物Bよりも重かったとしましょう。ここで質問です。
どうして荷物Aのほうが荷物Bよりも重いのでしょうか?
決して“愚問”ではありませんよ。物理的に、とても重要なことがひそんでいるのです。
答えは、「荷物Aのほうが荷物Bよりも、“物”がいっぱい詰め込まれているから」(あるいは「荷物Aのほうが荷物Bよりも、“重い物”が詰め込まれているから」)。
荷物Aと荷物Bは、形も体積もまったく同じですが、前者のほうが後者よりも内容物の量が多い。だから、荷物Aのほうが荷物Bよりも重いのです。
なお、重さには関係なく、荷物Aにも荷物Bにもバッグの素材とは別の内容物が入っているとすると、荷物は「物体」です。
そして、この「荷物の量」が、物体としての荷物の「質量」に相当します。
「物質」の場合は?
もう一つ、別の例を紹介しておきます。
こんどは、バッグ(とその中身)のような物体ではなく、純粋な「物質」を考えます。純粋な金属は物質であり、膨大な数の「同じ原子」から構成されています。たとえば、「銅」は膨大な数の「銅原子」だけからできています。
まったく同じ形と体積をもつ、二つの金属を考えます。具体的には、まったく同じ円柱形(シリンダー型)をした、同形・同体積の純粋な鉄と純粋なアルミニウムを考えましょう。両者ともに、円柱の内部に空洞はないものとします(図「まったく同じ形と体積をもつ二つの金属で考える」)。
同形・同体積のこの状態で、鉄とアルミニウムとではどちらが重いでしょうか?
日常的な感覚からもおわかりのように、同形・同体積なら鉄のほうがアルミニウムより重いのですが、それがなぜだか説明できますか?
「質量」のイメージをつかむ
答えは、同じ体積中に、鉄のほうがアルミニウムよりいっぱい“物”が詰まっているから。先ほどのキャリーバッグの例と同様に、この「詰まっている物の量」が「物質の質量」なのです(つまり、鉄原子のほうがアルミニウム原子より質量が大きい)。
誤解のないようにしていただきたいのですが、「物の量」は重さではありません! たとえば「リンゴ五つ」が、「重さ」を表していないのと同じです。
「質量」のイメージが、少しつかめてきたでしょうか。
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