「質量」と「重さ」は同じではないの...?「詰まっている物の量」で考えたら、じつにシンプルだった「納得の意味」
あっと驚く面白さ。誰でも理解できる爽快さ。
アメリカの大学で長く物理学の人気教授として活躍してきた山田克哉さんの「白熱講義」から生まれた、ブルーバックスを代表する人気企画「からくりシリーズ」に最新刊が登場!
「弱すぎる重力」はなぜ、宇宙を支配する力になりえたのか? 万有引力のふしぎを徹底的に解き明かす『重力のからくり』の刊行を記念して、「からくりシリーズ」の読みどころを抜粋してお送りします!
*本記事は、『重力のからくり——相対論と量子論はなぜ「相容れない」のか』の内容から、再編集・再構成してお送りします。
「質量」と「重さ」の違いとは?
「重力とはなにか」「その本質とはどのようなものか」──これらの問いに対して、その答えを探っていくのが『重力のからくり』を執筆した目的です。
「重い力」と書いて重力ですから、「重さ」と「力」がキーワードになることは予想がつきますね。まさしくそのとおりなのですが、それではみなさん、「重さとはなにか」「力とはなにか」と問われて、明快に答えることができますか?
「重さ」も「力」も、あまりに日常になじんだ言葉であるためか、その“物理的な意味”は案外、理解できていないものです。また、「重さ」とよく似た言葉に「質量」がありますが、両者の違いを明確に答えることができるでしょうか?
そこでまずは、「質量」と「重さ」の違いを考えることから話を始めましょう。それは、「重力」の核心に迫っていく準備運動としても役立つはずです。
子ども向けの科学の本では、「質量」という言葉は使われず、「重さ」と表現されています。大人の世界ですら、日常生活において「質量」という言葉を使う機会はほとんどありません。一般向けの物理の啓蒙書でも、質量の代わりに重さが使われているケースがままあるようです。
「質量と重さは同じ」ということなのでしょうか? 「質量」という言葉はどこか抽象的に聞こえ、「重さ」のほうがより具体性を帯びているということなのかもしれません。
グラムやキログラムは「重さの単位」ではない!
「質量」の代わりに「重さ」が使われている最も大きな理由は「単位」にあります。
日本中どこに行っても、ものを量る際の「重さの単位」には「グラム(g)」や「キログラム(kg)」が使われていますね。スーパーなどで食品を買うときにはたいてい、「100gあたりの値段」や「1kgあたりの値段」が示されています。このように、日常に馴染んだ単位が使われていることが、「重さ」に具体性を感じることができるいちばんの理由でしょう。
ところが、グラムやキログラムは、じつは「重さの単位」ではないのです! グラムやキログラムは本来、「質量の単位」なのです。いったいどういうことでしょうか。
まず、「物質」と「物体」は必ずしも同じではない、というところから始めましょう。物体は、さまざまに異なった材料(あるいは材質)から構成されています。
たとえば、鉛筆という物体は、グラファイト(結晶状の炭素)という材質と木から構成されています(ときにはさらに消しゴムが加わることも)。時計も、通常はある一種の金属だけで構成されてはいませんから、やはり物体です。多数の部品からなるスマホやパソコンは言わずもがなです。加えて、物体には、さまざまな「形」や「大きさ」もあります。
一方、「物質」を考える際には、「どんな材料あるいは材質でできているのか」だけが重要であり、形や大きさは問題にしません。そして、「同じ材料」からできているものどうしを「同じ物質」ととらえます。
「同じ物質」を構成する「同じ材料」とは、「同じ分子」や「同じ原子」のことです。たとえば、純粋な金属は「同じ原子」からできているので「物質」です。
そして、物質と物体に共通する性質として、両者はともに「質量」をもっています。それでは、質量とはいったい何なのでしょうか?