ようこそ愉悦至上主義者のいる教室へ   作:凡人なアセロラ

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毎度更新遅くなってしまってすみません!

夜勤、授業、課題とずっと忙しい状態が続いています。感想も返せず申し訳ないです。全ての感想に目を通させてはいただいているので、時間が空き次第返信します。

それと、評価、感想、誤字報告ありがとうございます!


綾小路清隆の親友(3)

 ⋯⋯本当にあったな。

 森の中を歩くこと数十分。オレたちは明らかに手を加えられている開けた場所に出た。どうやスポットの一つらしく、川が近くを流れており、日差しが少ないことから生活する場所としては快適だろう。

 

 恐るべきは士郎の慧眼である。

 まさかフェリーが無人島を一周している時に見ていただけでここまで読んでいたのか。

 流石、オレの親友である。鼻が高いな。

 

 スポットに着いたオレたちは休息をとることになり腰を下ろす。

 士郎は背負っていた井の頭を下ろすと堀北、洋介と共にまたもや作戦会議を始めた。オレたち他のDクラス生徒が参加しても意味が無いことは既に以前までの会議で分かりきっている。

 男子の総意を話すのが洋介、女子の代弁者が士郎、堀北はそれを踏まえた上で意見を纏める調停者、と三者は役割を分担している。

 

 井の頭は未だに頬が赤いな。大丈夫か? 

 背負われている時なんて熱暴走してそうな感じだったが。

 

 数分程で作戦会議が終わり、士郎たちが戻ってくる。

 特にオレたちに話すことは無いらしく、唯一伝えられたのはテントと飲料水、そして衛生面を考えシャワーを購入するということだった。

 先の士郎の説明で、今度は一つも反対意見が挙がらなかった。

 

 そうして、オレたちはここを拠点とすることにし、テントを建てていくのだった。

 

 

 

 3

 

 

 

 士郎がCクラスの女子を連れてきた。

 伊吹と言うらしい。なんでも、龍園というCクラスの支配者とクラスの方針で揉め、追放されたのだとか。頬が赤く腫れ上がっており、明らかに殴られた後だと分かる。

 Dクラスからは男女ともに同情の声がかかり、歓迎していた。

 そんな光景を堀北はいつものような無愛想な顔で眺めている。

 

「⋯⋯Cクラス、スパイではないのかしら」

 

「可能性は高そうだが、スパイなんかを士郎が連れてくるか?」

 

「言峰くんは困ってる人を見逃せない人よ。彼の性格が災いして連れてきてしまった、と考えているわ」

 

 確かにありそうだな。

 士郎は優しいからな。困ってて、傷付いてる伊吹を見て放っておけなかったんだろう。

 

「彼女にDクラスのリーダーが誰かバレないといいけど」

 

「結局、誰がなったんだ?」

 

「口にする気はないわ。たとえ貴方でなくても誰が洩らすか分からないもの」

 

「⋯⋯Dクラスを疑ってるのか?」

 

「完全に信用しきれているわけじゃない。でも、人の口に戸は立てられないでしょう? もし他のクラスの生徒に聞かれればそれだけで終わりなのよ」

 

「確かに、そうだな」

 

 堀北の言うことはもっともだ。

 どこから洩れるか分からない。今回の特別試験においてリーダーがバレるということは最低でもマイナス50ptの損失を受けるのだ。

 用心するに越したことはない。

 

「今日はこのまま須藤くんたちが持ってきてくれた食料で一日過ごすわ。まだ不慣れな環境に適応するべきだもの」

 

「まぁ下手に動いて体力を消耗するよりはマシだな」

 

「ええ、それと明日は朝から私と一緒に他クラスの偵察に協力してもらうわよ綾小路くん」

 

「断らせてもら―――」

 

「あら、貴方言ったわよね、何でもするって」

 

「⋯⋯是非手伝わせていただきます」

 

 オレは逆らえなかった。

 何でもやると言ってしまったせいで堀北の指示に従わなければならない。自分で自分の首を絞めてしまったな。

 折角の親友とのバカンスが⋯⋯堀北め。

 

「―――綾小路くん」

 

「佐藤か。どうかしたのか?」

 

 佐藤がオレのとこまで走り寄ってくる。

 その後、隣に立っていた堀北を一瞥して都合が悪そうに森の中へと視線を向けた。

 

「ちょっといい?」

 

「構わないが」

 

 佐藤に従い、オレは森の中へと付いて行った。

 

 

 

 佐藤と共に森へと入った。

 程なくしてオレたちは立ち止まる。佐藤は少しばかり頬を赤らめていた。モジモジと何かを言いづらそうにしている。

 これはもしや⋯⋯。

 

「あ、綾小路くんってさ」

 

 これは本当にあの、伝説のイベントが―――? 

 

「士郎くんと仲良いんだよね?」

 

「⋯⋯親友だな」

 

 そんなわけなかった。

 僅かな幻想を抱くことも許されなかった。

 これはオレじゃなくて士郎のイベントだな明らかに。親友として誇らしいな。モテまくって青春を謳歌している。

 

 しかし、客観的に見てオレと士郎が仲良く感じるのか。それは、かなり嬉しいな。

 

「じゃあさ、士郎くんのさ」

 

「⋯⋯士郎がどうかしたのか?」

 

「す、好きな女の子のタイプ、とか⋯⋯知ってる?」

 

 モジモジしてたのはこれが原因か。

 このような質問、私は士郎が好きですって告白しているようなものだしな。恥ずかしくて当然か。

 それにしても好きなタイプ、か。

 

 過去に一度、それっぽいことを言ってた気がするが。

 果たして好きなタイプであっているんだろうか。下手に間違った情報を教えて佐藤を混乱させるのも気が引けるな。

 

 どうしたものか⋯⋯。

 

「それを聞いて、後悔しないか?」

 

「え?」

 

「オレは直接聞いたわけじゃないからな。あくまで推測だし、間違ってるかもしれない。聞くのなら参考程度に考えた方がいいだろうな」

 

「⋯⋯いいよ、教えて」

 

 オレの警告に真剣な表情で佐藤は頷いた。

 覚悟は出来ているようだな。聞いて後悔するなよ。

 

「個人的にだが、オレは佐藤だと思ってる」

 

「―――え、えぇ!?」

 

「士郎は皆に分け隔てのない態度をとっているが、それも絶対じゃない。どこかに優先順位というのがあるだろうな。現に、他の男子よりもオレや洋介を優先することが多いように思える」

 

「そ、そうかも⋯⋯」

 

「そこで、女子の中で見てみれば士郎は佐藤と一番距離が近いだろ? どうも佐藤と比べて、ほかの女子とは一歩線を引いている感じがする。ボディタッチの回数、言葉の柔らかさ、たまに見せるちょっとした意地悪。身に覚えはないか?」

 

「あっ」

 

 肩に手を置く、手を掴む、頬に触れる。

 士郎が女子相手に出るボディタッチだ。下心はないように見えるから誰も気にしてない。友人に接する時のような気さくさが表れているのだろう。

 まぁその洋介はしないであろうボディタッチのせいで女子人気が凄まじいことになっている訳だが。

 

 それと士郎は親しい人間相手に意地悪なことをする時がある。

 意地悪と言っても可愛いもので相手を傷つけるようなことじゃない。むしろ、喜ばれるような意地悪が多い。

 例えば、褒め殺しとかがそうだろうな。自分に自信の無い生徒を相手にこれをしているのを見たことがある。まぁ、王と井の頭のことなんだが。

 

 佐藤は思い当たる節があったようだな。

 

「絶対とは言えないけどな。士郎がそれをどう思っているかが分からない。仲が良いから頻度が高いだけであって好きなタイプとは関係ないかもしれないしな」

 

「ううん。ありがとう綾小路くん」

 

「気にするな。オレもお前の恋路を応援している」

 

「も、もう! からかわないでよ!」

 

 顔を真っ赤にした佐藤から逃げるようにオレは森を歩き出した。

 佐藤もため息を吐いた後にオレの後を続くように歩き出す。オレと佐藤が人気のないところで二人きりでいたなんて士郎に知られたら困るな。

 

 それにしても士郎は佐藤を誰かと重ねているような気がする。

 親友であるオレや洋介とは別の扱いをしている。まるで旧知の間柄だったかのような、そんな態度だ。

 高円寺なら何か知ってるかもしれない。後で聞いてみるか。

 

 

 

 4

 

 

 

「シェロの好みかい? それはまた面白いことを聞いてくるねぇ綾小路ボーイ」

 

「お前なら何か知ってそうだったからな」

 

 二日目。

 皆より早く目覚めてしまったオレは川に顔を洗いに来ていたのだが、先客がいた。

 高円寺は誰も居ないのをいいことに上裸で水浴びをしていたようだ。いや高円寺なら人がいても上裸にはなるだろうが。

 

 そこで昨日の疑問をぶつけようと思ったのだが⋯⋯。

 

「残念だが、シェロが語っていないことを私が口に出すのは気が引けるねぇ。私もシェロに嫌われるのはごめんだ」

 

「そうか。⋯⋯それなら仕方ない」

 

「そういうことは本人に聞きたまえよ綾小路ボーイ。⋯⋯まぁシェロは絶対に口を割りそうにないが、そうだねぇヒントぐらいはあげようかな」

 

 ヒント、か。

 銭湯にいた日、高円寺と士郎が交わしていた論争を思い出した。ヒント、それは魚の釣り方ではなく撒き餌の方を言っていると認識していいのだろうか。

 

「シェロについて知りたいのならば、まずは考え方を改めるべきだねぇ。アレは私にすら完全に理解できない理で動いている。何故、シェロがDクラスに選ばれたのか、疑問を疑問のまま放置しておくのは愚か者のやることさ綾小路ボーイ」

 

 それだけ言い切ると高円寺はオレから視線を外した。もう交す言葉はない、って感じだな。これ以上何か言っても無視されるだろう。

 

 しかし、士郎がDクラスなのは疑問だな。茶柱をしてAクラスの完成系と言わしめた並ぶものなしの優等生。平田や櫛田がDクラスなのも納得出来ないが、士郎はそれ以上に不可解だ。

 そこに全てが隠されているのだろうか。

 

 だが、士郎が語らなかったことを詮索するのは親友のやることじゃないな。

 それに特に困ることもないし、むしろDクラスだったおかげでここまで仲良くなれたのだ。

 士郎がいなければオレは今もぼっちで、青春を謳歌することを諦め、心が乾いていたかもしれないな。

 

 学校側に初めて感謝を捧げた瞬間だった。

 

 

 

「よう鈴音。お前も俺たちに加わりに来たのか?」

 

 オレは堀北と共にCクラスの拠点に出向いていた。

 Cクラスは砂辺におり、明らかにptを浪費しているように見える。ざっと見渡す限り、使い切ってしまっているのか? 

 

 キョロキョロと周りを見るオレを他所に、堀北がCクラスの支配者、龍園と対峙していた。

 

「そんなわけないでしょう。それと、気安く名前で呼ばないでくれるかしら?」

 

「くく、なら偵察か? 随分コソコソしたマネするもんだなぁ鈴音」

 

「⋯⋯豪遊する貴方たちに比べればマトモだと思うけれど」

 

「そりゃ言えてるな。だが、俺からすりゃptをケチってるお前らが馬鹿らしく思えるぜ」

 

 喉を鳴らして龍園は笑う。そこに表れたのは嘲笑。明らかに見下している感じだな。

 堀北はそれをものともせず毅然としている。

 

「貴方、もしかしてリーダー当てだけでptを得るつもりなの?」

 

「⋯⋯面白いこと考えるじゃねぇか。流石は石崎たちを翻弄しただけはあるな。だが、俺は既に勝ちを拾ってる」

 

「勝ち? どういうこと?」

 

「そりゃ自分で考えろよ」

 

 明らかに堀北は狼狽していた。

 龍園の言葉の真意に気付けず、既に勝ったという言葉に動揺させられている。

 Cクラスの真の狙いはCPでなくPPの可能性が高い。確証があるわけではないが、そうだと仮定するとpt浪費と辻褄が合う。

 が、わざわざ堀北に教えてやる必要は無いな。龍園が言ったように自分で考えなければ意味が無い。

 

「そういや、エセ神父はどうした?」

 

「エセ神父? 言峰くんのことかしら」

 

「ああ、ウチの椎名と仲が良いみたいだからな。交友関係の高さは認めるが、それ以外は所詮ただの優等生だ。何かしら動いてくるとは思ってたが⋯⋯やはり買い被り過ぎだったか?」

 

「言峰くんの総評はAクラスの完成系よ。私たちが目指すべき姿が彼。貴方に貶される立場じゃない」

 

「だが、結局Dクラスを率いることもできてねぇだろ? カリスマ性はあるがな」

 

「彼は貴方のようにDクラスを駒扱いしない」

 

「だからDクラスなんだよてめぇらは」

 

 堀北は俯いた。

 何も言い返せなかったが故の悔しさ。こんな男がCクラスだと言う屈辱感。もう吹っ切れたと思っていたが、やはりDクラスという評価がトラウマのような形で脳裏に焼き付いてしまっているのだろう。

 

 しかし、龍園の言葉には誤りがある。

 士郎はDクラスを率いることが出来た。やろうと思えば簡単に実行出来ただろう。だが、士郎は堀北がAクラスを目指していると知り、その成長を促すことにしているのだ。

 あの日、教会で交わした問答をオレは覚えている。士郎は堀北を成長させるために、リーダーから身を引いたのだ。後は、Dクラスそのものの成長も含まれているかもな。

 士郎が一人でやってしまえば、Dクラスは不良品のままAクラスに上がってしまう。地獄の始まりだな。

 

「帰るわよ綾小路くん」

 

「⋯⋯ああ」

 

「もうお帰りか? 尻尾巻いて帰るくらいなら少しは遊んでいけよ」

 

 まるで敵とすら思われていないような発言。

 堀北は龍園に振り返ることなく早足で去っていく。

 

 オレも慌ててついていくが、その際、ビーチパラソルの下で寛いでいた椎名と目が合った。手を小さく振ってくれたのでオレも手を振り返す。

 

 友人って素晴らしいな。

 

 堀北は士郎に憧れを抱いている。

 自分が目指すべき相手であり、それでいて自分の意見を尊重し、自分の成長の為に力を貸してくれる存在。

 堀北鈴音にとって、それが言峰士郎だったのだ。

 

 その憧憬はかなり強いもので、堀北が兄である堀北学を見る目に近い。

 それ故に、士郎の否定は自分の憧れの否定、目指すべき未来の否定にあたる。今回は龍園がそれを踏み抜いた。

 

 あの日、教会で交わされた問答。

 堀北にとって相当ショックだったはずだ。茶柱の話を聞いて、その時点で士郎へと憧れに近いものを抱いていたのだろう。だからこそ、今の自分を否定された時に酷く傷ついた。在るべき姿が、自分が辿ってきた道を壊したのだ。

 でも、彼女は折れなかった。Dクラスで最も成長したのは堀北だ。その成長の根底にあるのは士郎から認めてもらいたいという気持ち。折れなかったのは新たな目標を作ったため。

 

 堀北鈴音にとって、言峰士郎は誰よりも優れていて、誰よりも認めてもらいたい相手だった。

 

 だから、須藤の事件で士郎に意見を尊重され、仲間だと認めて貰えたのは嬉しかっただろう。俯いていたが、オレは彼女の頬が綻んでいたのを知っている。

 でも、統率者として、リーダーとして認められたわけじゃない。それを堀北は知っている。

 

 今回の特別試験は堀北にとって士郎にリーダーとして認めてもらうチャンスなのだ。

 だから積極的に自分が意見を出し、Dクラスを必死に引っ張ろうとしている。クラスメイトにも好意的に接するように心掛けている。

 

 ―――堀北はAクラスを目指すことより、士郎に認められるのを優先している。

 

 目的の履き違え。

 憧れへの強い渇望。

 

 勝利を捨てた堀北では士郎には認めて貰えない。

 士郎が言っていたのは、みんなを率いて、その上で勝利を齎すことの出来る統率者だ。

 皆が望んでついてくるような、そんなリーダーを目指さなければ士郎にはいつまで経っても認めて貰えない。

 

 どうしたものか⋯⋯。

 

 堀北の背を追いかけながら、オレは思案する。

 このままでは堀北の成長に繋がらない。だからといってオレが口出しするのも士郎の邪魔になるかもしれない。

 

 まぁまだ試験終了まで時間はある。

 士郎に直接どうするべきか聞いてみるか。

 

 オレと堀北は一度拠点に戻った。

 簡易的な地図を起こし、スポットについて話し合っていた士郎と洋介が歓待してくれる。

 

「お帰り、堀北さん、清隆!」

 

「よくやってくれたな。疲れたのであれば少し休んでおくといい。これから昼になればもっと動かなければならなくなる」

 

「⋯⋯大丈夫よ」

 

「オレも大丈夫だ」

 

 堀北の様子がおかしい。

 何かを言い出そうとして、俯いてを繰り返している。まさか、堀北お前―――、

 

「ねぇ言峰くん」

 

「どうしたんだ堀北」

 

「―――私は、まだ間違ったままなのかしら?」

 

 

 

 

 

 




次回、堀北パートを挟みます。

今回のメインキャラは堀北です。愉悦関係なしに。
愉悦対象は秘密です。

坂柳についてなんですが、前話で語ったことは本心です。何の目的であのような言動をしたのかはまだ先になります。

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