四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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原作が終わり、この作品の結末が定まった所で投稿再開。
まだまだ最終回は先になりそうですが…(笑)


四宮総司の奉心祭7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千花と文化祭を回っている途中、突如現れたかぐやに手を引かれ総司は歩く。

 

 聞きたい事はたくさんあった。いきなりどうした、白銀はどうした、なんでそんなに悲しそうなんだ。

 湧いてくる疑問を呑み込み、総司はただ黙ってかぐやに手を引かれていた。

 

 そのまま辿り着いたのは、学園の最上階、屋上の入り口の前だった。総司よりも前にかぐやが呼んでいたのだろう、すでにそこには早坂が立っていた。

 

 その場に三人が集まり、かぐやが語り始めたのはすぐだった。

 

 かぐやに連れられる途中、何か白銀との文化祭デート中に何かされたのか、と総司は考えたりもした。結果的にそれは強ち外れでもなかったのだが─────明確に総司の予想とは外れた答えを聞かされる。

 

「会長が留学…ですか」

 

「それもスタンフォード。…すげぇな、あいつ」

 

 かぐやの口から語られたのは、来年、白銀が飛び級でスタンフォード大学へ留学するというものだった。

 

 海外の大学は日本とは違い、十月に入学が行われる。そして、秀知院学園は三年になると自由登校が始まり、すでに大学合格が決まっている白銀にとっては一年近く無駄な期間が出来る事となる。

 それを考えれば、飛び級するのは合理的な判断といっていい。生徒会長の任期を終えて、そのままアメリカへ移るという流れが出来上がるのだから。

 

 しかし、白銀が留学するとなると黙っていられない人物が一人いる筈だ。その人物は今の所、そんな素振りは微塵も見せていないのだが─────。

 

「いいんですか?試しに行かないでって頼んでみます?」

 

「馬鹿言わないで!スタンフォードは私でも入るのが厳しい…総司だって合格できるか分からない大学なのよ?誰が何と言おうと行くべきでしょう」

 

 その人物─────かぐやは、白銀の留学に賛成らしい。すぐさまあの手この手で妨害して、白銀を日本に留まらせようとすると、総司は思っていた。

 

「勿論、複雑よ…。だって、この私と過ごす高校生活よりもそっちを優先するんだもの。でも、これは凄い事なのよ?笑顔で送り出すのが筋でしょう」

 

「…」

 

「総司?その笑顔は何?」

 

「いや。成長したなって思って」

 

「何ですかそれは…。とにかく、会長の人生が懸かっているんですから。邪魔をするつもりはありません」

 

 去年までのかぐやなら、目的のためならばどんな手でも厭わないあの時のかぐやなら、白銀の留学を妨害していたかもしれない。

 そんなかぐやの成長を兄として嬉しく思う反面で、それでも総司はかぐやへの同情の念を感じずにはいられなかった。

 

「…まあ、お前がそう決めたのなら俺は何も言わん。ただ─────」

 

 かぐやが決めた事に、何かを言うつもりはない。

 

 ただ、兄として、妹の背中を押すだけはしてやりたい。

 

「今からでも遅くないぞ、かぐや。何しろ、白銀はアメリカに行くまではまだ、十か月あるんだからな」

 

「総司…」

 

「かぐや。白銀がアメリカに行くその時に、後悔しないための行動を考えろ。お前が思い描く何かを実現させたいなら─────」

 

「分かってるわよ。総司が…早坂だってそう。貴方達が言いたい事は想像つくわ!」

 

 総司が言おうとした言葉を遮って、かぐやが宣言する。

 

「今日、会長に好きだって言う!告白すればいいんでしょう!」

 

 そんなかぐやの力強い宣言を聞いた総司と早坂は─────

 

((長かった…))

 

「総司…?早坂…!?何を泣いてるの!?」

 

 これまでの苦労を思い出しながら、ここまで辿り着いた事への感動を覚え涙した。

 

「でも…告白なんてどうしたら…」

 

「お任せください。すでに完璧かつウルトラロマンティックな告白方法を─────」

 

「待て、早坂」

 

 しかし、ずっと相手に告白させる事を考え続け、自分が告白する事なんて考えるどころか想像すらもしてこなかったかぐやが、いきなり告白なんて難しいだろう。

 案の定かぐやは困り、そして早坂がそれに手を貸そうとする。

 

 そして総司は、そんな早坂を制した。

 

「総司様?」

 

「かぐや。お前が考えろ」

 

 総司の言葉を聞き、かぐやは目を見開く。

 

「俺も早坂も今回は手を貸さない。お前が一人で考えて、行動しろ」

 

「総司様、それは…」

 

「かぐや。お前は白銀のどんな所を好きになった?白銀とどんな未来を過ごしたい?」

 

「会長の好きな所…。会長と過ごしたい未来…」

 

「お前の気持ちを素直にぶつければいい。…俺は、それでいいと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かぐやはキャンプファイヤーの点火の時間が迫っていた事もあり、この場から去っていた。

 

 一体、どんな答えを導き出すのか。…それを楽しみにしつつ、妹を見送った総司もまた、早坂と一緒に戻ろうとして─────

 

「それで。一人で考えろとか言いながら、結局アドバイスをしちゃう優しいお兄様は、また藤原さんの所へ行くんですか?」

 

 冷えた声を背に受けて、立ち止まった。

 

「…早坂、何を怒ってるんだ?」

 

「怒ってませんよ。ただ、これからまた、藤原さんの所に行くのか聞いてるだけですが?」

 

 怒ってる。何か知らないけど、早坂が怒ってる。

 

 何故かさっぱり分からない。かぐやに手を貸そうとしたのを止めたからか。

 総司は思い出す。先程チラッと、早坂がどこからか取り出した、()()()()()()()()と書かれた冊子を見たのを思い出す。

 

(そんなに自信あったプランだったのか…?)

 

 もしや、その計画を披露する機会を潰されたのを怒っているんだろうか、なんて()()()()な事を考える総司。

 

「まあ…。今日一日は一緒にいる約束だからな」

 

「回りくどい言い方で誤魔化そうとしても無駄ですよ。戻るつもりなんですね」

 

「…なぁ。何でそんな刺々しいの?俺、何かした?」

 

 総司は分からない。

 何をしたのか分からないから、早坂の態度が刺々しいのだと。

 

 しかし、早坂も総司にはどうしたって分かってもらえない事は見抜いていた。

 そして、総司の行動を咎める権利は自分にはないという事も、分かっていた。

 

 分かっていても止められなかった。何故なら、早坂愛は、四宮総司の事が─────

 

「…申し訳ありません。かぐや様のために考えていた告白計画の邪魔をされて、少しイライラしてました」

 

「やっぱりか。あの㊙バッチリプランとかいう奴だろ」

 

 早坂は自分の気持ちを押し殺し、咄嗟に嘘を吐く。

 

「胡散臭いネーミングだけど、自信あったのか?」

 

「勿論です。あれを実行に移していれば、間違いなく告白は成功していました。それを総司様は…」

 

「それでも、これはかぐやが一人で臨むべき事だ」

 

 大抵、早坂が機嫌を悪くしている時は総司が折れたり妥協したり、弱い立場にいる事が多かった。

 だが今は違う。早坂が何を言おうと、総司は自身の考えを変えようとしなかった。

 

「かぐやの言葉で、行動で、白銀にぶつかっていくべきだろ。…そうは思わないか?」

 

「…そうかもしれませんね」

 

 早坂も、総司の考えに同意する。

 総司がどういう意図を以て言っているのか、早坂には読み取る事が出来ない。

 

 あぁでも、そうだ。世のカップル達は、誰もが同じ試練を乗り越えてきたのだ。

 不安、緊張、羞恥、全ての気持ちを振り切って、自分の気持ちを自分の言葉で伝えて、想いを通じ合う。

 かぐやと白銀は自分達の気持ちを隠し続けてきた。隠し続けて、相手の気持ちを曝け出そうと、時に他人をも利用して画策をし続けた。

 

 それならば、想いを伝え合う時くらいは、自分の力で行うべきじゃないだろうか。

 

「…戻ろう。もうすぐキャンプファイヤーだ」

 

「そうですね。…私は一人寂しく見ますけど、総司様は藤原さんと二人で、楽しんで、キャンプファイヤーを見やがってください」

 

「ねぇお前ホント何でそんなに怒ってるの?ねぇ?」

 

 総司よりも先に早坂が歩き出し、そのまま階段を降りていく。

 

 問い掛けには一切答えない早坂を追い掛ける形で、総司もまた階段を降りる。

 

(かぐやが告白、か)

 

 その頭の中で、一人の親友の顔を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜がすっかり更け、暗闇に包まれたグラウンドに生徒達が一斉に集まる。

 グラウンドの中心には、丸太で組み上げられた井桁が、そしてその中にはキャンプファイヤーの火種が詰められている。

 

 弓道部員の中から選ばれたかぐやが火矢を放ち、点火をしてキャンプファイヤーが始まる。これが、奉心祭の最後のプログラムである。

 

「かぐやさん、凄い集中力ですねぇ…」

 

「あー、そうだな」

 

 かぐや、早坂と別れた総司はその後すぐに千花と合流。その後、こうしてキャンプファイヤーを二人で見に来たという訳なのだが─────番えた矢先に火が点り、鋭い視線で的─────火種を見据えるかぐやを見て、千花が一言。

 それに言葉だけ同意しながら、内心失敗しないだろうかとちょっぴり心配だったりする総司。

 

 あの後、かぐやはどうしたのだろうと気にはしていたのだが─────こうして矢を番えるかぐやを見て総司はすぐに見抜く。

 まだ、かぐやは告白をするに至っていない。怖気づいたのか、それともただ白銀と会えなかったのか、理由は定かではないが。

 

 とにかく、告白について頭が一杯で火矢を外す─────なんて事もあり得そうで、ハラハラしてしまう。

 

 結論から言えば、そんな心配は全くの杞憂だったのだが。

 

 火矢は見事に命中し、火種に点火。盛大に燃え上がったキャンプファイヤーに、生徒達は盛り上がりを見せる。

 

(さて、と…。火矢は成功した事だし、かぐやの事は一旦忘れて─────)

 

 千花とキャンプファイヤーを楽しもう、と考えた、その時だった。

 

 頭上から一枚の紙が降ってくる。咄嗟に反応した総司は、手を伸ばしてその紙を掴み取る。

 

「総司君?…それって」

 

「…」

 

 【()()()()()()()A()r()s()e()n()e()

 

 今日の朝、学園のハートを全て盗まれるという事件が起こった。その時にもハートを頂くという犯行声明が残されており、そこにもA()r()s()e()n()e()の名前は書かれていたという。

 

 そして今、新たな犯行声明が、それも総司の手にある一枚だけでなく、無数の犯行声明がグラウンド中にばら撒かれていた。

 

「…この怪盗さんは一体、何がしたいんですかね?」

 

「さあ、な」

 

 思いの外、犯行声明に対する反応が薄い千花に少し驚きつつ、朝もそうだった事と、その理由を思い出して内心湧き上がる羞恥の気持ちを抑えながら、()()()()が使われた犯行声明を見つめる総司。

 

(一体どういうつもりなんだ、このArseneとかいう輩は。傍迷惑な…。キャンプファイヤーに配慮して、()()()()なんて使いやがっ…て──────)

 

 待て。

 

 今、自分は何を考えた?

 

()()()()()()()()()()()()()()…?)

 

 それだけじゃない。犯行声明に書かれた、怪盗の名前、A()r()s()e()n()e()。これは、日本語で訳すと()()()()、となる。

 

「…ハッ、ハハハッ!」

 

「総司くん?」

 

 何だ。考えてみれば、何て下らない謎…いや、()()()()()()

 

 もうとっくに、犯人は()()()()()()()のだ。

 

 たった一人の、どこかの誰かさんに向けて。

 

(さて、と。その誰かさんは…?)

 

 総司は視線を動かし、犯行声明をじっと見つめる誰かさんを見る。

 

 どうやらその誰かさんもまた、総司と同じ結論に至ったらしい。

 小さく笑みを零してから紙をしまい、そのままどこかへと歩き去っていく。

 

「かぐやさん?…どこに行くんでしょう?」

 

「着替えに行くんだろ。いつまでも袴姿じゃ寒いだろ」

 

 校舎の方へと歩き出すかぐやの姿を見て、千花が首を傾げる。

 追い掛けようとはしなかったが、念のために誤魔化しを入れておく。

 

 勿論、制服に着替えに更衣室にも寄るだろう。だが、()()()()()()には、誰の邪魔も入れてはならない。

 そう─────例えば、カメラを持ってかぐやを追うマスメディア部にも。

 

「総司くん、どうかしましたか?」

 

「いや、ちょっとキャンプファイヤーを撮ろうと思って」

 

「あー、そうですね。私も撮ろうっと!」

 

 総司はスマホを取り出し、瞬時にメッセージアプリを起動。そして赤木に向けて、メッセージを送る。

 

 ─────()()()()()()()()()()()

 

 メッセージを送った後はすぐにアプリを落とし、千花に言ったようにキャンプファイヤーを撮るべくカメラを起動。

 その間、約十五秒。とんでもない早業である。

 

 後の対処は全て赤木に任せ、気持ちを切り替え総司はキャンプファイヤーを楽しむ事にする。

 

 この先は正真正銘、かぐやの戦いだ。誰の手も借りられない、干渉もできない、好き合う男女の聖戦。

 ただそれは、総司にとっては何ら関係のないもの。だから、総司はそんな事など今は忘れ、ただ目の前のものを楽しむだけなのだ。

 

「綺麗ですね、総司くん」

 

「そうだな。キャンプファイヤーの為に奔走した伊井野に感謝だな」

 

「…違います、総司くん。そこは、それよりも千花の方が綺麗だよ、って言う所です」

 

「…それさ、言ってて恥ずかしくないか?」

 

「それを言わないでください!恥ずかしいですから!」

 

 恥ずかしいんかい、と一言ツッコミを入れると、千花は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまう。

 

 こういう仕草を意図なく天然で行ってしまう所も、藤原千花という女の子がモテる理由の一つなのだろう。

 

「…総司くん?」

 

 そんな、学園でも指折りの美少女が、男子生徒が涎を垂らす程に魅力にあふれた女の子が、ゆっくりと再び顔をこちらに向けて、潤んだ瞳で見上げてくる。

 

「本当は少し時間を置いてから改めて…って思ってたんですけど…。やっぱり、今すぐに聞きたいんです」

 

 いつでも元気溌剌で、底抜けに明るい千花が、緊張と不安で声を震わせながら発したその言葉を聞き、総司は思う。

 

 出来る事ならば、その言葉は()()()()()()()()、と。

 

「告白の返事を、してもらえますか?」

 

 体を総司へ向け、真っ直ぐに総司の顔を見上げて、千花は勇気を振り絞って告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マスメディア部の二人がどうなったのかは…ご想像にお任せします。

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