暑い
忙しい
疲れた
以上、更新が空いた理由ですごめんなさい。
そして久しぶりの投稿なのに話が全然進んでないですごめんなさい。
「いよいよ明日は文化祭ね」
「うん」
「総司のクラスは科学実験を出し物としたのよね?」
「うん」
「私も時間が空いたら見に行こうかしら」
「うん」
「総司、聞いてるの?」
「うん」
「…」
「うん」
「何も言ってないわよ」
四宮別邸の食堂にて、いつもの二人だけの夕食を摂っていた総司とかぐや。
今日が文化祭前日という事もあるからか、いつもより饒舌に喋るかぐや。しかしそれに対し、総司はただかぐやの話す言葉に空返事をするのみ。
それどころかかぐやが何も言ってないにも関わらず返事をする始末。
「総司、あなた本当に最近おかしいわよ。何度も聞くけど何かあったの?」
「うん」
「そう。なら、何があったのかしら」
「うん」
「…総司、私は何があったのか聞いてるのだけれど」
「うん」
「…」
「う、いってぇっ!?」
元々我慢強くないかぐやにしてはよくここまで我慢できたと誉めるべきだろう。だがここでかぐやの限界は訪れた。
テーブルを挟んで対面して座る総司とかぐやの丁度中心、万が一床に落としてしまった場合に備えて置いてある予備のスプーンを手に取ったかぐやは、総司目掛けて投じた。
かぐやの手から放たれたスプーンは総司の額にクリーンヒット。今日、かぐやは初めて総司の口からうん、と挨拶以外の言葉が聞く事が出来た。
「何すんだ!?」
「目は覚めた?」
「は?…あぁ、またか」
この会話から読み取れる通り、総司が上の空になるのはこれが初めてではない。ここ最近は毎日、暇さえあればそんな状態になる。
しかし仕事の方は何の問題もなく片付けられているのは公私がしっかりしていると言うべきか、それとも総司が抱えているであろう悩みがそう大したものではないと判断すべきか。
いや、そんな筈はない、とかぐやはすぐに断ずる。何しろ総司がここまで何かに引きずられている所をかぐやは初めて見る。総司をこうさせた何かは、総司にとってとても大きなものであるに違いない。
「総司」
「聞いても無駄だぞ」
「…」
総司の悩みを解消するのに少しでも協力したいと思うかぐやなのだが、当の本人がこの調子である。協力どころか、詳細を知る事すら出来ない。
「…おかしいといえば、最近藤原さんの様子もおかしいのよね」
「…」
ビンゴ。
ほんの僅かではあるが、総司の眉間が震えたのをかぐやは見逃さなかった。どうやら総司がこうなった理由は千花が関係しているようだ。そして、千花の様子がおかしくなった理由は総司が関係している。
「貴方のように上の空という訳ではないのだけれど、最近元気がないの。総司は何か知らない?」
「…いや、特には」
「本当に?」
「しつこいぞ」
「しつこくなるわよ。藤原さんと何かあったのでしょう?そのくらい解るわよ。あまり私を舐めないでちょうだい」
総司が視線をそらす。
「大事な家族と大事な友達が仲違いしているのなら何とかしたい。そう思うのは当然でしょう?」
「…地球の癌とか言ってたくせに」
「覚えてないわそんな昔の事」
「覚えてんじゃねぇか昔の事って」
そう昔の事ではないが。もっと言えばほんの数ヶ月前の事だが。
すると不意に総司が立ち上がる。まだだいぶ料理は残っているが、そのまま総司はテーブルから離れて出入り口へと向かう。
「総司」
「食欲ない。部屋に戻るわ」
かぐやの呼び掛けは無視して、最後に二言言い残してから総司は食堂を出ていった。
我が兄ながら何と頑固な事か、とかぐやは自身を棚にあげてため息を吐いた。
「全く…」
何があったのかは解らないが、恐らく総司が悪いのだろう。かぐやはそう確信していた。
何故ならかぐやと総司は今まで出会ってきた誰よりも共にした時間が長く、そして二人はどうしようもなく似ているのだから。
昔々ある所に、病で今にも死んじゃいそうな姫がいた。彼女の父親である殿が姫の病が治るよう祈ると、天からお告げが来た。若者の心臓を火に燃べ、その灰を蘿蔔の汁に溶いて飲ませよと。
その噂はたちまち広がりある日、姫を愛する一人の若者が殿に申し出た。自分の心臓を使ってほしい、と。若者が捧げた心臓をお告げ通りに火に燃べ、蘿蔔の汁に溶き、姫に飲ませると、姫の病はあっという間に治ったという。
そんな昔話の舞台が実は秀知院学園高等部の校舎が建っている場所だという。そうした話に倣い、高等部の文化祭は《奉心祭》と呼ばれている。
(怖いわ。心臓の灰を溶かした汁とかやべぇだろ)
学園の生徒の殆どが知っている昔話を思い出しながら、総司はただただ恐怖を覚える。
若者の姫への一途な愛がロマンチックだというのがこの昔話への大方の感想なのだが、総司は違う。怖い、これが総司の昔話への感想である。
いや、普通に怖い。確かに愛する姫のために命を捧げた若者はかっこいいと思うが、そのかっこいい若者の心臓を火に燃べて汁に溶かして飲むって。普通に怖い。えぐい。(個人の感想です)
(…思ってたより人多いな)
さて、そんな事を考えている総司がどこにいるかというと、勿論というべきか、学園である。
時刻は朝の五時半。普通に考えてかなり早い時間帯だが、校舎にはすでに最終準備のために集まった生徒が大勢来ていた。
そんな中、総司はかぐやと並んで廊下を歩いているのだが、どうも家から車に乗った辺りからかぐやの様子がおかしい。
初めは昨日の会話で機嫌を損ねたかと思ったのだがどうもそうではないらしい。かぐやは、
(そういや、早坂が何か言ってた気がするけど…何だっけ?)
ここでふと思い出す早坂との会話。といっても、会話の内容は全くといっていいほど覚えていないのだが、かぐやが何かを自覚したみたいな事を言っていた気がする。
(自覚…自覚?何を?)
突如涙を浮かべたかと思えば頭を抱え、かと思えば不貞腐れた様に頬を膨らませるかぐやの情緒不安定っぷりを眺めながら早坂が何と言っていたかを思い出そうとする。
しかし靄がかかった様に思い出す事が出来ない。それも当然だろう。何故なら、総司はその時上の空で早坂の話を右から左へ聞き流していたのだから。
何か悩んでいるのなら相談に乗りたい所ではあるのだが、総司自身かぐやから差し伸べられた手を振り払ったばかりである。そんな自分がかぐやに相談に乗るなんて言えるはずもなく、結局触れず仕舞いで終わってしまった。
かぐやは一体何について悩んでいるのだろうか。まあ、ここ最近の傾向から考えれば白銀をどうやってコクらせようか悩んでいるのが一番しっくり来るのだが。
(…ん?白銀?…自覚?…)
ただの偶然、何の切っ掛けも前触れもなく、総司の中で一本の線が繋がった。
早坂が言っていたかぐやが自覚したという台詞と、今かぐやが悩んでいるであろう白銀との事。
まさか、かぐやが自覚したのは──────
「おーい、四宮ー」
二人の前方から男子生徒が呼ぶ声がした。総司とかぐやはそれぞれ思考の渦から我に返り、顔を上げてその男子生徒の方を見る。
「あ、いや…。す、すいません、えっと…、兄の方です…」
「あぁ、そうですか。…それじゃあ総司、私はここで」
「ん。かぐやのクラスの出し物、楽しみにしてる」
「私こそ、時間が空いたら貴方のクラスを覗きに行きますね」
男子生徒が呼んでいたのはかぐやではなく総司の方。よく見たらその生徒は総司のクラスメイトだったため、かぐやを呼ぶ方が不自然といえるが。
「それで、何か用か?」
「え?いや、別に。ただの挨拶だけど」
「…あぁ、そう」
総司を呼んだ男子と並んで教室へと向かう。途中、自分を呼んだ理由を問い掛けたが、何の用事もないという。
戸惑いながら男子の顔から前へと視線を戻す。
最近、周囲の総司に対する態度が変わった気がする。正確にいえば、文化祭の出し物について意見を出した日から。あの日まではクラスメイトですら総司に話しかける生徒は殆どいなかった。生徒会メンバーが数少ない例外だった。
しかしあの日から、クラスメイトが少しずつ総司に話しかけるようになった。特に、出し物のタイトルが決まってからは総司と話す態度が明らかに砕け始めたのが手に取るように解った。
こうしてクラスメイトと挨拶を交わす。それだけの事でさえ、今の総司には新鮮に思える。
ずっとあのままで良いと、一人のままで良いと考えていた過去の自分が今の自分を見たらどう思うだろう。
堕落したと考えるだろうか。自分も、と羨むだろうか。
「──────」
前方から女子の集団が歩いてくる。その中の一人と、総司は視線が合った。
交わった視線はすぐに解かれる。どちらともなく、互いに視線を外して、二人は何も語る事なくすれ違う。
「千花ちゃん、どうかした?」
「え?別に何でもないですよ?」
背後からすれ違った女子の集団の話し声が聞こえてくる。
総司は振り返る事なく、男子生徒とクラスの出し物について話しながら教室へと入っていくのだった。
皆さん最新刊読みました?勿論読みましたよね?
いやぁ、良くない価値観に染まり始めた圭ちゃん。次々湧いてくるスパチャにあたふたする圭ちゃん。
可愛い(ゲス顔)