四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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恋路が突然、それも自分が知らない間に進展してる事ってあるよね


四宮総司は気付かされる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『姉貴が失恋してた』

 

「あ、それもう知ってる」

 

『そうか。…はぁ!?』

 

 帝から通話が掛かってきたのは総司とかぐやが夕飯を食べ終え、それぞれの部屋に戻ってすぐの事だった。

 部屋に入ってすぐ、スマホの着信音が鳴り、画面には四条帝の三文字。仕事も今日はかぐやの事もあり、一度ストップさせている。その分、雁庵が地獄を見ているのは総司には知った事ではない。親不孝者と言われても関係ない。

 まあかぐやの問題も解決し、明日からは普通の仕事スケジュールに戻る。今日はゆっくりグータラしていようと思っていた所での帝からの着信だった。

 

 そして、通話を繋げてから帝の第一声が冒頭のあれである。

 

『知ってたって、何で?いつから?』

 

「知ったのはマジで偶然。夏休み前から」

 

『早い!てか前に俺お前に姉貴の様子がおかしいって相談したけど、その時から知ってたのか!?』

 

「…正確にはその直後だな」

 

『おい!』

 

 どうやら眞妃の失恋は帝の知るところになったらしい。というか今頃か。さすがに眞妃と違う学校に通い、総司が帝に何も伝えなかったとはいえ遅すぎる。

 

『こっちも色々と忙しいんだよ…』

 

 実際に口に出して問い掛けてみれば、疲れが滲む声で帝はそう返答した。

 まあ、四条が今、大事な商談をしているのは総司も知っている。そして、四宮がその商談の妨害をしているのも総司は知っている。

 無論、その妨害に総司は荷担していないが。

 

「まあ、あれだ。頑張れ。色々と」

 

『…て、そうじゃない、姉貴の事だ姉貴の事。何で言ってくれなかったんだよ』

 

「むしろ何で言えると思うんだよ。…あんなの見せられたら言わない方が良いって思うに決まってんだろ」

 

『…泣いてたか』

 

「泣いてた。泣き叫んでた時もあった」

 

『…すまん』

 

 総司が眞妃の事について言い淀んでいた理由を察した帝は先程とは違い、神妙な声で謝罪の一言を口にした。

 

「まあ、俺の方もすまなかったな。お前を騙してた形になった」

 

『いや。…俺も同じ立場だったら多分同じ事してた』

 

 しかし何であれ、帝を騙していたというのは変わらない。総司も帝に簡単に謝罪をする。

 

『しっかし、あの姉貴が恋ねぇ…』

 

「意外か?」

 

『お前だって驚いただろ?姉貴が恋してるって知った時は』

 

「…まあ、確かに」

 

 眞妃が恋していると知った帝の驚きは大きかったはずだ。多分、かぐやが恋していると総司が知った時と同じくらいには。

 

「お前はどうなんだよ」

 

『あ?俺?俺はあれよ。もうめちゃモテよ。週一ペースでコクられまくりよ』

 

「ははは、盛るなよ」

 

『…すまん、週一は盛った』

 

 笑いながら帝に発言の修正を求めたが、実は本気だったりする。そして総司の発言は当たっており、帝は自身のモテ具合を盛っていた。

 

『いやでも告白はされてるぞ?最近も後輩女子に校舎裏に呼び出されてさ』

 

「そんでカツアゲされたと。あははははは」

 

『違ぇーよバカ!』

 

 総司は笑い、帝は怒鳴る。対称的な様子の二人だが、会話を楽しんでいるのは二人とも同じ。

 対等な友人と話すのは、今の二人にとって何にも代え難い一時なのである。

 

『で?そういう総司はどうなんだよ』

 

「ん?何が?」

 

『恋愛だよ恋愛。秀知院ってそういうとこ緩いだろ?それこそ週一でコクられてたりすんじゃねぇの?』

 

 今、帝は恐らくニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべているのだろう。手に取るように解る。

 しかし残念、総司は帝の期待に応える事は出来ない。

 

「残念ながら俺はこれっぽっちもモテてない。告白もされた事ない」

 

『え?告白された事ねぇの?一度も?』

 

「一度も」

 

『…何か、スンマセン』

 

「お前、トイレットペーパーで絞め殺されたいか?」

 

 完全なる上から目線。対等な友人はどこへ行った。総司はこの時、明確に帝よりも下の立場だった。

 

『まあ、一度で良いから女の子と付き合ってみろよ。結構良い経験になるぜ』

 

「上から目線腹立つ…」

 

『上だしな』

 

 みしっ、と総司の握るスマホから音が鳴った。

 

「付き合う相手がいない」

 

『いやいや、一人くらいいるだろ、親しい女友達。それすらいないのか?』

 

「いや、女子の友達ならいるけど…」

 

 頭に浮かぶのは千花と圭の顔。早坂は友人というより家族に近いし、まず第一に二人の関係上そういう関係になるのは不可能である。

 そのため今、総司とそういう関係になる可能性が高いのは千花と圭の二人。同い年で会う機会が多い千花が一番可能性が高くなるだろうか。

 

『案外、その友達もお前の事が好きだったりするかもよ?』

 

「あはははははは」

 

『…え?何でここで笑われんの?もしかしてバカにされた?』

 

 千花や圭が自分の事が好き?そんなはずがない。確かに嫌われてはいないしむしろ好意を持たれているとは思う。

 しかしその好意は恋愛感情ではなく、人として、一友人としての好意だ。

 

「それはねぇよ。そんな素振り一度も見せたこと…」

 

 笑いを収め、軽く息を整えてから総司は口を開き、そして言葉の途中で止まる。

 

 思い返すのは過去の千花や圭の自分に対する言動や行動、自分に向ける表情の数々。

 

「…あれ?」

 

『どうした?』

 

 帝が総司の異変に気付き声を掛ける。しかし、総司の耳にその声は届いていなかった。それ程までに今の総司は余裕を失っていた。

 

(待て。いや、待てホントに待て。今まで全く意識してこなかったけど、仮に帝の言う通り俺に好意を持ってると仮定したら…)

 

 異性に自分が着る水着を選ばせたり、わざわざ高等部の校舎まで来て勉強を教えに貰いに来たり、異性に下の名前で呼ばれたがったり、仲が良かったはずが突然険悪になったり。

 

「あれ?あれぇ?」

 

『おい、マジでどうした。救急車呼ぶか?』

 

 混乱する総司。この混乱を医者が治してくれるのなら是非そうしてもらいたい。だが現実は無情、そんな事は不可能である。

 

(いや、落ち着け俺、クールになるんだ。Be koolだ)

 

 正しいのはcoolである。この男、かなり動揺している。

 

(…でも思い返せば思い返すほど辻褄が合う。いや、まさかそんな…)

 

『おーい、そろそろ俺悲しくなってきたぞー』

 

「うるせーちょっと黙ってろ」

 

『ひでぇ』

 

 帝の阿呆に構っていられない。いや、待て。そうだ、帝だ。今ここには帝がいるじゃないか。いや、実際にいる訳ではないが、こうして通話が繋がっている今、これを利用しない手はない。

 

「なあ帝、これは俺の友人の話なんだが」

 

『ははは!何だよ急に、お前の話だろそれ』

 

「友人だ。友人の話だ」

 

『はいはい、お前の友人の話な。それで?』

 

「…女友達に水着選びに付き合わされたって相談を受けてな。どう思う?」

 

『どう思うって、何が?』

 

「いや、その女友達が、その…、俺の友人を好きなのかどうかって」

 

『まあそりゃ、好きなんじゃねぇの?好きでもない相手に自分の水着選んでほしくないだろ常識的に考えて』

 

「…」

 

 いけない。

 

「…帝、もう一つ受けた相談があってな」

 

『あー、またお前の友人の話か?』

 

「そうだ。その子は学年でもトップクラスの成績の兄がいるのにわざわざ高等部まで勉強を教えて貰いに来るらしい。これはどう思う」

 

『んー…。まあ、さっきのパターンみたいに確実とまではいけないけど、可能性は高いんじゃね?』

 

「…」

 

 これはいけない。まずい。まさか二人ともアウトとは思わなかった。

 

『…お前の話だろ』

 

「違う」

 

『あっはっはっは!いやー、我が友人に春が来たようで俺も嬉しいなぁ!』

 

「違う」

 

『何だよ、モテないとか言ってた癖にしっかりモテてんじゃねぇか。さっすが四宮次期当主』

 

「それ関係ねぇだろ。あと違う」

 

 否定はするが恐らく通じてない。帝はこの話に出てくる総司の友人が実は総司の事だと間違いなく気付いている。

 いや、一番の問題はそこではない。これからこの話について帝にからかわれたりするのだろうが、それは一番の問題ではない。

 

 問題は、千花と圭の二人とこれからどう接していけば良いのかである。

 勿論、これは帝が言っているだけであり、勘違いの可能性だってある。これが勘違い、自意識過剰ならそれはそれで良い。だが、もし帝が言った通りならこれからどう二人と接していけば良いのか。

 

「…あっつ。何か今日暑くね?冷房つけようかな」

 

『は?いや、結構冷えてるだろ。俺今暖房着けてるぞ?』

 

「…」

 

 おかしい。こんなに()いのに何言ってるのか。住んでる場所は当然違うが同じ東京、そこまで部屋の温度が違うとは考えづらいのだが。

 

『いやー、今日は良い話が聞けたな。しっかしあの総司がねー…。何か進展あったら聞かせろよ?』

 

「おい」

 

『あー、解ってる。誰にも言わねぇよ。そこは信用してくれて構わないぞ?』

 

「そこじゃねぇよ。進展も何もねぇよ。俺の話じゃないんだから」

 

 無駄と思いつつもこう言い返す事しか出来ない。ここで認めたら、何かが壊れてしまいそうだ。今でさえ色々と沸騰しそうなのに。

 

『そんじゃ、これ以上からかったらブチギレられそうだし切るわ。じゃあな』

 

「…あぁ。またな」

 

 最後にまた総司をからかってから通話を切る帝。結局総司がやられっぱなしのまま通話が終了してしまった。

 

(…帝に彼女が出来たらからかい倒す)

 

 スマホをスリープモードにしてから真っ暗な画面に視線を落としながら心に誓う総司。

 

 しかし、誓いとは裏腹に胸の奥では全く違う事を思っているのは言うまでもない。

 

 ずっと、そういった事から遠ざけられてきた。次期当主として嘗められてはいけないと勉強、体験はさせられたが経験はゼロである。

 本心で誰かを愛した事はない。愛された事もない。というより、自分がそうなるとまだ考えた事すらなかった。

 

 そんな総司が突然、女の子に好意を持たれていると気付いたらどうなるのか。

 

(…あああああ、マジでどうすりゃいいんだ?ちか…や、け…いにどんな顔して会えば良いんだ!?)

 

 答えはこれ。近くに本人がいる訳でもなし、そもそも口に出している訳でもないのに下の名前で呼ぶのが気恥ずかしくなってしまっている。

 

「ああああああああああ──────」

 

 総司の声は掠れて途切れる。しかし以降、何度も何度も総司の唸り声は自室に響き渡るのだった。




使用人という壁はでかすぎる
総司(使用人と主人の恋とか現実じゃあり得ねぇし)
この固定観念のせいで早坂スルーされる
皆さん、総司を殴ってどうぞ

それと一つ報告します
次の土曜日、投稿しません
理由はかぐや様アニメのTwitterをご覧ください
私はそのツイートを見て土曜日の予定が一瞬で埋まりました

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