四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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四宮総司は歌いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳だから、総司も合コンに参加してほしいのよ!」

 

「どういう訳だよ」

 

 かぐやにメールで呼び出されたと思えば開口一番、合コンに参加しろと言われた総司。無表情のまま冷たくかぐやに言い返した。

 

 体育祭が終わって一週間、盛り上がりの余韻も薄れ、いつもの日常が戻ってきた秀知院学園。近い内にまた、文化祭という大イベントが待っているがそれもまだ待ちわびるには先の出来事。

 いつもの授業を熟し、帰って財閥の仕事を熟す、そんな総司の日常は変わらず過ぎていく。

 

「お願いよ!このままじゃ会長が一人で盛り場に行っちゃうのよ!」

 

「盛り場って…、たかが合コンだろ?」

 

「何言ってるの!?合コンというのは男女がつがいを求めて乳繰り合う盛り場なのよ!?早坂が言ってたわ!」

 

「…早坂?」

 

「…」

 

 まだ全貌を掴めてはいないが、どうやら白銀が合コンに参加するらしいという事は解った。そしてそれに対してかぐやが危機感を覚えているという事も。

 しかし、まあ男女がつがいを求めてという点まではともかく、乳繰り合うって。盛り場って。そんなのヤリパじゃないか。

 

 そして、かぐやに合コンとはそういうものだと吹き込んだという早坂に視線を向ける。

 早坂はすぐに視線を逸らした。吹き込んだかどうかはともかくとして、かぐやの勘違いを正さなかった事は本当らしい。

 

「てか白銀が合コンに行くって、俺には信じられないんだが」

 

「会長を誘った人は他校との交流会って言って誘ってました。恐らく合コンだと気付いてないのだと思います」

 

「あー、なるほど…」

 

 白銀は中々の堅物である。そういった催しに参加するとはどうしても思えなかったのだが、どうやら友人に騙されているらしい。騙してる友人は悪意ゼロなんだろうが。

 

「お願い総司…!」

 

「やだよ。てかそんな所に行ったってバレたら面倒になる」

 

「そこを何とか!」

 

「無理」

 

 かぐやの頼みを一蹴する。さすがに妹の頼みでも嫌なものは嫌だった。かぐやの言うような盛り場ではないものの、合コンに参加する輩など性欲にまみれた汚物だ(総司個人の意見です)。そんな集団に入っていくなんて、想像するだけで身震いしてしまう(総司個人の意見です)。

 

「そう…。なら仕方ないわね」

 

「?」

 

「早坂。やっぱり一人で行って貰うしかないようだわ」

 

「おい」

 

 自棄にすんなり引き下がったと思ったら、何て事を言い出すのか。

 

「いやいやいやいや、さすがにそれは駄目だろ」

 

「ですがこのままでは会長が汚れてしまいます!」

 

「大丈夫だから。白銀はそんなんで汚れたりしないから」

 

「卑しい女に目を付けられたりしたら…」

 

「あああああああああ、もおおおおおおおおお…!」

 

 ハイライトが消えていくかぐやの目を見ながらため息を吐く。

 

「大丈夫です総司様、私にお任せください。この身がどんなに情欲に汚されようとも、会長だけは救ってみせます」

 

「そういう言い方はやめろ!」

 

 何だこれは。まるで総司が悪者の様ではないか。総司に無理強いしようとしてるのはかぐやで、早坂を性欲まみれた汚物の集団(総司個人の意見です)に放り込もうとしてるのもかぐやなのに。

 何で女を振り回す最低男みたいな感じになっているのだろうか。

 

「…解ったよ、行けば良いんだろ」

 

「総司っ!ありがとう!大丈夫、早坂も一緒に行かせるから!」

 

「おい」

 

 早坂を庇うつもりでひきうけたのに、まさかの早坂同行という現実。早坂に視線を向けるが、とっくにこうなる事を知っていたかの如く平然としている。

 まさか、全て承知の上だったのか。二人で手を組んで嵌めたのか。

 

「…お前ら覚えてろよ」

 

「「え」」

 

 地の底から湧いてきた様な低い声がかぐやと早坂の二人に向けられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…来てしまった」

 

 周囲は盛り上がっている。歌い、踊り、飲み、食べ、すでに男女のペアが出来上がっているのも見受けられる。

 総司は右手にコップを持ち、周囲を見回す。白銀は入り口付近で秀知院学園の制服を着た友人と話している。あの様子から、予想通り白銀はこの交流会が実は合コンだったとは知らなかったと思われる。

 

 これで、かぐやは一つ安心できる要素を得る事が出来たという訳だ。白銀は自分の意思で合コンに参加した訳ではないと。

 

 因みに早坂はその白銀の傍にいる。背中まで伸びる髪は早坂が着けているウィッグ。普段よりも胸元が豊かに見えるのはパ◯ド。完璧の変装である。あれを見て早坂愛と繋げられる者はいないだろう。

 

(何て言うと思ったか。いや、何故バレない?やっぱりパッ◯か?◯ッドの力なのか?)

 

 ウィッグは着けているものの髪の色はほとんど変わっていない。目はカラーコンタクトを着けているが、こう、雰囲気から早坂だと解らないのか。

 まあ、白銀と早坂は殆ど交流がないから気付かれないのかもしれないが。

 

(しかし、早坂の私服なんて久し振りに見たな)

 

 周囲の女子に比べて良い意味で浮いていた。恐らく変装なしでも今と同じくらいに似合っていた事だろう。

 総司の隣から、早坂を気にする男の話し声が聞こえてくる。あぁ、早坂が狙われている。どうするべきか、止めるのは不自然すぎるし、先に初対面を装って声を掛けるべきか。

 

 しかしそれだと白銀に近付くというリスクを冒す事になる。総司は早坂と違って白銀との交流が豊富だ。変装しているとはいえ、バレる可能性は十分ある。

 

 言うのが遅れたが、総司も変装している。金髪のウィッグを着け、度が入っていない眼鏡を着用。早坂と同じ様に制服ではない。かぐやと早坂に今の総司の姿に合うコーディネートを選んでもらい、その服を身につけている。

 そのせいか、総司本人は気付いていないが早坂と同じく良い意味で周囲から浮いていた。ちらちらと見てくる女子がいる複数いる事に総司は気付いていた。その理由は解っていないが。

 

「ねぇねぇ!君は歌わないの?」

 

 早坂と白銀の様子を悟られぬよう然り気無く見遣っていると、総司の隣に座っていた茶髪の女子に声を掛けられた。

 活発そうな印象を受ける服装をした女子だった。総司にタッチパネルを差し出しながら距離を詰めてくる。

 

 まあこの場にいて全く歌わない方が不自然か。総司はタッチパネルを受け取り操作を始める。すると、総司にタッチパネルを差し出した女子が更に距離を詰めてくると、総司が操作するパネルの画面を覗き込んできた。

 

「うわぁ、それ英語の曲だよ?君…えっと…」

 

「…あぁ、()()()()。よろしく」

 

「うん!私は中臣富美加!よろしくね?えっと…、奏汰くん」

 

 いきなり下の名前呼びという距離感の狭さを披露する。こういうのは、あれだ、ビッチというやつか。いや、さすがにまだ殆ど話した事もない相手をいきなりビッチ認定はしないが。

 

「奏汰くんは英語得意なの?」

 

「まあ。日常会話は問題なく出来ると思う」

 

「えっ、スゴいね!私、英語は全然ダメなんだぁ…」

 

「英会話と授業の英語は違うぞ。俺も英語の成績は今一だから」

 

 嘘である。こんな事を言っているがこの男は知っての通り学園内では一度を除いてトップを守り続けてきた。そんな男が成績が今一なんてあり得るはずがない。

 しかしそんな事を知る由もない中臣は「へぇ~、そうなんだねぇ~」なんて言っている。完全に騙されている。

 

「…?」

 

 パネルを操作して曲を予約し終え、ふと視線に気付く。入り口の方から。早坂がいる方から。というか、早坂から。

 睨まれている。別にいつもと変わらない様子に見えるが総司には解る。あれは睨んでいる、何故かは知らないが。

 

「奏汰くん、どうしたの?」

 

「え?…いや、何でも」

 

「…あのすっごく綺麗な人が気になるの?」

 

 総司が視線を向けていた方を見て、誰を見ていたか悟られてしまった。いや、まあ気になっていたというのは事実だが、恐らく中臣の質問に込められた意味での気になるではない。

 だから総司は首を横に振る。

 

「そういう訳じゃない。ただ、向こうがこっち見てたから何だろうって思っただけ」

 

「あー…。奏汰くん、人気ありそうだもんね。彼女は…いたらここには来ないか」

 

 こうして話していると、初めに中臣に抱いた印象とはまた違った印象を受けてくる。茶髪、派手な服装とかなりチャラけた外見をしているが会話をしていると中臣本人から穏やかな印象を感じる。

 

「あ、奏汰くんの番だよ?」

 

「あぁ…」

 

 すっかり曲を入力していた事を忘れていた。テーブルに置かれていたマイクを手に取って電源を入れる。曲のイントロが流れ、総司はマイクを口元に近付ける。

 

 先に言っておくが、総司は歌下手ではない。どこぞの生徒会長の様にちょっと苦手とかではない。自信があるという訳ではないが、音痴ではないと自負している。普通に全校集会では校歌は歌えるし、何なら中等部時代の合唱コンクールの曲でソロパートを任された事もある。

 これで音痴な筈がないだろう。音痴だったらソロパートを任される筈がない。

 

 普通に歌う。総司のお気に入りのこの曲は、時間の合間に良く聞いており、入浴中に口ずさむ事だってある。ネイティブ、とまではいかないがそれに近い発音の英語で歌を披露する総司に視線が集まる。

 

「─────…?」

 

 四分半の曲が終わり、マイクを置く。そこで気付く。やけに静かな事に。

 総司が歌っている途中から皆聞き入ってしまい静かになっていたのだが、歌を楽しんでいた総司はここまで気付けなかった。

 

「奏汰くん…。凄く歌上手なんだね…」

 

「いや、そんな事は…」

 

「そんな事あるよ!英語もすっごく上手だし…、私感動しちゃった!」

 

「そんな大袈裟な…」

 

 言葉通り、本気で感動しているらしい。中臣はキラキラと瞳を輝かせて総司の目を見ている。総司としてはむず痒く感じてしまう。

 

「…」

 

 で、ふと総司は視線をある方向に移す。

 その方向は入り口の方、つまり早坂と白銀がいる方。

 

 先程まで静まり返っていた部屋は総司に続けと歌い出す者達の盛り上がりで、総司が歌い出す前より更に騒がしくなった。

 そんな中、周囲の騒がしさと裏腹に早坂から向けられる視線は更に冷たくなっていた。

 

(いや、何故だ)

 

 白銀が何が何だか解らない様子で早坂と総司の方をキョロキョロと視線を行き来させていた。そして、総司もまた白銀と同じ様に何が何だか解らない。何でここまで早坂は機嫌を悪くさせているのか。

 

(マジで何で?)

 

 総司の内心の呟きは、誰にも届く事はない。

 そうして、合コンは尚も続くのである。




もう何も辛くないも早坂に嫉妬されたい

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