わっしが初めてシカゴにやってきたのは頑是無いガキのときであった。かーちゃんに連れられてやってきたのだ。やたら古くさい感じの街で、わっしはあんまり好きじゃなかったな。かーちゃんは建築や美術が好きなので、フランクロイドライトの建てた家と、シカゴ美術館を見に来たのだ。フランクロイドライトが建ててかーちゃんが好きな家をかーちゃんの運転で見に行った。やたら家の中が暗かったのをおぼえてるな。
そのとき、その街で会ったおっちゃんが「日本はフランクロイドの傑作を叩き壊したゆいいつの国だ」とか言ってたのをおぼえておる。なんだかえらい非文化的な言われような感じがして微妙な気持ちになった。 かーちゃんが、どんな反応をしていたのかもうおぼえてない。わっしはそれからかーちゃんに強制連行されてシカゴ美術館につれていかれた。死ぬほど退屈だったぞ。かーちゃんは、美術館や画廊にきたときの悪い癖を出して、何時間もへーきで歩き回る。わっしはもうおしっこちびりそうなほど飽きて退屈で死ぬかとおもった。しつけのいいガキだったから必死で耐えたが、かーちゃんがわしよりも美術品やなんかのほうが好きなのは、これから息子として生き延びてゆくのにはおぼえておかんとやばい、と考えた。
アラトンホテルとかなんとかいう名前のくそ古いホテルに泊まったらリフトが何十分も来ないので死んだ。朝、一緒に待っていたスーツ姿にブリーフケースの綺麗な若いおねーさんが、リフトが来ないのに焦れてものすごいF言葉で罵ったので、わっしはびびったな。シカゴで得た2番目の教訓。ねーちゃんというものは見た目が麗しいからといって優しいとはかぎらぬ。
それから、わっしは自分だけで何度か来ている。
くるまを借りて真冬のインターステートハイウエイをメンフィスに近い小さな町まで300キロくらい運転していった。道はどこまでもどこまでもまっすぐで、降り積もった雪が風に舞いあげられて道路を横切る。 そのうえ景色はどこまでもどこまでもおんなじで、気が狂いそうであった。ときどきアメリカのばかでかいトラックが地平線の向こうからやってきてすれ違う。
アメリカって、こーゆーところなんだなあー、とわかったようなわかんないようなことを考えた。
ラスベガスの帰りにおもいついて寄ったのだ。
わっしは「Somewhere In Time 」
http://www.somewhereintime.tv/
という映画が好きなので映画の舞台であったグランドホテルというホテルに行こうとおもった。アフリカンアメリカンのかっこいいねーちゃんと知り合いになったので、ねーちゃんと遊ぶのが優先でやめちったけどな。
わっしは今回は運転はしたくない。
空港からブルーラインでダウンタウンに行った。
後ろの席に座ってたアフリカンアメリカンの浮浪者のおっさんが「なあ、にいちゃん。いまのはハーレムだったよな」と突然えらい勢いで話しかけてきたので、「そうですよ。いまのはハーレムだった」と答えたら、いろいろな、しかもぜんぜんつじつまのあわない話をして5つめくらいの駅で降りていった。
それから、しばらくしたら隣におとなしく座って窓の外を見ていたやっぱりアフリカンアメリカンの2メートルくらいあるバカデカイにいちゃんが突然立ち上がって「みんな聞いてくれ!おれはこの電車から降りてえんだ!どうやって降りればいいか助けてくれ!助けてくれ!助けてくれ!」と地団駄踏みながら電車が壊れそうなくらいでかい声で叫びだしたので、わっしは真剣にびびった。
にいちゃんの腕がふところに伸びていってピストルをつかみだしたりしないかどうか凝っと見ていた。にいちゃんは電車のドアが開くと地獄に堕ちてゆく人のような絶叫をあげながらホームへ飛び出していった。
ピンクラインに乗り換えて、目的の駅で降りた。
缶からをもった、にいちゃんが寄ってくる。わっしは1ドルやる。
にいちゃんは礼も言わないで次のマヌケめざして歩いていった。
もっとも、わっしが彼のひとでも礼なんか言わんけどな。
前にはいなかったチューゴクのひとがたくさんたくさんいる。シカゴにはもとから大勢いるブラックブラザーたちはチューゴクのひとやニッポンのひとのようにカシコクないので、虚ろな眼で歩いている。
生き抜く知恵があるということは、なんという醜いことだろうとわっしは考えます。
わっしも考えるのをすっかりやめてブラックブラザーたちと一緒に地獄を巡るべきなのではないだろうか。狡猾にたちまわってうまく生き延びてゆくことなんかに何か意味があるのか。
角のファーマシイに寄って今夜飲むワインを買ったらレジのアフリカンアメリカンのおねーちゃんが「どこから来たの?」と訊くので「ニュージーランドだぜ。へんなアクセントだろ?」と言うと、ねーちゃんが「違う違う、そうではなくて、私の母親はスコットランドで生まれたイギリス人。あなたの英語が母親の言葉に似ていたから訊いてみただけなの。
失礼だったら謝るわ」
「おんや、そうかね。それなら当たり前ですよ。わっしのかーちゃんはスコットランド人だからな。きっと、そのせいだろ」とわっしは言いたかったが言えなかったのは、口をひらくと泣き出してしまいそうだったからだぜ、ねーちゃん。
わっしがやっとの思いでニッと笑うと、ねーちゃんはカウンタをまわってきて、わっしのためにドアを開けてくれた。一緒に外に出てきて、「寒いね」と言う。
「また、あおうね」と言う。
高架の上の駅で、わっしはしゃがみこんで泣いてしもうた。
なんでだか、ちょっともわからん。
やっとの思いで立ち上がったら、チューゴクのひとたちがわっしを指さして笑っておった。
うるせー、勝手に笑え、バカヤロー。
画像は、シカゴのオヘア空港に向かうフリーウエイ。
滑走路のひとつに着陸する飛行機はこの高速道路に沿って降下してきます。
(この記事は2008年1月に「ガメ・オベール日本語練習帳 ver.5」に掲載された記事の再掲です)
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> もっとも、わっしが彼のひとでも礼なんか言わんけどな
と
> 生き抜く知恵があるということは、なんという醜いことだろう
が好きです。
破滅というかはちゃめちゃというか、そういう衝動一切なしに、黙々とも目標に向かって上達を望む人生のつまらなさよ。