気候変動対策は「勝ち筋」CO2削減コストを減らすには

(写真左から)関山健(京都大学准教授) 三宅香(JCLP共同代表) 沖大幹(東京大学教授) 

──日本企業の意識はどう変わってきたのか。JCLP設立の背景やご活動内容を教えてください。

三宅香(以下、三宅JCLPは、気候変動問題にきちんと企業として対応しなければならないという意識を強くもっている企業のネットワークです。脱炭素社会を構築することを目的として、自らも積極的に行動することにコミットしています。確かに、移民、難民問題は日本企業にはピンとこないかもしれないですが、グローバルな経済的、政治的安定がなければそもそも企業として経済活動もできません。企業存続、世界平和のため、各社が取り組もうとしています。ただ、一企業として何かしたから何かが変わるものでもない。企業同士で連携し正しい情報を手に入れて、一社では取りづらい対策も一緒にやることで、力を大きくしていこうと考えています。

私自身は、長く小売業界にいて、脱炭素問題やサーキュラーエコノミーといった環境問題に取り組んできました。今は三井住友信託銀行で、金融の立場から業界に横串を通して、顧客の脱炭素支援や、脱炭素社会構築に向けた最適解を探しています。

関山:日本にとっても、気候安全保障のリスクは小さくないんです。例えば北朝鮮や東南アジアから、災害の激甚化で数百万の難民が発生する可能性があるし、東南アジアは非常に気候変動に対して脆弱な地域なので、ここにサプライチェーンとマーケットを依存している日本経済の脆弱さもあります。

さらに、回遊ルートの変化などにより日本周辺海域で漁業資源をめぐる対立も激しくなるでしょう。特に、広大なEEZ(排他的経済水域)を持つ沖ノ鳥島の水没は深刻で、この海域では日中の攻防が激化しかねません。
関山健◎京都大学大学院総合生存学館准教授。専門は気候安全保障、経済相互依存、米中関係など。1975年、愛知県生まれ。財務省、外務省で勤務後、東京大学、北京大学、ハーバード大学の各大学院で学ぶ。2019年より現職。博士(国際政治)、博士(国際協力)。  

関山健◎京都大学大学院総合生存学館准教授。専門は気候安全保障、経済相互依存、米中関係など。1975年、愛知県生まれ。財務省、外務省で勤務後、東京大学、北京大学、ハーバード大学の各大学院で学ぶ。2019年より現職。博士(国際政治)、博士(国際協力)。

緩和対策コストと被害の綱引き

──そのような気候安全保障上の問題を未然に防ぐためにも、気候変動対策を推進するのに何が足りないのでしょうか。

沖:やはり、コストの問題が大きいと思います。温暖化の影響は温度が上がるにつれて悪化します。熱中症も生物多様性の損失も増加する。最近の研究によると、温室効果ガスの排出を削減する、緩和対策コストは気候変動による被害のコストとほぼ同じでした。生物多様性の損失や、人の健康被害を貨幣換算して足さないと緩和対策にかかる費用のほうが高くなるぐらいなんです。

脱酸素のコストは、この20年でかなり安くなりましたが、もっと安くなれば、みんなすぐやる。教条主義的に意識を変えるのは難しい。緩和対策コストを下げないと、温暖化の対策は進まないと思います。
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インタビュー=成相通子 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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世界56位と57位のパワフルウーマンから、妹たちへ。東京都知事と日銀理事が初対談

日本銀行理事の清水季子(左)、東京都知事の小池百合子

米フォーブスは毎年「世界で最も影響力のある女性100人」を選出する「The World’s 100 Most Powerful Women」を発表している。

欧州委員会委員長、欧州中央銀行総裁、ゼネラルモーターズCEOやアクセンチュアCEOらの名が並ぶ最新のリストに、日本からただ2人の女性がランク入りを果たした。日本銀行理事の清水季子(56位)と、東京都知事の小池百合子(57位)だ。

清水は入行以来、女性総合職のトップを走り、欧州統括役のロンドン事務所長などを経て、日本銀行創設以来初となる女性理事に就任。

一方の小池は、テレビ業界から政界入りし、環境大臣や防衛大臣など要職を歴任し、現在は女性初の東京都知事として都政にまい進している。

“女性初”を積み重ねてきたふたりが、フォーブス ジャパンが主催する女性リーダーの集いに揃って登場し、初のトークセッションが実現。女性をめぐる日本と世界の現状、そして新時代の女性リーダー像について語り合った。


国際会議で「あの日本から女性の代表が!」と驚かれてしまう

小池:「Most Powerful Women」に選んでいただき、光栄です。これまでリスクを恐れずにさまざまなことに挑戦してきた自負はあるのですが、私自身は“Most Powerful”だと感じているわけではないんですよ(笑)。

清水:私が受賞を知ったのは、G20会合に出席するためインドネシアを訪れていたときのことでした。バリの空港に降り立ったところ、同行していた財務省の方が「こんな記事が出ていますよ」と教えてくれたんです。「えっ、そうなの⁉️ 知らなかった!」って(笑)。

小池:清水さんはグローバルの舞台でキャリアを積まれてきて、国際会議に出席されることも多いのでしょうね。

清水:そうですね。日本の金融業界は男性中心で、とりわけ日本銀行は優秀な男性がこぞって応募してくるような組織。私はそういう環境下にいながら国際会議に出向く機会が多いので、今回の選出につながったのかもしれません。

一方、海外を見渡してみれば、ファイナンスの世界でも、アメリカのジャネット・イエレン財務長官をはじめ、重責を担うポジションで活躍している女性はたくさんいます。

いまや、G7クラスの国際会議でも、半数くらいの国の代表者が女性なんですよ。そういう場に私が赴くと、「あの日本から女性の代表が来るなんて!」と、驚きをもって受け止められます。
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文=音部美穂 写真=小田駿一

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