2023/08/09 (水) 18:00 46
各地を駆け巡り働きづめだった7月を終え、ややお疲れの中川誠一郎。復調ムードのなか久しぶりのGI復帰に備えます。引退疑惑を吹き飛ばすような豪快なよもやま話で競輪の魅力を紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】
ーー先月、話に出ました500勝祝賀会に関する問い合わせが何件かありました。日にちなど詳細は決まったのでしょうか。
10月29日に熊本市内でやるのは決定しました。ほかの詳細はまだ詰めている段階なのでもう少しお待ちください。
ーーファンの方の参加希望も多いです。
うれしいですね。どんな形で募集するかを運営局が考えている最中です。ただ、実費ですから、遠方の方には負担がかかってしまいますが。
ーーこういうイベントはどのような方々を招待するものなのですか。
10月のあっせんが出ていないから何とも言えないですけど、まずは地元や九州の選手。あとは同期とか仲いい選手、例えばワッキー(脇本雄太)とかになるのでしょうけど、実費で来てもらうわけだから九州以外の人にはなかなか声をかけづらいんですよ。
ーー全国各地の仲間に来ていただきたいけど負担はかけたくないと。
声をかけるとしたら同期なら川村(晃司)さん、(吉田)敏洋の500勝仲間、このコラムのレギュラー枠で東口(善朋)、友達の(對馬)太陽さんとかでしょうが、あくまであっせん次第。何なら、ここで募集しましょう。
ーー何をでしょうか。
10月29日に熊本まで実費で来てくれる同期もしくは仲のいいと思う九州以外の選手がいましたらオレ個人に連絡をもらえませんか、と。
ーーコラムの私物化が甚だしいです。
くわしくは来月あたりにはわかると思いますので、またご報告します。
ーー7月は千葉のPIST6、玉野FI、佐世保FIと3本走りました。
久しぶりに月3本を走りました。体が持たないのでだいたい月2本ですから。
ーーなぜ7月は3本走ったのですか。
玉野はファーム(GIの裏開催を中川はこう表現する)だったのと、佐世保は地元地区だったから。あとは空いたところでアルバイ… いや、PIST6のタイミングも合ったんです。
ーー玉野では決勝に乗りました。準決では自力を出すなどいい感じでした。
久しぶりに小野(俊之)さんと会えたのがうれしかったです。膝をケガして、ちょっと戦線から離れていて、復帰2場所目だったそうです。
ーーお元気でしたか。
話しかけたら開口一番「あ、新人の小野です、またイチから頑張りますんで」みたいに言ってくるんですよ。その雰囲気に既視感があって。
ーー既視感とは。
大塚(健一郎)さんですよ。昔、どこかで復帰してきたときに「新人の大塚です。名刺配りで競りに行きます」とか言っていて。大分のノリなんでしょうか。芸風が似ている(笑)。
ーー小野選手と大塚選手は高校の先輩、後輩の間柄でもありますよね。
やっぱ、そういうのも引き継ぐんですかね。他の人からは一切、聞かないフレーズだから。
ーーどうあれ“新人・小野俊之”は背筋が伸びます。
キラーワード(笑)。あんな威圧感ある新人いませんって。でも、小野さんのレースを久しぶりに見たけど相変わらず技術がすごかった。
ーー追込のテクニックというところですか。
オレはずっと“小野俊之”に憧れていたので。だから小野さんが後ろのときは逃げていたし、レースが面白い。単純に逃げてしまった方がラインとしてカタいじゃないですか。
ーー憧れの選手とかいたのですね。
小野さんといると、いまだにファン目線になるし久々に生で見たらイキイキしているんですよ。まくった選手は止められなかったけど、番手の選手をドカして2着みたいな。準決も単騎で追い上げて筒井(裕哉)を削って叩き込んだり。
ーーいつもより声が弾んでいますね。
「もう、あのアタリはカネを取れますよ。芸術です!」って本人にまくしたてたぐらいですから。見ていて音が出ているほどのアタリなんです。まさにカネを取る競輪だと感じました。PIST6にはないやつ(笑)。
ーーまた、怒られますよ。そういうことを言う割には、「PIST6」の世話になっているじゃないですか。
もちろん、そうですよ。オリンピアンとして元・競技者として大事なものですし、レギュラーで出させてもらっていますからこれからも頑張ります。PIST6最高! コスパも最高!
ーー先日、優勝したので気持ちよくなっていますね。
ケガから復帰後、初の優勝だったんですよ。ようやく結果が出たし、走ってよかった。もう千葉には足を向けて眠れません。
ーー話は戻りますが、それほど小野選手に大きな刺激を受けたということですね。
“小野俊之”はいつまでも特別な存在ですし、全盛期を知らない若い子らにすごさを伝えていくのが使命だと思っています。直後の佐世保では“新人・小野俊之”を意識する場面がありました。
ーーどういうことですか。
決勝は荒井(崇博)さんを背負ってライン4車の先頭でやったんです。ちなみに準決もライン4車の先頭でした(苦笑)。
ーー決勝は北九州の2選手(松尾透、嶋田誠也)が3、4番手を固めました。
決勝選手インタビューで「4人の先頭で頑張ります!」って言ったんです。そうしたら、ヒラマサ(平尾昌也)さんに「おお、何か新人みたいだな」って言われて、玉野の小野さんを思い出したんです。
ーー「新人」つながりですか。
まさにそんな感じで。「新人の中川です! もう22年も選手をしていますが、荒井さんの地元なんで4車の先頭で頑張ります!」ぐらいの気持ちですよ。もう44歳なのに。
ーーとてもベテラン選手のコメントには思えません。
玉野から中3日でしたし、小野さんの影響が色濃く残っていたのでしょう。佐世保は荒井さんの太鼓持ちシリーズぐらい気楽だったのに、初日に(伊藤)颯馬が欠場してしまったのが痛恨でした。
ーーその初日特選は伊藤-荒井の3番手でした。普段、荒井選手と一緒のときは中川-荒井の並びですし、ここは伊藤-中川-荒井だと思っていました。
佐世保じゃなければ颯馬の番手を回ったかもしれないけど、そこは荒井さんの地元なので。流れとしては自然でしたよ。
ーー初日は3番手に折り合い、決勝では先頭で自力って、お二人の関係性は面白いですね。
いかにも荒井さんっぽいでしょう。理不尽の極みって感がありますから(笑)。ただ、オレも似たようなことを玉野でやってしまったから、何とも複雑な気持ちであります。
ーー玉野では何があったのですか。
初日特選からの流れで。ここにも颯馬がいたのですが、番手を(橋本)強が主張したんです。
ーー初日の九州は中川-中村(圭志)、伊藤後位を塚本(大樹)と橋本が競りと、二手に分かれました。たしかに4車結束しないのには少し違和感がありました。
4車で並ぼうか迷ったんです。でも、オレが強と競っても、圭志と大樹に迷惑をかけるだけでしょう。もちろん颯馬にも。
ーー追込型の橋本選手が相手ではさすがに分が悪いです。
そこで大樹が競りたそうにしていたから、颯馬に大樹、圭志、オレで並ぼうってなったんです。
ーー九州でまとまるために折り合ったのですね。
でも圭志が「誠一郎さんの前は絶対に回れません。どうなっても後ろです」って言うんですよ。オレは点数順で4番手でもいいのに。大樹は九州がたとえ別々でも競るって言うし、それなら別でやることになりました。
ーー事情はわかりましたが別に理不尽ではないですし、佐世保の話とリンクしているように思えません。
問題は決勝で、九州は4人いて颯馬にオレ、大樹、(松尾)信太郎と並んだんです。
ーーそういうことですね。何か言いたいことがわかってきました。
過去の実績ならオレが上だけど、初日のことを踏まえると大樹が颯馬の番手を回るべきなんです。でも大樹が「絶対に回れません。次元が違う」って拒んだんです。
ーー中村選手と同じく格や実績を重んじたんですね。
何回言っても「初日は自分が勝手に競っただけなんで」って頑なで、結局オレに番手を回してくれました。
ーー形は違えど、佐世保の荒井選手と状況が似ているということですね。
初日は颯馬に付かずに自力でやって決勝は番手かよ、みたいな。第三者が見たらオレがわがまま言ったみたいな並びですし、同じことをしているように見えるでしょう(笑)。
ーーそれでも、荒井選手は佐世保を優勝しています。
それがオチでしょうね。荒井さんは勝ったけど、オレは大樹に抜かれて2着でした。勝つにはもっと我を通してオレがオレがをした方がよかったのかな…。永遠のテーマです(笑)。
ーー塚本選手が優勝したならまだよかったじゃないですか。
本来なら大樹が堂々と颯馬の番手を回って優勝するのがスジと思ったけど、結果的になるようになった。初日の頑張りが報われて何よりと思いました。
ーー並びを巡るエピソードには当事者たちしかわからない流れや思いがあるのですね。
小野さんに決勝の並びの経緯を報告したんです。そうしたら小野さんが興奮気味に大樹に「おい、お前すげえな!」って褒めに行っていました。譲れるし譲り合うし、その辺の折り合える追込選手としての考え方やオレらの関係性が心に響いたみたいです。
ーー追込選手にしか分からない感覚ですか。
玉野のあとに合志(正臣)さんにも話したら「誠一郎と大樹、2人の気持ちはすごくわかるよ、うん」ってうなずいてくれました。さすが競輪の黒帯たちにはわかるみたいです。
ーー優勝を逃したとはいえ、決勝で確定板に乗ったのも復帰後、初めてでした。その日の酒は美味しかったんじゃないですか。
その日に熊本へ帰って、駅からその足で寿司屋に行きました。日本酒が沁みましたね。うまかった! 久しぶりにいい酒でした。ただ、そのあとに思わぬハプニングがあって。
ーーどうしたのですか。
店を出て、帰ろうとしたら「誠一郎さん〜」って後ろで誰かが叫んでいて。変な予感がして振り向いたら大樹と颯馬だったんです。
ーー偶然ですか。
バッタリですよ。こっちはもう家に帰るモードだったのに、そのまま飲み屋に連行されました。優勝されるわ、大量に飲まされるわで、うれしかったです。
ーーさて、今月15日から西武園GI「第66回オールスター競輪」が行われます。久しぶりの特別戦線です。
103点そこそこしかない選手を送り出してくれるのですから、ファン投票してくださった方々に感謝しかありません。荒井さんも「ファンサービスしていて良かったな。もし、オレじゃ選ばれん」って喜んでくれました。
ーー今年も佐世保を走ってからの西武園ですね。
去年は佐世保記念でバンクレコードを出して、決勝は(山田)庸平の前で発進して、勢いづいたままオールスターと思ったけど、体調を崩してすべてがパー。あれからオレの競輪人生は激変しました。
ーーオールスター(西武園)を体調不良で欠場したのち、翌月の共同通信社杯(名古屋)では鎖骨骨折でした。
そこからはもう地獄みたいな日々でした。FIの予選から2日目の一般戦に落ちると、1着を取らなきゃ最終日の特選に乗れないとか、あの流れを初めて知ったんです。
ーーこれまでFI戦では、ほぼほぼ初日特選スタートでした。
2日目に1着を取れなきゃS級点が取れない。もはやS級界の地獄ですよ。あるとき予選で飛んで、2日目ぐらいは勝てるとたかをくくっていたら、河端朋之の前に目標がいて、河端の番手まくりで5着に沈んだ。こんなの万全でも負けるわ(苦笑)。
ーーここ最近の成績を見るとようやく、持ち直してきたように感じます。
今は底から脱したし、地獄を見たことで何か大きくなりましたね。「シン・ゴジラ」、「シン・仮面ライダー」みたく「シン・誠一郎」になった気がします。
ーーオールスター、活躍を期待しています。
直前には荒井さんや(嘉永)泰斗、(中本)匠栄らと合宿をして備えてきます。1年分の思いを吐き出しに行ってきますので、地獄のファーム落ちから這い上がった男の生きざまを見ていてください。
Q、500勝達成の記念に誠ちゃんオリジナルタンブラー作って欲しいです。誠ちゃんと一緒に飲んでいる気持ちになれそうなので♡ 酔ったらトレイントレインやっちゃうかも! 女だけど笑。(群馬県/30代/女性)
タンブラー、いいですね。採用します。あとはタオルとかでしょうかね。トレイントレインですか。これは表に出せないでしょうからオレの前でストリップみたく、オンリーダンスでやってくれればいいですよ。
Q、選手にはあまり興味がないとのことですが、引退後の解説のお仕事なんかにも興味はないのですか?(熊本県/20代/男性)
もう興味しかないですよ(笑)。もしも本業になったとしたら今の10倍ぐらい勉強します。YouTubeにも出ますし予想会とかトークショーに呼ばれれば尻軽にどこへでも参上します。だけど、マスクを被って「熊本仮面」とかはなぁ…(笑)。
Q、♯23にアップされていた写真で中川選手が何の漫画を読んでいたのか気になって仕方ありません。題名を教えてくださいお願いします。(奈良県/30代/男性)
こんなマニアックな質問が来ると思いませんでした。『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』という本です。競輪とは何の関係のない漫画です。この手の質問、嫌いじゃないです。
Q、お酒の失敗談をお願いします。(栃木県/30代/男性)
最近、記憶がよく飛びます。この間は親戚の人と家飲みしていて、盛り上がったから街に出たら2軒目からの記憶がないんです。そのあと家に帰って「君の名は。」のDVDを見て号泣していたそうで、そんなオレを見たウチの子ども2人が気味悪がっていたと後から聞きました。44歳、困ったものです。
Q、伏見(俊昭)選手のコラムに記されていた、食堂での提供の遅さに『遅かと!』とキレていた○井選手、中川選手のコラムによく登場する有名な選手で想像通りでしょうか?(埼玉県/50代/男性)
伏見さんのコラムの愛読者ですから、そのエピソードはわかります。コラムにあった場面には立ち会っていませんが間違いない。きっと、あの人です。だけど、こんなの日常茶飯事ですって。他地区の人たちはこの程度のことでビックリするのですね。オレたちからすれば通常ダイヤで何の乱れもありませんよ。朝起きたら歯を磨いたり、人に会うと「おはよう」って言いますよね? それぐらい普通の話です。
Q、500勝の祝賀会、行きたいです。(埼玉県/30代/男性・木原翼)
麻雀プロの方たちにもぜひ来ていただきたいですね。Mリーグが始まっているかどうかって微妙な時期だからタッキー(滝沢和典)さんらが来てくれるかは難しいけど、木原君は強制的に参加ですね。酒瓶を持って待ってます。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。